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最後の適格者

 たった3人で魔王領を目指すなんて、冒険者やってた頃は考えたことすらなかったな……。

 俺はマギアマシン1号のコックピットから見える、竜の谷の光景を眺めながらそんなことを思っていた。

 切り立った崖がいくつも岩肌から伸びている渓谷で、遥か下にある谷底は白い霧に覆われて見えなくなっている。

 周囲を飛び交うのはドラゴンの群れ。

 本来であればSランク冒険者パーティーでも複数回にわたってアタックし、ましてやドラゴンの群れのいる中心部などにはけっして近づかない場所である。

 が、マギアマシンの性能をもってすれば、もはやモンスターなど背景の一部でしかない。

 そのことをドラゴンも気づいているようで、威嚇こそすれど攻撃してくることはなかった。

 野生の勘というやつかねぇ……。


『きゃーっ、ワイイですわぁ! これがドラゴンなのですわね!』


 リリアンヌはというと見たこともないドラゴンに対して恐れるどころか興味津々である。

 冒険者たちにとっては死神に等しい存在だったわけだが、外の世界を知らない貴族令嬢が見るとこういう反応になるのか?

 理屈では分かるが信じられねぇ……。


「ったく。そんなに良いものかねぇ。トカゲに翼が生えてクソ強くなっただけのモンスターじゃねぇか」

『誰だって知らない世界に触れれば、ワクワクドキドキするのでございますわよ!』

「俺は王宮のゴタゴタドロドロな世界に触れても、ゲロ吐きそうになるぐらいだろうがな」


 そんな会話をしつつも、俺は通信のチャンネルをフェリカに切り替える。


「調子はどうだ?」

『問題ないわ』

「無理すんなよ。お前は俺みたいに頑丈じゃねぇんだから」

『体調の回復に2日も貰ったのよ。これ以上は待っていられないわ』

「わーったよ。お前が必死なのは理解した。だがな、焦って急いだらそれだけ跳ね返ってくるものもあるってことは忘れんじゃねぇぞ」


 竜の谷を抜けて難所をいくつか過ぎたところで、ようやく魔王領へと到達した。

 乾いた大地にそこかしこから吹き出す紫色の煙のようなものは、地熱されて変質したマナの蒸気らしいが――灰色の空と重苦しい空気も相まって、瘴気のようにも見える。

 遠くには魔族たちの集落がいくつかあり、そのさらに先には魔王の居城を中心に街が広がっていた。

 魔都サイリウス――魔王領の首都ともいうべき場所であり、いまだに足を踏み入れて無事だった人間は両手で数えられるほどしかいないという。


「やけに静かだな……嫌な予感がするぜ」


 本来なら合体しておきたいところだったが、前回の戦いでフェリカの体に大きな負担が掛かることは知っていた。

 だからこそ俺は敢えて、合体するという選択肢を脳内から消し去っていた。


『……これは! 魔法の反応よ!』


 フェリカの声が響き渡ったと同時に、マギアマシンの動きが停止する。


「《領域魔法:ジェイル・オブ・ロック》……」


 半透明な長方形の結界に閉じ込められた3機のマギアマシンは、魔法を発動したであろう人物の目の前まで打ち落とされる。

 土煙が舞い上がるなか、光沢のある黒の鎧を身に纏った女性のシルエットが浮かび上がっていく。


「《領域魔法:スワンプ・シングス》。はやく出ないと、沼に沈んで死んでしまうぞ?」


 間髪入れずに次なる魔法を放ち、周囲一帯を沼地のような場所に変貌させる。

 3機のマギアマシンは瞬く間に沼へと沈んでいったため、俺たちは脱出を余儀なくされた。

 抵抗しようにも結界のせいでろくに動けねぇ……合体していれば話は別だったが。


「魔王軍の野郎か……!」

「野郎ではない。淑女と言え」


 マギアマシンから引きずり出された俺たちの前に現れたのは、煤けた金の髪を肩まで伸ばした蒼眼の女性だった。

 彫刻家が縮尺を間違えて彫ってしまった女神像のようにデカい図体、頭から伸びた2本の角に尖った耳……肌の色こそ人間と同じだが、間違いねぇ。

 彼女は魔族だ。


「淑女だと……!? おい、リリアンヌゥッ! 若干お前とキャラ被ってるぞ、コイツ!」

「全然違うでしょうに! というかこの状況を考えてくださいまし!」


 気づけばゴブリンやオークなどといった下級魔族が周囲を取り囲んでいやがった。

 こりゃ罠にハメられたってわけかね……。


「あなたは……カラレスさん、よね?」


 そんな中、フェリカは冷静に問いかけた。


「ああ。魔王軍七魔将の1人、領域遣い――カラレスだ。その顔……あなたはたしか……私の“後任の聖女”か?」

「既に私も聖女じゃないわ。今は別の使命を受けてここにいる」

「そうか……」


 まぁ自分には関係ありませんがね、とでも言いたげな表情を浮かべたカラレスは、右手に持った紫のオーラを帯びたクレイモアを突き出して、堂々と宣言した。


「天から現れし巨大な怪物を討伐したというその兵器、私たち魔王軍のものにさせていただこう」

「要は強盗ってわけだろ? こいよ、相手になってやる」

「この数を相手に、か。それは無茶というものだな」

「ンだと!?」


 たしかに数の差は圧倒的だ。

 だからって、はいそれと渡すわけにもいかねぇ。

 なにより喧嘩売られても買わねぇのは、一生後悔背負って生きていきますって言ってるようなもんだろうが!


「ここは一騎打ちといこう。他の2人は呆れかえっているようだしな」

「はぁ!?」


 振り返る。


「……脳ミソの代わりにスライムでも詰めておられますの?」とリリアンヌ。

「バカ……。こんな状況で、本当バカ……」とフェリカ。

「おい、お前らァ!」

「さっさとやるぞ。剣を抜け」


 リリアンヌとフェリカはこのザマだが、カラレスとかいう奴は“わかっている”タイプだ。

 いいぜ、気に入った!


「あいにく俺は(けん)と魔法で戦ってんだよ」


 ポケットに入っていた魔力結晶を左手に握り、右手は拳を作ってカラレスに向ける。

 相対するカラレスも片手に魔力結晶――マナレスの魔法使い同士の喧嘩ってのは人生初だな。


「その豪胆さは称賛に値する」

「……値しますの? バカなだけですのよ?」

「……魔族の世界ではそうなのでしょう」


 ひそひそ話をしているリリアンヌとフェリカをよそに、俺は地面を蹴りつけてカラレスへと突撃した。


「悪いな、先手必勝というやつだぜ!」

「――ですが豪胆さだけでは戦いには勝てない」


 カラレスはすかさず反応し、クレイモアを薙ぎ払うように振るう。

 一閃、しかし俺は回避した。

 バックステップを踏んで寸前でクレイモアの攻撃範囲から逃れた俺は、そのまま左手を前に出し、


「リーチなら魔法のほうが上だ! 《無属性魔法:シュート・インパクト》!」

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