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第5話【スキルのコピー】

「どうしたんですか? タイラントベアをじっと見つめて」

「ほらあそこ。【筋力増強(大)】って書いてあるだろ? 何かなって」


 隣のメイアの声に、俺は文字が浮かび上がって見える場所を指さす。

 しかしメイアは俺が何をさしているのかまるで見当が付かないようだ。


「あそこって……? 何も見えませんけど。それに【筋力増強(大)】ってかなり高位のスキルですよ? それがどうかしたんですか?」

「え? メイアには見えないの?」


 どうやら見えるのは俺だけらしい。

 ふと思いつき、俺は【コピー】を光る文字に使う。


 そして、俺に向かって【ペースト】を使ってみた。

 すると、何か目の前が光ったような錯覚の後に、頭の中で確かに【筋力増強(大)】を使えるようになったと理解した。


「大丈夫ですか? 何かぼーっとされてますけど。ひとまず、あのタイラントベアの体の一部でも持っていって、街に付いたら売ってお金に変えましょう。あ! と言っても、素材をはぎ取るような刃物がないですね……」

「ちょっと待って。メイア。ここで待っていてくれるかな?」


 そう言って、俺はタイラントベアの死骸に近付くと、【筋力増強(大)】を使うよう念じる。

 そしておもむろにタイラントベアを持ち上げてみた。


「え……?」


 俺の行動を見ていたメイアから驚きの声が漏れる。

 その声を聞いた俺も内心驚いている。


 試しにと思って使ってみたが、巨体と言ってもいいタイラントベアの死骸を、俺はやすやすと持ち上げていた。

 間違いなく、今使った【筋力増強(大)】の効果のおかげだろう。


「メイア、ここから街まではどのくらい?」

「え? 正確な距離は分かりませんが、先ほども言ったように、街を出てから馬車で半日といったところですね」


「それなら、このまま持って運ぶことも出来そうだ。途中休み休みになるかもしれないけど」

「驚きました……ユーヤさんは増強系のスキルもお持ちなんですね」


「増強系のスキルってのは珍しいのかい?」

「珍しくはないスキルですけど、それだけの効果が出るなら【膂力増強(中)】以上のスキルですか? あ、人にスキルの詳細を聞くなんて、失礼でしたね。すいません」


 どうやら、スキルの強度も色々とあるらしい。

 おそらく、【膂力増強】というのは膂力だけ上がるようなスキルで、俺が覚えた【筋力増強】というのは部分ではなく全体が増強されるスキルだということか。


 【膂力増強(中)】でもそれなりのスキルらしい。

 ということは全身に効果のある【筋力増強(大)】というのは、先ほどメイアが言っていた通り、貴重なスキルなのかもしれない。


 そう考えればこのタイラントベアの強さも頷ける。

 いくら俺よりもでかいとは言え、体当たりで大木をなぎ倒したり出来るのはさすがにおかしいと思っていたのだ。


 いずれにしろ、このスキルは単純ではあるけれど、かなり有用だと言える。

 これを身につけられたことは幸運だったと言っていいだろう。


 それにしても……試しにやってみたが、実態のある物だけではなく、相手のスキルまでコピペが出来るなんて驚きだ。

 しかし、気になるのは、タイラントベアの体に浮かんでいるスキル名だ。


 メイアには見えないのは確認済みだし、確証はないが、さっき対峙していた時はこんな文字は見えていなかったはずだ。


「もしかして……」


 俺はついつい呟きを漏らす。

 そして目の前のメイアの体をまじまじと見つめた。


「な、なんですか? 突然そんなに見つめてきて。私の体になんかついてます?」


 俺の視線に晒され、メイアは恥ずかしいのか何なのか、顔を赤く染める。

 何故か悪いことをしているような気分になり、俺も顔を紅潮させてしまう。

 

「いや。さっきスキルのことを聞くのは失礼と言っていたけど、これだけ教えてくれ。メイアも何かスキルは持っているの?」

「え? それはもちろんです。私はスキル【風魔法】と【水魔法】を使えます。熟練度はまだまだですが……」


 やはりメイアはスキルを持っているらしい。

 しかし、いくら見つめても、タイラントベアのように白い文字は見つからない。


 あまりに俺がメイアを見つめるためか、メイアは両手を胸の辺りに重ね始めた。

 これ以上やると、変な疑いを持たれてしまいそうだから、もう見つめるのは止めておこう。


 試しに人さらいたちの死体にも目線を向ける。

 少し遠くにあるが、こちらには白い文字がいくつか浮かび上がっているのが見えた。


 文字は距離に関係なく読み取れるらしい。

 二人の内、一人は【忍び足】と【隠密行動】、もう一人は【炎魔法】をスキルとして持っていた。


俺はここであることに気付いた。

 ここに駆け付けた時、人さらいたちの死体を見た瞬間、俺は激しい恐怖と吐き気に襲われた。


 ところが、いくら少し離れているとは言え、俺はもう死体を見ても恐怖を感じなくなっていたのだ。

 いくら何でも慣れるには早すぎる。


 もしかして【筋力増強】は【胆力増強】の効果もあるのだろうか?

 あれ? 肝って筋肉だっけ?


 そんなことを思いながら、見えているスキルの全てを先ほどと同じように【コピー】し【ペースト】してみる。

 思った通り、他の三つも覚えたようだ。


 これで確信が得られた。

 つまり、物体を【コピー】するときと同じように、生きている物のスキルは【コピー】出来ないのだろう。


 だからメイアのスキルは見ることが出来ない。

 一方、タイラントベアと人さらいたちはすでに死んでいて、【コピー】が可能だってことだ。


 死んでからどれくらいの間なら【コピー】が可能なのか分からないが、俺は自分のもらったスキルの凄さに気付いてしまった。

 制約上、人からスキルを集めるというのは難しいが、モンスターなら気兼ねは要らない。


 正直を言うと俺はワクワクしていた。

 元居た世界ではあり得ないようなことをスキルは実現させてくれる。


 そのスキルが、【コピペ】の力を使えば無数に入るかもしれないのだ。

 もちろん無茶をして死んでしまうようなことがあってはならないが、まるでゲームのキャラを育てていくような楽しみを俺は感じていた。


 スキルを手に入れるなら、色々なモンスターを倒していくのがいいだろう。

 ちょうど狩人という職業がある世界のようだ。


 メイアを元の暮らしに戻すことと並行して、俺は狩人としてこの世界で生きていくことを決めた。

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新作ハイファン書き始めましたヾ(●´∇`●)ノ

魔法理論を極めし無能者〜魔力ゼロだが死んでも魔法の研究を続けた俺が、貴族が通う魔導学園の劣等生に転生したので、今度こそ魔法を極めます

魔力ゼロの天才が新しい身体を手に入れ、無双していく学園ものです! 良かったらこちらもよろしくお願いします!
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