覚醒
マギア・ウィザードは追撃とばかりに、上空から急降下してフレイへと向かう。
「《無属性魔法:ブラスト》!」
しかし魔法による衝撃を伴った右拳は、フレイの人差し指一本で止められてしまった。
「なに!?」
「ふむ、なるほど……人間が使う魔法とかいう技も、機神サイズで出力されたらこうなるのか。想定以上だね」
ビクともしねぇ、クソッ!
『アキト! 奴の傷が!』
メイスによって打ち砕かれていたはずのフレイの顔面が、いつの間にか元通りになっていた。
「野郎! 回復魔法か!?」
「魔法なんてマギア・エネルギーの劣化版を出力させたもの、使うわけないじゃないか。なにより僕らにとって、マギア・エネルギーは忌むべきもの……」
マギア・ウィザードを振り払って、その巨体を大地に叩きつけながらフレイは悠然と語る。
「この力は《ギフト》さ。僕たち神人類に与えられた至高の力……」
『魔法の反応じゃない……これは、概念そのものを操作しているっていうの!?』
「僕のギフトは《超高速治癒》さ。その名の通り、体に受けた傷を瞬時に治癒する。いくら殴ってこようが、次の拳が打ち込まれる頃には全回復しているってこと」
俺は血反吐を吐き捨てながら、マギア・ウィザードを立ち上がらせた。
「ご丁寧にどうも……ッ。だがよ、ンなこと言われて諦めるものかよ」
『……アキト。奴の力に現状で対抗できる手段はないわ』
フェリカの弱音を掻き消すように、マギア・ウィザードはフレイに向かって行っては吹っ飛ばされて、痛めつけられるのを繰り返していく。
「世界守るために何もかも捨てた女が、今さらなに言ってやがる!」
『撤退よ! ここでマギアを失うわけには……』
「うるせぇ! 一度やると決めたなら、俺は絶対に引かねぇ! 屈しねぇ! 誰かの都合で自分を曲げたら、死ぬまで取り返しがつかねぇんだよ!」
フレイの力は強大だった。
超高速治癒もさることながら、基本的な身体能力においてもマギア・ウィザードを圧倒してやがる。
何度も地面に打ちつけられ、マギア・ウィザードのHPがみるみるうちに削られていく。
「目の前に壁があるなら、回り道なんかしてられねぇ! ブチ壊せるまで殴り続けるだけだ!」
『バカ! 壊せない壁だってあるでしょ! 時間を置いて考えれば、また別の道が……』
「時は解決してくれねぇ! 壁は壁のまま、壊さねぇ限りは在り続けるんだ! 俺はそんなものに屈したくはねぇ……屈さないことで、今まで生きてきたんだよ!』
やがてマギア・ウィザードは力を失い、フレイに頭部を踏みつけられていた。
「ははははは!!! 無様だなぁ……所詮は猿の足掻きっていうことかな? 無駄なんだよ。猿ごときが神に抗おうなんてさ。人間と神人類じゃ、天と地ほどの差だよ。この世界でいうステータスというもので比べてみようか? ステータスオープ――」
「バカ言うんじゃねぇ。俺はステータスッてんのがクソほど嫌いなんだよ……」
状況は絶望的だ。
しかしマギア・ウィザードの眼には依然として炎が宿っていた。
「人を勝手に数字で表しやがって。スキルがなんだ。《料理スキル》がなきゃ、料理人になっちゃいけねぇのか! マナレスなら魔法使いになれねぇのか! 生まれつき【知力】が低い野郎が、辞書引いて必死に勉強してなにが悪いってんだ!」
俺は今まで何度も泥水をすすって生きてきた。
マナレスだからとバカにする人間、差別し侮蔑する人間、いいカモだと騙し喰らう人間……たくさんいた。
皆は言うだろう。
マナレスだから仕方がないんだ。俺たちが身の程を知って生きるしかない。適応しなきゃ、と……。
どうして他の野郎のフザけた都合で、俺たちは自分を曲げなきゃいけねぇんだ?
