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10年後の現在


自分がいた部屋は、いつも暗かった。暗くて狭い部屋の中、無機質な機械音だけが響いていた。




だけど、【その人】が来ると、暗い部屋は、途端に無数のネオン色の光で満ちる。




その光に照らされて、部屋の中の様子は明らかになり、自分は【その人】の指示を待つ。




【その人】は、まず、部屋の中央にある大きなスクリーンとコンピューターに向かう。そして、部屋の中にある数本の筒の中の“モノ”を観察し、調整する。




それを自分は、ずっと見つめる。


その瞳に、筒の中の“モノ”が虚しく映る。




筒の中の“モノ”に一切の興味を持たずただ【その人】を見つめ続けていた。




そしてその人は、コンピューターの前から離れ、自分の前に来る。そして、口を開く。




口の動きと遅れて声が耳に、聞こえる。




言葉として、頭に届いていない。




しかし、脳に意思が、命令が、響き渡る。




その命令を、理解していない。


なのに、体は動き出す。




首にかかった水晶の飾りが、瑠璃色に輝く。




足が、進む。




一歩、一歩、と自動的に、機械的に、進む。




部屋の出口ー【その人】がこの部屋に入ってきた場所―へと足が向かう。




足が、止まる。




ドアの目の前で、止まる。




指先が、ドアへと手をかける。




背後、声が聞こえる。


「じゃあ、気をつけてね。××××××」




音を立てて、ドアが開く―否、開けている。


自分の手が。




背後を振り返ることも許さずに。




機械的に。




意思とは、関係なく。




ドアの外へと、踏み出す。




後ろ、【その人】がどんな表情を浮かべていたのかは、知らぬままに。




後ろ手にドアを閉める。


脳の中で命令が再び響き渡る。


再生される。




そして、部屋の外ー初めて出る部屋の外を、迷うことなく突き進んでいった。全ては、【その人】の命令を果たすために。
















部屋を出ていった少女を見て、自分は会心の笑みを浮かべた。そして、ぐるりと部屋を見渡す。




部屋の中には、筒が数本おいてあり、そのすべてが蛍光色の光を放っていた。




そして、その筒からは、無数の管が伸びていた。再びコンピュータの前に向かう。




その筒と管を操作する。その時、バイブ音が響き渡った。




白衣のポケットから、乱暴にスマホを取り出す。




―着信。




スマホをスワイプする。




「ーーーもしもしぃ?」


スマホの向こう側から、声が響く。




中性的な、聞き慣れた声がいつもどおりに響く。


「………………もしもし」




気だるげに、そう返す。定期通信は、まだのはず。その思惑が外れ、筒いじりを邪魔され、不機嫌になっていた。その声音の違いを、相手は聞き逃さない。




「んんー?………お取り込み中だったかなぁ?」




「……………………別に。ところで、何の用だ?定期通信はまだだろう?


何か問題でもあったのか?」




コンピュータを無造作に弄り、声が低くなるのを抑えながらそう尋ねる。




「う〜〜ん、問題………というべきか……………」




「焦らすな。さっさと言え。」




のんきな声音を一刀両断する勢いで遮り、目的を問いただす。




こいつとは、いつまで経っても気が合わないし分かり会えない。




「う〜〜んとねぇ…………君のぉ……作ってた自信作の子が居たじゃぁん?」




のらりくらりした喋り方に激高しそうになるのをかろうじて堪える。




「ああ……青水晶の、な……それがどうした?」




「あの子ぉ…………ちょっと、危ないかもぉ………」




「は?危ない?どういうことだ?」




急に意味のわからないことを言い出し思わず声を荒げる。




理由も言わずに結論から言うというのは、こいつには世界一向いていないことだと、思っていたが、やはりそうらしい。




「………何で、危ないんだ?エラーか?水晶の不具合か?故障か?」




「はぁ………もう、ちゃんと最後まで聞いてよぉ…そんなに質問攻めにされてもわかんないよぉ〜」




舌打ちをした。スマホ越しに怒鳴りつける。




「お前が意味のわからないことばかり急に言うからだろうが。話の終わりもクソもあるか。とにかくそう思った理由を言え。理由を」




わざとらしいため息が聞こえる。




「はぁ……ほんとに怖いんだからぁ。僕ぅ、泣いちゃうよぉ?」




自分の中でブチッと何かが切れる音がした。




そのまま電話を切ろうとしたその瞬間だった。




声音が急に変わり、声が響いたのは。




「………僕の勘が、ーーーそう感じただけ」




低い声で、言葉をはっきりと響かせる。




自分の背筋に怖気が走るのを感じた。




こいつの話し方と声が変わったときは、決まって“何か”が起きた。




ならば、おそらくそれは今回も例外ではないだろう。




いつもの話し方も癪にさわるが、変わったら変わったで落ち着かない気分にさせられる。




どちらの喋り方でも相手の気に障るとは、なかなかの能力の持ち主だ。




「…………ッ、とにかく、わかった。俺もあいつのことは逐一監視している。…もし、何か問題があったら、報告頼む。すぐに処理する。」




スマホ画面の向こう側から、笑い声が聞こえる。




「ふはっ、こわぁい。んじゃあ、僕の言いたいことはそれだけだからぁ、じゃあねん」




いつもの喋り方に戻り少し安心したのもつかの間、




「………お前、俺に伝えたかったことはそれだけなのかよ?!」




耐えきれずスマホに向かって激高する。しかし、スマホからは、ピー、ピー、という、通話が終了した音声が流れるだけだった。




「………………あいつ……」




スマホ画面を睨みつけながら、一人つぶやいた怒りは、本人は愚か、他の誰の耳にも届くことなく宙へと霧散した。


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