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騙されて、奈落の底に落ちて

「今この瞬間、お前をSランク冒険者パーティー《灯火の剣》から追放する~!」


 それを聞いたとき、俺は耳を疑った。

 ダンジョンの罠にかかって大穴に落ちるも、岩壁のでっぱりにしがみついた俺。

 必死に落ちまいと抵抗している俺を見下しながら、この男はそう言いやがった。


「俺たち、仲間じゃないのかよ……」

「人数合わせのためにスカウトしてきた奴らに、仲間の絆を求めるなんてなぁ……こいつ本物のバカだぜ!」

「ンだと、オイ!?」


 そりゃ誰だって、Sランク冒険者パーティーのリーダーから「パーティーに欠員が出たんだ。君みたいに優秀な魔法使いが必要なのさ。心配はいらない。生まれつきMP(マナ・ポイント)がゼロだったとしても実力さえあれば俺たちは歓迎するよ」なんて言われたら……。

 ついていくだろ、普通……。

 Sランクだぜ?

 ついに俺にもサクセスルートが見えてきた!みたいになるだろう!?


「新顔が消えたところで、誰も不思議には思わないだろうよ。先に歩かせて、発見が困難な致死トラップにかかってくれりゃ問題ないってな!」


 下種な笑みを浮かべるパーティーリーダーの男に並んで、剣士、回復術士、魔法使いの三人も笑い声をあげた。

 ……よく考えりゃ、魔法使いもう一人いるじゃねぇか!


「危険度SSS級ダンジョンだからなぁ! リスクを避けるための立派な手段ッてヤツだよォ!」


 畜生、まんまと騙されちまった……。

 きっとこいつらの“Sランク”は、こういう汚い手を使って手に入れたものなのだろう。


「まったくお前は馬鹿だなぁ! 生まれつきMPが0なマナレスは、知力も0なのかよォ?」


 マナレス――魔法を使うために必要なMPが生まれつき無い人間のこと、すなわち俺だ。


「えぇ……もっとマシなアイテム持ってると思ったのに……ゴミばかりじゃん。こんなの使い物にならな~い」


 回復術士の少女は「私、収納スキルあるから持っといてあげる~」と、俺に預けさせたバッグの中を確認する。

 そしてトイレの便器にこびりついたクソの汚れを見たかのように顔を歪ませ、金と魔力結晶(MPを含んだ結晶)だけ抜き出してその場に捨てた。


「まっ、君のことは命の恩“カモ”として覚えといてやるよ! ありがとう! 間抜けでいてくれて本当にありがとうな!」


 くそっ……クソッ……今そこで待ってろ、ブッ殺してやる!

 煽るように言ってきたパーティーリーダーに対して怒りの炎が燃え盛り、岩肌を掴んでいた右手に力を込めた瞬間。

 込めた力に耐えきれなくなった岩肌が砕けて、俺の体は支えを失う。

 そして奈落の底へと落ちていく。

 あ、これ死んだかも。

 最後に聴くのが下種野郎どもの高笑いなんて冗談じゃねぇ……。

 豚の鳴き声のほうが百倍マシだぜ!

 ……。

 …………。

 ……………………。

 …………………………………………。

 ……………………………………………………………………………………。


「はぁッ……!」


 俺は死んではいなかった。

 このダンジョンの大穴の罠で死んだであろう冒険者たちの人骨がクッション代わりになり、俺の体を守ってくれたのだ。

 ありがとよ、ガイコツ野郎ども。

 積み重なった人骨を血の滲んだ右手で撫でつつ、俺は視線を真上に向けた。

 差し込む光は僅か。

 もちろん梯子(はしご)などはない。

 いつもMPの代わりに使っている魔力結晶は奪われたので、魔法は使えないな。

 もっとも俺は無属性の攻撃魔法しか使えねぇし、それらが現状を打開できるとは思えねぇが……。

 あるのは荒削りな岩肌のみ。

 控え目に言ってクソな状況だった。

 それでも俺は生きることを諦めない。

 五本の指に最大の力を込めて、岩肌を掴む。

 鋭い凹凸が指先の皮膚を削っていく感覚があったが、痛みに悶えるほどヤワな精神はしちゃいない。

 ひとつ、またひとつと岩肌を掴んで登っていく。

 僅かな隙間、凹凸、足場は殆どない。

 冷たい空気と手先から滴る血の臭いが体力を奪っていった。

 見上げると、差し込んでいる光がほんの少しだけ大きくなった。

 諦めるかよ……。

 俺をクソみてぇなダンジョンに置き去りにしやがって……。

 絶対にブッ殺してやる。

 その執念のみが俺の体を支えていた。







     ◆

 夕刻。クレイダニア王国の冒険者ギルドの広間を貸切って、Sランク冒険者パーティー《灯火の剣》は危険度SSS級ダンジョン踏破を祝って宴を開いていた。

 パーティーリーダーは自らの武勇伝を語る。

 回復術士の少女が酒に酔ってテーブルを破壊しようが、誰一人として注意することなくバカみたいに笑い転げていた。

 そのうち剣士の女は体が火照ったと言って服を脱ぎ始め、魔法使いと“おっぱじめ”始める。

 そのうち全員が生まれたままの姿になり、酒を全身に浴びながら快楽の海へと肉体を沈めていく。

 そこに秩序は存在しない。

 市民の目など気にしない。

 だって冒険者で、Sランクで、優秀なのだから。

 世の中から認められているから、なにをやっても許されるのだ。

 っと……でもコイツらは考えてんだろうな。


「楽しそうだなァ……俺も混ぜてくれよォ……」


 薄汚れたコートを羽織った俺は、岩肌を掴み続けてボロボロになった手で両開きのドアを開け、Sランク冒険者パーティーの宴の中へと入っていく。


「な!? どうしてお前がここに!?」


 うろたえるパーティーリーダーに向かって、俺は言ってやった。


「地獄の底から帰ってきたぜ、クソッタレ」

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