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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

The Butterfly Dream Overdose

作者: セクト

彼の指が私の背中を撫でる。

私の口から声が漏れる。

そっと撫でられているだけなのに、体が快感を覚える。

その快感のせいで表情が歪んだ顔に彼の顔が近づき、彼が私の唇を貪るので、私も彼の唇を貪る。

私達の接吻が静かに響き渡る。

ああ、感触がとてもいい。

この気持ちよさが、私を生物たらしめる、いや、人間たらしめるものだと思う。

逞しい腕でベッドに押し付けられた私は、彼のなすがままに体を預け、体を貫くことを許可した。

彼の激しい愛は二人の感情を高ぶらせる。

彼が私に欲望を吐き出した瞬間、私も絶頂を迎え、そのまま眠りに落ちた。



---


そんな夢を見た。

不気味なほどにリアルで、まるで自分で経験したような夢だった。

俺が女だったこと以外は。

ベッドの上で目覚めた瞬間は、どちらが夢なのか分からなくなる。

少しずつ、こっちが現実だと認識する。

今日は何をしに行くんだっけと、ボケた頭で考えながらスマホの画面をつける。

そうだ、今日は約束があるんだ。

大学の友人との約束がある。

時計を見ると、約束の時間までまだ余裕がある。

良かった、まだ少しのんびりできそうだ。

ゆったりと朝食を食べながら、これから見る映画のCMをテレビで見た。

某アメリカのスーパーヒーローが活躍する映画の新作だ。

正直、あんまり映画は趣味じゃないんだが、せっかく誘われたのだから楽しもうか。


駅から北に少し歩くと、左の建物の外壁に上映されている映画のポスターが並べられている。

そこが俺たちの待ち合わせ場所兼目的地の映画館だった。

そこには、夢で見た男と同じ男が、目の前でポスターを眺めながら立っていた。

そいつは俺に気がつくと、飾り気のない表情で声を掛けてきた。

俺が通っている大学の同期。

誰にでもいい顔をする優男だ。

開けたロビーに入り、しばらく雑談をしていると、入場準備が完了した旨の放送が流れてくる。

そろそろか。

アプリで事前予約した入場券のQRコードを店員に見せると、手元の端末で読み込むのを眺め、ゲートを通される。

便利な世の中になったものだ。

シアタールームに入ると、俺たちは真ん中よりちょっと左にずれた席に隣同士で座った。

いい席を取ったな。

やっぱ新作は楽しみだな、と言いながらシアタールームが暗くなるのを待つ。

それから俺たちは、冒頭の注意事項、CM、それと本命の映画が終わるまで黙ってスクリーンを眺めていた。


近くのファミレスに移動し、新作の映画の感想戦を交わしていた。

ヒーローの主人公には守るヒロインが付きものだが、今回のヒロインは男だ。

じゃあヒーローが女っていうかというと、そうでもない。

それもそのはず、男と男の恋愛を描いた作品だった。

ヒロインの男は攫われこそしないものの、いつも変な事件に巻き込まれ、そして謎のヒーローが助けてくれる。

偶然ヒーローの正体を知った男は、主人公と少しずつ信頼関係を築き、信頼関係以上の関係にもなった。

さすがアメリカ映画、表現が生々しい。

そして俺はこの二人に、俺たち二人を重ねて見てしまっていることに気づいた。

目の前の男はヒーローの戦闘シーンを興奮気味に話している。

そんな彼をなるべく意識しないようにしていたけど、あんな映画を見てしまってはどうしても意識せざるをえない。

俺は彼に恋愛感情を抱いているのだ。

今ではあまり珍しくないのかもしれないが、ここ日本ではそんなに同性愛が浸透しているわけでもない。

ストレートな彼に想いを伝えたところで、拒絶されるだけだ。

黒幕の手先との戦闘はここが良かったという彼の熱弁を聞きながら、そんなことを考える。

俺も映画の二人のように上手くいくといいのだが……。

窓から差す温かい陽の光を浴びながら、そのままうたた寝をしてしまった。



---


目が覚めると、私は女だった。

いや、以前から私は女なのだ。

私の秘部の感触がそれを実感させる。

でも、夢の中での感情も間違いなく本物だった。

趣味も、癖も、好きな食べ物も……

そんな考え事をしながら寝返りを打ってベッドの反対を向くと、彼は既に下着を着てベッドに座っていた。

そして、好きな人も。

男の私は、私と同じでこの人が好きなのだ。

報われないのが可愛そうだな。

そうやって微睡みの時間を過ごしていると、夢の中の感覚もおぼろげになり、ここが現実だということを深く実感する。

おはよう。

目覚めの挨拶を終えると、ベッドの温もりを名残惜しく思いながら起き上がり、着替える。

着替えながら、今日これから映画を見ないかと誘われた。

今話題になっている海外のヒーローものらしい。

なんだかタイトルどころか、内容まで知ってる気がする。

でも、正直私はあまり興味ないの。

どうしようかと迷っているうちに、彼の身支度は終わったみたい。

私もそろそろ着替えなきゃ。

私は最後にお気に入りの蝶の髪飾りをつけて、部屋を後にした。


一緒に映画館に着くと、もうそろそろ始まる時間らしい。

急いで来たけど、ちょっとギリギリね。

二人分の予約は既にしてあるらしく、そそくさとシアタールームへと入った。

最初からそのつもりだったみたい。

真ん中くらいにある席に隣同士で座って、興味のない映画が始まるのを待った。

そして私の退屈と暇は、また私を夢の中へ連れて言った。



---


体を揺さぶられる感覚がする。

腕を枕にして寝ていたらしく、少し腕がしびれている。

起きると店員の姿があった。

どうやらいすぎて怒られているらしい。

あいつは先に会計を済ませてレジで待っている。

急がなければ。


それにしても、またあの夢だ。

最近は女として過ごす夢をよく見る。

リアルすぎるその夢は、俺が男であることを許さない。

男として、あいつと肌を重ねることを許さないのだ。

超えるには高すぎるハードルを、俺にはどうしても超えられる気がしない。

そんなことを考えながら帰りへの道を歩いていると、あいつからどうしたのかと声を掛けられた。

どうやらぼーっとしていたらしい。

危ないな……。

元気がなさそうに見えたらしく、薬でも飲んで元気になれと言われた。

薬……。 そうだな、それもいい。

俺たちは分かれると、ドラッグストアへと向かい、市販薬のコーナーへと向かった。

欲しい物は処方箋がないとだめらしいから、これでもいいか。

ついでにビールも買っておこう。


自宅に帰ってベッドに座ると、買ってきたビールと睡眠改善薬を取り出し、ビールで薬を飲み干した。


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