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01.仲良くなったのは、あの日

 強い日差しの下で、ミシェルは騎士団長を探して歩いていた。

 所用で副団長と共に出かけた彼が、西区の詰所へと戻ってくるという情報を教えてもらったのはついさっきのこと。

 きょろきょろと見回すたびに、先日もらったペリドットのイヤリングがゆらゆら揺れる。


 ──いた!


 背の高い栗色の髪をしたスタンリー・オーガスターは、赤と白の騎士服に包まれていてとても目立つ。だけど彼の雰囲気は宵闇のように(おごそ)かで穏やかだ。

 勇気が萎んでしまわないうちにと、ミシェルはその人の前に躍り出た。

 栗色の髪をした愛しの団長と、その隣にいる金髪の副団長が、ミシェルの登場に少し驚いたように目をひろげている。


「わ、私と付き合ってください!」


 耳が熱くて燃えるのではないのかと思いながら、ミシェルは頭を下げた。

 コーヒー色の長い自分の髪がふわりと視界に入る。

 告白の相手である騎士団長のスタンリー・オーガスターは、ミシェルよりも十二歳年上の三十二歳。

 対するミシェルは王立図書館で司書をしているただの庶民である。そんな一般人がこんな大物に告白など、大それたことをしていると自分でもわかっていた。


 頭を下げたままのミシェルからは、きりりと精悍な顔立ちをしているはずのスタンリーの顔は見えない。

 スタンリーの軍用ブーツと、その隣にいるウィルフレッドという騎士の足が見えるだけだ。


 顔は上げた方がいいだろうか、とミシェルがゆっくり頭を戻した瞬間。

 スタンリーは眉間に力を入れ、どこか侘しい顔をしたかと思うと、ふいっとミシェルの横を通り過ぎていった。


「………………あ」


 喉から漏れ出てミシェルの声はねずみよりも小さく、誰にも聞こえなかっただろう。

 ただただ、隣を通り過ぎていく際の風が、寂しい。


「ミシェルちゃん」


 目の前に残っているのは、ミシェルの図書館仲間であり、副団長のウィルフレッド。その彼が神妙な面持ちで覗き込んできて、ミシェルは慌てて声を上げた。


「あの、えっと……すみません……」

「いや、謝らなくてもいいんだけど、大丈夫?」


 はい、と言いたかったが、ミシェルの声は音にならなかった。

 全然、大丈夫じゃない。困った顔をされて、無視されたのだ。

 誕生日を祝ってくれたから。手を繋いでくれたから。誕生石のイヤリングをくれたから。勘違いしてしまっていた。

 可能性はあるかもしれない……なんて思っていた自分が滑稽だった。






 ──ありがとう、ミシェル。


 普段は宵闇のような雰囲気をまとった彼が、少し照れた顔で頬を掻きながら、微笑んでくれる姿が好きだった。


 王立図書館でスタンリーと出会ったのは、二年前のこと。

 司書として働き始めてすぐのことだ。


「どんな本をお探しですか? 良かったら、お手伝いさせてください!」


 最初は困っている人がいるなと思って話しかけただけで、スタンリーだとは思ってもいなった。振り向いたその顔を見て、ミシェルは心臓が胸を突き破ってしまうのではないかと思うほど驚いた。

