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ふたりは片想い 〜幼い頃から憧れの騎士団長に恋した司書は、再会した瞬間に想われていました〜  作者: 長岡更紗


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10/13

10.伝えたい気持ち

 翌日、ミシェルはいつものように図書館へと向かった。

 昨日の今日で寝不足だが、それくらいで休むわけにもいかない。


「あら、せっかくイヤリングをもらったのに、してこなかったの?」


 ニヤニヤとするエミィに、ミシェルは力なく答える。


「それが……失くしちゃいました……」

「うそでしょう!?」

「私も嘘だと思いたいです……」


 ガクッと項垂れると、エミィに憐れみの目を向けられる。


「まぁ、失くしちゃったものは仕方ないわよね……元気出して、ミシェル」

「うう……」


 時間を巻き戻したいと思ってもどうにもならない。落ち込みながらもいつものように仕事をしていると、一人の老騎士が図書館に入ってきた。ワトキンだ。


「おお、おったおった」

「昨日の……ワトキンさんですよね。どうされたんですか?」

「団長のお遣いだよ。これをお嬢ちゃんに渡してくれと頼まれてな」


 ワトキンの手から渡されたのは、ペリドットのイヤリング。昨日、確かにプレゼントされ、失くしてしまったものだ。


「これ……っ!」

「昨日の男の中に、手癖の悪い奴がおってな。団長が自分でお嬢ちゃんに返した方がいいと言ったんじゃが、早い方がいいだろうとわしが遣わされたのだよ」


 団長はそうそう仕事を抜けられはしないだろう。来るとなると、仕事を終えた夕方になっていたはずだ。

 ミシェルの心労を考えて、早く届けてくれたその気持ちに、胸の奥が温かくなる。


「ワトキンさん、わざわざありがとうございました! スタンリーさんにも、ありがとうとお伝えください!」

「いやいや、それはお嬢ちゃんが自分で伝えなさい。団長は、仕事が終わったらここにくるつもりのようだったからな」

「は、はい!」


 ワトキンが帰っていくと、隣で見ていたエミィが「良かったわねぇ」と微笑んでくれている。

 オリーブグリーンに輝くイヤリングを見ていると、涙があふれてきた。


 見つかって良かった……本当に……っ


 ミシェルはそのイヤリングを、そっと抱きしめるように胸に当てて握った。




 夕方になると、ワトキンの言った通り、スタンリーが図書館にやってきた。


「ワトキンからイヤリングは受け取ったか?」

「はい! 本当になにからなにまで、ありがとうございました!」


 受け取った証拠にイヤイングを出して見せると、スタンリーはほっと息を吐いて笑った。


「ちゃんとミシェルの手に戻って良かった。もうミシェルの泣き顔を見るのはごめんだ」

「す、すみません! きたない顔を見せちゃって、恥ずかしい……っ」

「いいや、泣いたミシェルも可愛かったが」


 ふっと目を細められると、ミシェルの耳は爆発したかのように熱くなる。

 そんな言葉をさらりと言ってしまうなんて、反則だ……と手足をもぞもぞさせた。


「す、スタンリーさんだってかっこよかったです……あんな屈強な男たちを一喝でねじ伏せて、私を助けてくれて……」

「これでも騎士団長だからな。あいつらにはきつい灸を据えておいた」


 かっこいいと言ってスタンリーも照れさせたかったのだが、彼は動じることなくその言葉を受け入れている。


 きっと、言われ慣れているんだろうなぁ。


 背が高く、男らしい顔立ちに、誰もが憧れる騎士団長。結婚していないのが本当に不思議なくらいだ。


「ミシェル、今日は何時までだ?」

「七時の閉館までですが」

「そうか」


 それだけ言うとスタンリーはカウンターから離れ、館内の本棚を物色し始めた。

 時刻は現在五時三十分。

 彼はなにか本を借りて帰るのかと思いきや、そのまま七時まで館内で本を読んで過ごしていた。


「すみません、閉館の時間です」


 ベルをリンリンと鳴らしながら館内を歩くと、椅子に座っていたスタンリーは立ち上がって本を元に戻した。

 中に人が残っていないかしっかり確かめてから図書館を出ると、スタンリーがそこで待っていた。


「スタンリーさん……」

「送ろう」


 その言葉に、ミシェルの顔はは思わずへらりと緩んでしまう。


「あ、ありがとうございます!」


 ミシェルは急いで鍵を掛けて、スタンリー目を合わせた。


「あの、まさか、このために待ってくれてたんですか?」

「いいや。読みたい本があったから、たまたまだ」


 絶対嘘だ、と思うのは、そうであってほしいという願望のせいだろうか。

 

