山の上のテロリスト
超幻獣、そして神人類と名乗る謎の存在との初戦闘から一夜が過ぎた。
王国内は戦闘によって受けた被害やらなんやらに追われているようだが、不思議とマギアのことには一切触れようとしていない。
まぁ地下のダンジョンで各国の研究員が集まって色々やってたんだ。
上層の人間どもにゃ、とっくに話が通っていたのだろう。
そんなクレイダニア王国の地下にあるダンジョン内――実質的にはマギアの極秘研究施設だが――にある医務室で処置を受けていたフェリカが、3機のマギアマシンが格納されているフロアへと戻ってきた。
「よォ。ケツの穴にスライムを詰め込まれたような顔してんじゃねぇか」
俺は自分の愛機であるマギア1号機の上であぐらをかきながら、頭を抱えて立っているフェリカを見て言った。
「ただの貧血よ。このへんの不調は回復魔法じゃなんともならないのが辛いところね」
「で、そろそろ話せよ。超幻獣のこと」
「……てっきりバカだから忘れてんじゃないかと思ってたわ」
「バカっていうんじゃねぇ。勉強不足なだけだ」
まぁいいわ、とフェリカはマギア2号機の装甲にもたれかかって話し始めた。
「機神マギアが王国の地下ダンジョンで見つかったのが10年前。そして解析を続けているうちに、マギア・エネルギーとそれによる高度な演算結果に辿り着いたの」
「えんざんけっか?」
「要は未来予測ってこと」
「マギアってそんなにすげぇモンなのか……」
「その未来予測によれば、昨日の夜に王国の上空に渦が出現。そこから巨大な怪物が現れて人々を殺戮する……とあった。その巨大な怪物を我々《世界防衛研究所》は、マギアに元々あった怪物に関するデータをもとに、ドラゴンやユニコーンなどといった魔法生物の俗称、幻獣になぞらえて“超幻獣”と名付けたの」
「名付けの親、お前らかよ……」
「バハムートもそのひとつね」
「いいセンスしてるぜ」
「我々の目的はただ一つ。マギアを正しく運用し、超幻獣とそれを創造しているであろう神人類と呼ばれる存在から世界を守ることよ。そのためにもまず」
フェリカはマギア2号機の装甲を叩いて、俺の目をまっすぐ見た。
「2人目の適格者を探し出さなければならない」
「そりゃお前らの仕事だろ? 探偵ごっこは俺の性分じゃねーよ」
「それについては諜報部が既に情報を手に入れているわ。あなたの仕事は私とともに、その人物に会いに行くこと」
「情報がありながらも正規パイロットとして迎え入れなかったってことは……俺みてぇに、ワケありな野郎ってわけか」
「ええ。彼女はリリアンヌ・マーキスハルト。現在クレイダニア王国第一王子の殺害未遂で指名手配されている、正真正銘のテロリストよ」
俺は「凶悪犯のお仲間にピッタリだな」と笑ってみせた。
◆
クレイダニア王国北部にある山脈に俺とフェリカはいた。
このあたりは冒険者をやっていた頃に何度か訪れたことがあるが、強力なモンスターがうじゃうじゃいる魔境として有名で、Sランク冒険者パーティーでも入念な準備をして入山するというスポットだ。
そんな場所で短いスカートに半袖のカッターシャツ(サイズが合っていないのか、胸元が飛び出している)という、軽装オブ軽装のフェリカが口を開く。
「景色が綺麗ね……」
「オイオイオイ、ピクニック気分ったぁ余裕じゃねぇか」
「領域魔法を使えば、自分の周辺の気温を整えるぐらいは簡単よ」
どおりでさっきからクソ暑いはずだぜ……俺は防寒ように着込んでいたボロいコートと赤のマフラーをリュックサックに仕舞って、フェリカと同じ軽装になって山登りを再開した。
本来ならドラゴンの一匹や二匹、飛んできてもおかしくない状況なのだが、それもすべてフェリカの領域魔法で追い払えているらしい。
正直言うとめちゃくちゃ助かっているが、それと同時になんだか悔しくなってきやがる。
今まで俺たち冒険者がしてきた努力はなんだったんだ……。
「さすが聖女ってヤツだな。嫌味で言うわけじゃねぇが、そんだけ色々できたら贅沢暮らしは当然できただろう。どうしてこんなことしてんだ?」
「そんなに良いものじゃないわよ。嫌な世界だった」
「……そうかよ」
「ええ……。本当は――」
フェリカがなにかを言いかけたとき、その言葉を遮るように地面が盛り上がってきて、大きな影が俺たちの行く手を遮る。
腐乱した肉片を踊らせながら曲刀を振り上げたのは、兵士のアンデットだった。
グロテスクな見た目の奴らはざっと見ただけでも5体以上……クソッ、めんどくせぇ!
「さすがの領域魔法も、地中からの敵はどうしょうもなかったか! いいぜ! こっからは俺の出番……」
俺の無属性魔法でブッ飛ばしてやる!と意気揚々に躍り出たが、その前に乱入者が現れる。
「悪いですが、奴らは私の獲物ですの」
日傘を差しながら俺の目の前に優雅に降り立ったのは、ボロボロのドレスを身に纏った女性だった。
そして流れるような動きで体をねじり跳躍。
両腕を使って“ステップ”を踏み、両脚を使ってアンデッドたちを“殴って”いく。
動きが上下逆転しているのだが、あまりにも流麗な動きの前に違和感の一切が消失していた。
あれはたしかカポエラとかいう武術だったか……。
瞬く間にアンデッドたちを地に伏せさせた後、ボロボロのドレスの女性は動かなくなった奴の上にまたがり、日傘の先端を構えて叫んだ。
「おファックですのよッ!」
そして何度も日傘の先端でアンデッドの残った肉の部分を突き刺し、突き刺し、突き刺し続ける。
「この一週間ッ! 自由とは名ばかりの山ごもり生活ッ! 王宮の大便器の中のほうがまだ快適ですわッ! それもこれも子種製造マシーンに成り果てた第一王子のクソゴミ野郎のせいですのよ! なにが真実の愛でございますかッ! 結婚しろよ、オラァッ! 私を王妃にしろよ、オラァッ! 権力よこせよ、オラァッ! マザーファッ!」
アンデッドの骨は砕け散り、肉はこねてもハンバーグにすらならないほど微塵となった頃、ようやく彼女の手は止まった。
「はぁッ……はぁッ……ふぅっ……」
まるで人生の目標の1つを達成したときのような爽やかスマイルを浮かべた、ボロボロのドレスの女性は額の汗を拭う。
俺はともかく、フェリカは絶句していた。
まぁそりゃ刺激強いわな。
「日課にしているのですわよ。アンデッドならある程度倒しても蘇ってくださるので、ストレス発散にちょうど良いのです」
「この世の終わりみてぇな日課だな……」
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