「ゴミみてぇな数字並べて、俺を“決めつけんじゃねぇ”! 俺は……俺自身を、誰にも決めさせねぇ! 俺を決めるのは俺だ!」
「感動的なセリフだね」
フレイはトドメといわんばかりに右手に剣を召喚させ、マギア・ウィザードの胸部に突き立てる。
「だが無意味だ。抗ったところで、神には届かない」
「それでもなァ! 俺には抗い続ける生き方しかできねぇんだよッッッ!!!」
感情が爆発した。
たとえ俺を生んでくれた母ちゃんだろうと、毎晩酒浸りで俺を殴りつけてきたクソ親父だろうと、Sランク冒険者パーティーのクズどもだろうと、神だろうと……俺は言いなりになんかならねぇ……!
俺は……ッ!
そのときマギア・ウィザードの中枢にて何かが発火する感覚がした。
激しく、猛々しく、全てを燃やし尽くすほどの炎が溢れだして、俺の体に注ぎ込まれていく。
『これはマギア・エネルギーが増幅していく!? でもどうして――』
「俺は最強無双の巨大機神で、お前をブッ倒すッ!」
スーパーロボット。それが何を意味するのかは分からねぇ。
だが、その言葉は俺の脳裏に唐突に浮かんできた。
マギア・ウィザードはフレイの突き立てた剣を掴んで押し返すと、もう片方の左手に拳を作って構えた。
「《無属性魔法:ブラスト》ッ!」
その魔法による衝撃はフレイの体を天へと打ち上げていく。
「なッ!? マギア・エネルギーにこれほどの力が残っていたというのか!」
抉れた右半身を即座に超高速治癒させたフレイの表情には焦燥が浮かんでいた。
『凄い……マギアの一部ステータスが上昇していくわ! それにスキルも解放されていく……』
【筋力】3500000 ⇒ 6789119 ⇒ 10938222 ⇒ 58109736 ⇒ 99999999 (Max)
【魔力】4000000 ⇒ 8981666 ⇒ 21781656 ⇒ 78716542 ⇒ 99999999 (Max)
・スキル
《未覚醒状態》⇒《覚醒【1】:超越魔法》
一度に大量のマギア・エネルギー(MP)を消費することで、必殺の一撃を放つ。
発動後、一時的にマギア・エネルギーが枯渇して戦闘能力が低下する。
「フェリカ、あとどれぐらい戦えそうだ?」
『領域魔法で合体状態を維持できるのは、あと60秒ほどよ』
「それだけありゃ十分だ」
俺はフレイに向かって中指を立てて叫ぶ。
「お前が何でも一瞬で回復するッてンならよォ! 一瞬で消し飛ばせば良い話だよなァ!」
「そんなこと不可能だ! 神相手に一撃必殺などありえない!」
しかし溢れだすマギア・エネルギーが、俺に確信を与えてくれた。
「ちょうどいい! 試してみようじゃねぇか!」
「待て! やめろ! それは危険すぎる! お前もただでは――」
「危険上等ッ! 危ない橋ほど面白れぇッてもんだろうがァッ!」
マギア・ウィザードは大地を思いっきり蹴り上げて天高く跳躍。
空中で機体をきりもみ回転させ、必殺の一撃を放つべく右足をフレイに向けて、
「《超越魔法:――」
周囲にマギア・エネルギーの螺旋が形成され、機体そのものがドリルのような形状となり、稲妻を帯びて空を引き裂く。
「――ブゥゥゥラァァァァスゥゥゥゥトォォォォォッ! キィィィィィィィィィィィックッッッ!!!!!》」
稲妻を帯びた螺旋の衝撃がフレイの体を飲み込んでいき、全身の細胞を削りとっていった。
超高速治癒? 間に合うものかよ!
「僕の《ギフト》が通用しない!? 嘘だ! 神人類の僕がやられるなんて、そんなの嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――ッ!」
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