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強襲、マギア・バルキリー!

「男は裸のくせに、女は布一枚つけてんのかよ。サービス精神ってもんが感じられねぇな」

「神人類に性別は存在しないので。さて、はじめましょうか。絶槍(ぜっそう)召喚」


 ノルンは蒼い刃の長槍――絶槍を生成し始める。アレが得物か……。

 見た目でいえば筋肉量、そして得物を構えるときの所作からしてフレイよりも数段劣っているように見えるぜ……こりゃ大したことないかもな。


『先手必勝でいきますのよ!』


 マギア・バルキリーはノルンが絶槍を召喚している間に、長剣を振り上げて超高速でノルンへと迫る。

 この速さ。ノルンの防御は追いつかないはずだ。


「巻き戻し」

『先手必勝でいきますのよ!』


 なぜか、リリアンヌの言葉が二度聞こえた。

 そして目の前からノルンの姿が消えている。


「早送り」


 刹那、上空からの衝撃が直撃したマギア・バルキリーは山岳へと吹っ飛ばされて背中を打ちつけた。


『がぁッ! な、なんですの!?』

「私のギフトは《時流操作》。“今”を起点に前後5秒間を自在に操作することができる。だから不都合な今があれば、巻き戻して先読みして対処することが可能なのですよ」

『自ら手の内を明かすなんて……。目隠しでチェスをするぐらい、相手を舐め腐った行為ですわね。反吐が出ますの』

「だってあなたが勝てる未来が見えないもの。早送り」

「くるぞ、リリアンヌ!」

『わかっていますわ!』


 ノルンは絶槍を構えて突撃してくる。チープな動きだ。しかし――。

 バカみたいに速かった。

 回避することができず、絶槍はマギア・バルキリーの右肩を貫く。


「早送りで時間を加速すれば、こんなこともできるのです」


 ノルンは俺たちを見下して、そう言いやがった






《リリアンヌ視点》


 それは紛れもなく“人生最大の危機”でありましたの。

 マギア・バルキリーの右肩が抉られると、自分の右肩の肉が削がれたような激痛が襲いかかってくる。

 歯を噛み締めて堪えているが、思わず涙が滲んでしまうほどそれは強烈でした。


「あなたたちを倒した後、どうしましょうか? まずは一番近くの王国から焼きましょうかね。ただ市民を焼き殺すんじゃ物足りません……」


 私たちを見下しているノルンは勝ち誇った表情を浮かべて語る。


「貧困層から虐殺していけば、奴らの「人生一つも良いことなかったじゃないかぁ」っていう嘆き声が想像できますね。上流階級から殺せば、彼らはきっと「バラ色の人生が崩壊していく、死にたくない~」って泣き喚くでしょうね。ああっ、どっちも捨てがたい……」

「で、それを見て貴女は薄汚い股を開いて、マスかきやがるのでしょうね」

「品性に欠ける発言ですね、それは」

「その空っぽの頭にブーメランが刺さっていましてよ」


 激痛が怒りによって掻き消されていく。

 全身の血液が沸騰しそうなぐらいに、私の感情は燃え上がっていました。


「神人類かなにか知りませんが、市民の命をなんだと思っていますの……」

「マギア・エネルギーに汚染された排除すべき異物としか」

「おファックですの!」


 私は中指を立てて、ノルンを睨みつけました。


「弱きを助けずして、なにが力ですか。力を持つ者としての責任をまったく理解されていないのですね……」

「なに?」


 幼い頃、お父様と一緒に貧民街を訪れたことがありました。

――こんなに苦しんでいる人たちがいるのに、どうして救おうとしないのですか! 

 そんな純粋無垢で残酷な子供の問いかけに、お父様はまっすぐ答えてくれました。

――私たちには多少の金はあっても、力はない。

――じゃあ力があれば、救えるのですか!

――ああ、そうだ。だからリリアンヌ、お前は力を手にしろ。そして高貴なる者の責務を果たすのだ。いいな?

 お父様は私に第一王子との婚約という力への道をプレゼントしてくださいました。

 同時に高貴なる者の責務、ノブレス・オブリージュの精神も教えてくださったのです。

 それが全てを失った今でも私を支えている。


「大層な槍持って時間操作して、やっていることが人間蹂躙オナニーだなんてお里が知れますわ。力を持つ者がそんな品性ではいけませんのよ。アキト……まだいけますわよね?」

『ああ、リリアンヌ!』

「これが私です。力を求めて足掻いたけれど、あと一歩届かなかった燃えカスのような女」

『お前みてぇな奴が、ンなことで燃え尽きてんじゃねぇよ! カスでも燃え続けろッ!』

「うるせぇですの! でも、たしかに……そうですわね」


 なんのために死に物狂いでスキルを取得し続けてきたか。

 なんのために己を殺して息苦しい王宮の生活に耐えてきたか。

 なんのために夢潰えた今でも高貴であろうとし続けていたのか。

 答えはひとつ。


「私のノブレス・オブリージュ道はまだ続いているのですから!」


 その瞬間、マギア・バルキリーの全身から緑色の光が溢れだした。


『マギアのステータス上昇を確認……! これはアキトの時と同じ……』

『いけ、リリアンヌ! お前の本気を見せてみやがれ!』

「承知いたしましたわ――」



【知力】7400000 ⇒ 9187111 ⇒ 35995431 ⇒ 76509812 ⇒ 99999999 (Max)

【敏捷】7100000 ⇒ 9005081 ⇒ 23445900 ⇒ 65000761 ⇒ 99999999 (Max)

・スキル

《未覚醒状態》⇒《覚醒【1】:粒子散布》

 マギア・エネルギーによって生成された粒子を周囲に散布する。



 マギア・バルキリーの眼光が鋭く光り、全身から緑色の粒子が吹き出されていく。


「ハッ! 目くらましなんて古典的な技、通用するとお思いですか! 早送り!」

「いいえ、無意味でございますわ」


 瞬時にマギア・バルキリーは反応し、ノルンの絶槍を長剣で受け止める。


「敏捷性が上がったのか! しかし無駄ですよ! 巻き戻し!」


 機体が教えてくれました、このスキルの使い方を……!

 加速するのは体だけではない。

 精神も同時に加速する。

 そして加速した精神は思考となり、拡張された知力によって超高度な計算式が脳内を駆け巡っていく。

 散布された粒子の揺らぎを観測し、それにより敵の位置や予備動作、身体コンディション、規則性、考えられるあらゆる要素を元に可能性と確率を割り出す。

 あらゆる自然現象による影響を加え、5秒先の未来を演算する――。


「いいえ、無意味でございますわ」


 巻き戻された時間のなかで、私は“敢えて”もう一度言ってやりました。

 背後からの奇襲に対しマギア・バルキリーは振り返り、左腕のハサミでノルンの右脚を掴み、


「あなたが5秒時間を巻き戻されるのなら、私が5秒先の未来を演算すればいい話なのでございますわよ」

「そんな滅茶苦茶なこと!」

「できるからこそのマギアですの! これが私の求めていた力、スーパーダーリンなんてもう必要ありません! 高身長、高出力、高機動――」


 私は脳裏に浮かんできた言葉を声高に叫ぶ。


巨大機神(スーパーロボット)こそ、運命の存在でしたの!」


 マギア・バルキリーは右腕の長剣を回転させ竜巻を起こして、その風圧でノルンの全身を拘束した。

 時間を早送りしようが巻き戻そうが、動けなければどうすることもできません。


「アキト! トドメは任せましたわよ!」

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