「ちょっと待っててくださいね。鍵だけ返してきますから」


 そう言ってミシェルは、王立図書館の管理を任されている隣の家に鍵を返しにいくと、急いでスタンリーの隣にちょこんと並ぶ。


「ふふ、今日もスタンリーさんと一緒に帰ることができるなんて思っていなかったから、嬉しいです」

「ああ、俺も嬉しい」


 オリーブグリーンの瞳を細めて笑ってくれるので、ミシェルも彼に合わせて微笑んだ。


「お仕事、大変でしたか?」

「昨日の残務処理があったくらいで、そんなには。平時の騎士など、暇なもんだよ」

「いいことですね」

「ああ。事件も戦争もなく、平和ってことだからな」


 そうは言うが、トップに立つ人間というのはなにかと忙しいものだろう。

 貴重な時間を自分のために割いてくれたことが、単純に嬉しい。身体の中から温かいものが溢れてくるようで、勝手に上がってしまう口角を抑えるために両手で頬を隠した。


「ところで、ミシェルはウィルと昔からの知り合いか?」

「ウィルフレッドさんですか? ええ、私がここで働く前からよく図書館で会いまして、図書館仲間ですが」

「それでか……」

「なにがですか?」

「昨日ウィルが、ミシェルをいつものように送るとかなんとか、言っていただろう」

「え、私、ウィルフレッドさんに送ってもらったこと、あったかな……」


 記憶を漁ってみても、送ってもらった覚えはなかった。

 なにかの勘違いだろうかと首を傾げる。


「あいつはいつも、ミシェルのことをべた褒めしているよ」

「本当ですか?」

「ああ。かわいいとか、しっかりしているとか、嫁にするならミシェルのような女性がいいと、よく俺に話してくる」

「そ、そうなんですか? 褒められると、照れちゃいますね」


 あまり褒められることがないものだから、すぐ顔が熱くなってしまう。


「ミシェルはウィルのことをどう思っているんだ?」

「いい人ですよね。ちょっと軽く見られがちですけど、本好きな人に悪い人はいません。実は勉強熱心な人だし、私なんかにも優しくしてくれるし、素敵な人です」

「あいつを理解してくれる人がいるのは嬉しいな。ウィルに伝えておいてやろう」

「いえいえ、いいです! 伝わったら調子に乗りそうだし、もしも言うなら自分の口から伝えますから」

「……そうだな。余計なことをするところだった。すまない」

「いえいえ、謝らなくても!」


 そんなこんなを話しながら歩いていたら、あっという間に家の前に着いてしまった。

 このままスタンリーは帰ってしまうのだと思うと、名残惜しい。


「じゃあ、俺はここで……」

「ま、待ってください!」


 ミシェルは思わず、スタンリーの袖を掴んで止めてしまった。


「えっと、その……少し、上がっていきませんか?」


 イヤリングのお礼と、そして……できればちゃんと告白がしたい。

 おそらくスタンリーは、ミシェルを送るためにずっと待っていてくれたのだ。ミシェルの思い上がりでなければ、だが。

 告白して、うまくいく気がしてしまっていても仕方がない。

 しかし、『上がっていく』という答えを期待していたミシェルは、首を振るスタンリーを見て眉を下げた。


「今日は遠慮しておくよ」

「そう……ですか……」


 上がっていかないと言われただけなのに、振られてしまったような気分になって、がくりと肩を落とす。


「いや、昨日の今日で疲れているだろう。目の下に、その……クマが」

「え?!」

「今日はゆっくり眠るといい」


 そういえば、昨日はお風呂にも入る暇がなかったし、髪の毛もボサボサだった。こんな状態で告白なんてとんでもない。


「そ、そうですね……っ! 今日は、早く寝ようと思います!」

「ああ、それがいい」


 よく見ると、スタンリーにも少しクマが出ている。昨日送ってくれた後、戻って男たちの処分を決めていたのだろうし、スタンリーの方が疲れているはずだ。


 早く帰りたかっただろうのに、私のことを待っていてくれたんだ……。


 そう思うと、たまらなくなって今すぐ告白したくなってしまったが、ミシェルはグッとこらえた。


「じゃあ、また」

「え、ハグしないんですか?」


 あっさりと帰ろうとするスタンリーをまたも引き止め、自分で言った言葉に自分で驚く。心の中で言ったつもりが、声に出てしまっていたようだ。

 スタンリーは申し訳なさそうに眉を下げて、苦笑いしている。


「いや、実は昨日、風呂に入っていなくてな。ミシェルが嫌がるかと思って」

「そんな! ハグ、してほしいです! その……私もお風呂に入ってないので、スタンリーさんが嫌じゃなければ、ですが……」


 色々恥ずかしいことを言ってしまって、顔に熱が集まってくる。

 するとスタンリーは、苦かった顔を優しい笑みに変えた。


「俺もハグをしたいと思っていた」


 その一言に、身体中の血が沸騰するんじゃないかと思うほど熱くなる。

 ゆっくりと手を広げたスタンリーに、ミシェルはハグとはいえないほどのダイビングをみせた。


「スタンリーさん……っ」

「ミシェル」


 ミシェルはその腕の中で、彼を見上げる。


「私、あのイヤリング大切にしますね。大事な日には、必ずつけます」

「そうしてくれたら、俺も嬉しい」


 オリーブグリーンの瞳が優しく煌めく。

 ミシェルの頬も、自然と上がって笑顔を見せる。


 好き。

 その気持ちを、絶対に伝えたい。

 身分差があるからという理由なんかで、諦めたくない。


 ミシェルは、最高の自分でスタンリーに告白する、とその時に決めたのだった。



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