 それまでもミシェルは毎日のように図書館に通っていたが、スタンリーをこの場で見たのは初めてだったのだ。


「……も、もしかして、副団長のスタンリー様ですか?」

「ああ」


 当時まだ副団長だったスタンリーの肯定に、はわはわとミシェルは口を動かした。


「わ、私なんかが声を掛けて良いお方ではありませんでしたね……! すみませんーっ」


 そう言って逃げようとしたミシェルの肩は、ガッと掴まれた。


「はうっ!」

「あ、いや、すまない」


 スタンリーは自分を恥じるようにそう言うと、ミシェルの肩から慌てて手を離した。


「一緒に探してくれたなら助かるよ。……えーと、君の名前は」

「ミシェルです!」

「よろしく、ミシェル。俺はスタンリー・オーガスターだ」

「はい。存じています!」


 名前を呼んでくれたこと、自己紹介をしてくれたことが嬉しくて、ミシェルは微笑んだ。

 スタンリーは、ミシェルのヒーローだったから。


憧れの人に肩を掴まれて舞い上がったミシェルは、もっと彼に近づきたいと思った。

 相手は貴族で、副団長で、大人の男の人だ。

 対するミシェルは、本が好きなだけの一般市民。スタンリーにとってはお子ちゃまにしか見られていないだろう。事実、彼が二十歳の時(・・・・・・)、ミシェルは紛れもなくお子ちゃまだったのだから。


 普段、部下に任せてばかりで図書館にほとんど訪れたことがないというスタンリーに、目的の本を探して渡してあげた。


「ありがとう、ミシェル」


 その顔が少し赤らんで見えたのは、ちょうど夕刻の時間帯だったせいだろうか。

 それからのスタンリーは、なぜか部下を使わずに自分で資料を探しにくるようになっていた。それでも回数は多くなく、もっと会いたいと思っていたらおすすめの本を聞かれたのである。

 ミシェルは張り切って自分の好きな哲学書をおすすめしたのだが、一ヶ月も返却に来てくれなかった。


「もしかして、哲学書はお好きではなかったですか?」


 ようやく返却に来た時に聞いてみると、スタンリーは面目なさそうに頬を掻いた。


「すまない。読めないことはないんだが、息抜きに読めるかと言われると……」

「スタンリー様はお忙しいですから、もっと軽く読める方が良かったですよね! 気が回らなくて申し訳ありません!」


 本は、自分が面白いからといって人も同じとは限らない。おすすめを聞かれたことが嬉しくて、つい自分の好きなものを差し出してしまっていた。


 もっと短くて読みやすくて、スタンリー様のお好みの話を選ばなくちゃ。

 そうすれば、週に一回は会えるかもしれない!


それからはたくさん会えるように、スタンリーの好みを聞き出して、読みやすく短い本を一冊だけ貸し出した。スタンリーは冒険小説が気に入ったようで、読み終わるたび感想を教えてくれ、次のおすすめの小説を貸し出した。

 

「ミシェルの選んでくれる本は面白いよ」

「本当ですか? 最初の頃のように、無理して読んでいらっしゃいません?」


 その時の話を出すと、スタンリーはやはり面目なさそうな顔で頬を掻くのだ。

 普段は凛々しく雄々しい騎士団長のそんな顔を見られるのは、きっと自分だけ。そう思うと、ふふと笑みが溢れた。


「あの時のことは、内緒、ですね?」

「ああ、頼むよミシェル」

「はい、頼まれました!」


 そう答えると、あの時のように細めたオリーブグリーンの瞳を向けてくれるのだ。

 勘違いしてしまいそうなほどの優しいスタンリーの微笑み。その頬はほんのりと赤く染まっていて、いつもミシェルの心を貫いていく。

 好きだ、という思いが溢れてとまらない。


 しかしスタンリーは一般庶民の出だが、副団長となったときに王から爵位を賜っていて、貴族である。

 貴族であり騎士団長でもあるスタンリーが、一般人とどうこうなる確率などまずあり得ない。それはミシェルにも理解できている。


 それでも、それでも……とここまできてしまったのは、スタンリーがずっとミシェルに優しくしてくれていたから。

 そして、子ども扱いされていただけの行動に勝手にドキドキして、付き合えるかもしれないという可能性を捨てられなかったから。


 ミシェルの告白を受けたスタンリーは、悲しい風を残して歩き去っていて。

 振り向いても、こちらを見ようともしていなかった。

 近づいたと思っていたのは自分だけで、そこには大きな隔たりがあったのだなと、ミシェルは痛む胸を押さえる。


 スタンリーの瞳と同じオリーブグリーンのペリドットが、行き場を失ったように耳元でゆらりと揺れていた。


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