第9話【クエスト】
街に着いた次の日、俺とメイアは街の近くの通称【狩場】に来ていた。
【狩場】というのは、素材になるモンスターが多く生息する地域で、俺が今来ているのはその一つであるポム草原だ。
ここには虫のようなモンスターが多く生息している。
甲虫はその甲殻が鎧や武器の素材になり、他にも粘液が薬の素材になったりする虫などもいるらしい。
「ユーヤさん。あれです。あれが今回の討伐対象のポイズンワームですよ」
「あれか。見るからに毒持ってそうな色してるな」
俺とメイアは、狩人ギルドで請け負うことの出来るクエストというものを受けていた。
必要な素材を収集するのが主な依頼内容で、それに応じた報酬を受けとることが出来る。
実を言うとキラーグリズリーのおかげでそんなに金には困っていないのだが、クエストを受けるには理由があった。
クエストをこなしていくと、狩人等級が上がっていく。
それ以外にも狩人等級を上げる方法はあるらしいが、簡単で確実なのはクエストらしい。
では何故クエストをこなして、狩人等級を上げなくてはいけないか。
それは、メイアの実家の居場所を知るためだった。
一般的には、エルフの里の場所は知られていないらしい。
そしてメイア自身も自分の里がこの街からどこに向かって進めば着くのか、全く分からないという。
そこで、エルフの里の所在をギルドから買おうと思ったのだが、ここで問題が発生した。
情報はその貴重さごとに、買うことの出来る狩人等級が決まっている。
エルフの里の所在の情報は、最低でも狩人等級五がないと買えないと言われてしまった。
無作為に探すよりも、きちんと情報を得てから移動した方がいいという結論を出し、俺は狩人等級を上げることに専念することにしたのだ。
それを決めた時、メイアも狩人登録をすると言い出した。
なんでも、自分の家に辿り着けたとしても、その間ずっと俺の世話になるのは申し訳ない、自分でも食い扶持を稼ぎたいということらしい。
いずれにしても、こうして色々と教えてもらえるので、俺としてはありがたい。
それに、狩人はチームを組むことも出来るので、俺とメイアの成果は互いに折半できる仕組みになっている。
とにかく、俺は狩人等級を上げるため、メイアは日々の生活の糧を得るためにこうしてクエストを受けているというわけだ。
ちなみにキラーグリズリーを買い取ってもらった金を分けようと提案したが、メイアに断固拒否されてしまった。
持ち帰って売ればいいと提案したのはメイアで、俺一人なら置き去りにしていたからだ。
だが、倒したのも運んだのも俺一人の力だからと、メイアは一向に首を縦に振らなかった。
この件に関しては結局俺が折れ、ありがたく全額懐に入れさせて貰っている。
「そういえば、メイア。魔法ってどうやって使うんだ?」
「え? 魔法ですか? どうやってと言われても、スキルを持っている人は、使える魔法が自然と頭の中に浮かんでくるはずですけど……」
「メイアもいくつか魔法が使えるんだよね?」
「ええ! 前にも言いましたが、水と風魔法を使えます。まだまだ未熟ですが」
どうやら、【筋力増強】とは違い、魔法スキルは熟練が必要なようだ。
ひとまず昨日人さらいからコピーさせてもらった【炎魔法】があるので、それでポイズンワームを倒してみることにしよう。
「えーと、ああ。ほんとだ。頭に浮かび上がってくるね」
「ユーヤさんも魔法スキルお持ちなんですか? それにしても記憶喪失って大変ですね。自分のスキルの使い方まで忘れてしまうなんて」
メイアは真面目な顔で心配する言葉を俺にかけてきた。
なんだか騙しているようで気が引ける。
まだ会って間もないが、メイアは根っからのいい子な気もするから、その内本当のことを打ち明けてもいいかもしれない。
そんなことを思いながら、俺は頭に浮かんだ魔法の一つを唱えてみた。
「【ファイアーボール】!!」
名前から想像した通りに、拳大ほどの大きさの火球か出現し、一番近くにいたポイズンワームに炸裂する。
どうやらぶつかった瞬間、爆発するようだ。
「炎魔法のスキルをお持ちだったんですね! 攻撃的な魔法が多いですし、狩人にはうってつけですね」
「いや。俺の魔法は今回のクエストには適してないみたいだな」
俺がファイアーボールを当てたポイズンワームが居た辺りを指さすと、メイアは俺の言っている意味が分かったようだ。
爆発の影響でポイズンワームの身体は飛散し、収穫目的の粘液も撒き散らされてしまっていた。
これでは集めることは出来ないだろう。
「悪いけどメイア。君の魔法を見せてくれないか?」
「いいですよ! 見ててくださいね」
「【ウィンドカッター】!!」
緑色の弧の字の風が出現し、ポイズンワームの胴体を両断する。
切り口からは多少の粘液が漏れ出ているが、これなら収集も可能そうだ。
「よし。じゃあ、これでいこう。危ないからちょっと離れててね」
「え? どういうことですか? 先ほどユーヤさんの魔法だとダメだってご自身で言っていたのに」
不思議な顔をするメイアをしりめに、俺は目の前に居るポイズンワームに狙いを定めた。
そして頭の中で念じたスキルを言葉に出す。
「【ペースト】!!」
言葉にしたのは一回だが、実際にはポイズンワームの数だけ念じていた。
先ほどこっそり【コピー】していた【ウィンドカッター】を俺は大量に【ペースト】したのだ。
一斉に出現した風の刃によって、一瞬にして目の前の全てのポイズンワームたちは両断された。