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第8話【買取】

 マークの叫び声にも近い言葉に、多くの人たちがこちらに注目する。

 先ほどから聞こえているささやき声は、すでにはっきりとした大きさに変わっていた。


「キラーグリズリーだって!? マーク。本当かい?」

「ああ。間違いない。驚いたな。タイラントベア丸々だって珍しいのに、キラーグリズリーをこんな綺麗な状態で仕留めたなんて聞いたことがない。これは、ちょっとこの場で買い取り額を決めるのは難しいな」


 どうやら、俺が仕留めた熊のモンスターはタイラントベアではなかったようだ。

 そもそも俺にはタイラントベアとキラーグリズリーの違いがなんなのか分からないが、聞いている限りはキラーグリズリーの方がより強いモンスターらしい。


「キラーグリズリーはその肉体のみで襲ってくるモンスターだが、逆に小手先の技なんかはその圧倒的な身体能力で効かないはずなんだ。下手な攻撃では傷もつかないはずだからね。どうやって仕留めたのか教えてくれないかい?」


 マークが俺の方に目を向け質問してきた。

 その目はキラキラと、何か凄い物を見つけた少年のように輝いている。


「あーその、なんだ。企業秘密だ」


 俺は一瞬思考をめぐらし、はぐらかすことにした。

 女神からもらったスキル【コピペ】のことを言って良いのか迷ったからだ。


 さっきはうっかりメイアに見せてしまったが、あの驚き方からすると、珍しいか、この世界には俺以外持っていないスキルな可能性さえある。

 女神も俺にスキルを与える際に、調べたと言っていたしな。


 そうだとすると、今後は軽々しく人に教えるのは控えた方がいいだろう。


「そうか……残念だ。でも、このキラーグリズリーは間違いなくこちらで買い取らせてもらうよ。ただ、さっき言った通り、買い取り額を今この場で決めるのは難しい。間違いなく金貨五百枚はいくと思うんだけどね。ひとまず今日のところはそれを支払って、正式に額が決まったら残りを支払うのではどうかな?」

「ああ。それで構わない。それじゃあ、しばらくこの街に滞在することにしよう」


 金貨五百枚というのが、この世界でどのくらいの価値があるものなのか分からないが、ここでそれを言ったら変に思われるだろう。

 とりあえず、しばらく暮らすのに十分な金額だったら嬉しいのだが。


 後で教えてもらおうと、メイアの方を見ると、何故か放心したような状態になっていた。

 俺は思わずメイアの目の前で手を振ってみるが、反応しない。


「おーい。メイア。どうした? 大丈夫かー?」

「はっ!? ユーヤさん!」


 声をかけてようやく意識がこちらに戻ったようだ。

 俺は安心して、マークの方を向きなおし、手続きを進めることにした。


「それじゃあ、ここにサインを書いてくれ。あと、この割符を持って行ってくれ。残りの支払いの時に必要になる。それと、これが前払い分の買取金額だ」

「ああ。これでいいか?」


 マークに提示された書類のサイン欄にカタカナでユーヤと書く。

 言葉はそのまま日本語として理解できるし、書かれている文字は見たことのない文字だが、何故かそれも日本語に変換されて理解することが出来る。


「それじゃあ、五日後以降にまた来てくれ。それまでには買い取り額を決めておくよ」

「分かった。ありがとう。あ、そうだ。リリー。狩人の登録がまだだった」


 マークから金を受け取ると、隣で待機してくれていたリリーに声をかける。

 リリーはにっこりと笑顔を作り、別の場所へ案内してくれた。


 そこで登録を済ませ、リリーから不思議な金属のようなもので出来たカードサイズの物を受け取る。

 どうやらこれが狩人としての証明書代わりになるらしい。


「今後は、その狩人証を肌身離さず持っておくようにしておくれ。私も原理を詳しく知らないが、等級点はその狩人証に蓄積されていく。それさえあれば、どこの街のギルドでも間違いなく等級点を貯めることが出来るようになってるよ」

「へぇ。それは便利だね。ありがとう。それじゃあ、今日はこの辺で。また来るよ」


 俺はリリーに別れを告げると、メイアとギルドを後にした。

 ひとまず何かを口にしたいと、適当に目についた食堂のような店に入る。


「さて、と。メイアのおかげでモンスターを無事に買い取ってもらって金も出来たことだし。ひとまず何か食べようか」

「ユーヤさん!!」


 向かい合わせに席に座り、メイアに声をかけた後メニューを開こうとした瞬間、メイアは大声を上げた。

 俺は何事かと驚き、メニューに落としていた目線をメイアに向ける。


「な、なんだい? メイア。まさか、さっきもらった金額じゃ、ご飯を食べるのに足りないなんて言わないよね?」

「何言ってるんですか! さっきの報酬、どれくらいの価値があるか分かってるんですか?」


 と叫んだ後で、メイアは自分がこれから話すことの中身が気になったのか、周囲をきょろきょろと見渡してから、体を俺の方に乗り出す。

 そして小声で言った。


 俺の目線はついつい顔よりも下に向いてしまうが、メイアはそれに気付いていないようだ。


「そういえば、ユーヤさんは記憶喪失でしたね……まさか金銭の価値まで記憶を失っているとは思いませんでした。率直に言うと、ユーヤさんが先ほど受け取ったお金は、一家が一年間過ごせるだけの金額ですよ?」

「え!?」


 思わぬ事実に、今度は俺が大声を上げてしまった。

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新作ハイファン書き始めましたヾ(●´∇`●)ノ

魔法理論を極めし無能者〜魔力ゼロだが死んでも魔法の研究を続けた俺が、貴族が通う魔導学園の劣等生に転生したので、今度こそ魔法を極めます

魔力ゼロの天才が新しい身体を手に入れ、無双していく学園ものです! 良かったらこちらもよろしくお願いします!
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