乾杯
高校1年生、15歳の天音雫です!
何かと至らない点があると思いますが読んでいただけると嬉しいです!
「「「「いらっしゃいませー」」」」
店内に入ると、店のあちこちで作業していたスタッフとエルゼンが一斉に声をあげた。
「噂には聞いてたけど、やっぱり異質な光景だよな」
レンが頭に手をやり店内を眺め回す。
イートインスペースの片付けをするエルゼン、接客をするエルゼン、ドーナツをあげるエルゼン、ショーケースの補充作業を行うエルゼン……
『エルゼンが大量』
「何体かは私が破壊しちゃいましたが、生き残りは全員、ルーカスさんの意向でこの店で働いてるみたいですね。
この異質さがバズってるとか何とか……」
零の言葉通り、店の中はお客さんで溢れかえり、大混雑だった。
エルゼンも人間のスタッフも、忙しそうに動いている。
「働き手不足とはいえよくこんな案が通ったわよね…」
「みんな!ドーナツ何が良い?
僕のおすすめはね、このスペシャルストロベリークリームサンドチョコレートがけドーナツ!」
「ずいぶんと甘そうなドーナツですね」
「まぁ、記念日だし皆でそれにするか」
「本当?!やった!!
皆でお揃いなんて嬉しいなぁ。
あ、このスペシャルストロベリークリームサンドチョコレートドーナツ6個お願いします!
あ、ここで食べます!
あ、イートインだと後払いなんですね、分かりました!
……はい、7番の席ですね、ありがとうございました!」
いつの間にかショーケースの前に立ち、おすすめを宣伝、そして流れるように注文し終えるリアムは一種のプロだった。
トレーに6人分のドーナツを乗せ意気揚々とこちらに向かってくるリアムはあの日見せた悪魔の恐ろしさの欠片もない無邪気な子供のようだった。
あの日から、黒い翼だけは生えたままだが。
逆にあの日まで何処に隠していたのだろうか。
そんな疑問を抱く零の耳に、
「7番のテーブルだって!」
「ああ」
「はいはい、わかってるわよ。」
『美味しそう』
『初めて見た』
和やかな会話が流れ込み、そんな些細な疑問は泡となって消えた。
「どうかした、零?」
「……いえ」
「……そう。何かあったらすぐに言うのよ。
全員あんたの味方なんだから。
ほら、行きましょう?」
そっと袖をひかれ、零は笑みをこぼした。
本物の優しさに触れることは、凍りついた心を溶かす手段なのかもしれない。
全員で長椅子と、”7番“と書かれた飾りが置いてあるテーブルが備えられた場所に座る。
全員が落ち着くと、レンは晴れやかな笑みを浮かべながらトレーからドーナツを、一つ取った。
それを機に、全員が一つずつドーナツを、取っていく。
全員が取り終えたところでレンはドーナツを小さく掲げた。
「それじゃあ、脱線成功の、安全団のメンバーになったことを記念してーー」
「「「「『『乾杯!』』」」」」
ドーナツ同士をグラスのように軽くぶつけ合ったあと、各々それにかぶりつく。
「やっぱりドーナツ最高!!」
「うまいな!」
「甘いわねー。
でも、思ったより美味しいわ」
『凄いしっとり』
『苺とチョコの味する』
目を輝かせる面々と同様に零も目を、どころか心を輝かせていた。
何かを食べるという行動は、飲まず食わずで生きていけるロボットである零にとって無縁の行動だった。
皆と同じものを食べて、皆と同じように会話して。
もう零はチップに動かされるロボットではなかった。
このドーナツショップに来る前に、ルーカスと交わした会話を思い出す。




