第10話【文字化け】
「な、なんですか! 今の!? 一度にあんなに大量の【ウィンドカッター】を出すなんて信じられません!! それに、ユーヤさん。風魔法のスキルもお持ちだったんですね?」
一瞬固まっていたメイアが、大声で俺に迫ってくる。
ちょっと顔が近いので、俺は別の意味でドキドキしてしまった。
「あ、いや。あれはメイアの使った魔法を借りたんだ。俺は風魔法は覚えてないよ」
「え? どういうことです?」
昨日既に俺の【コピペ】については一度に見せているし、今後も積極的にこのスキルを使っていく予定なので、メイアにはスキルの説明をすることに決めていた。
と言っても、決めたのはメイアが狩人になると言い出した今日の朝だけれど。
そんなわけで説明するタイミングを逃し、先に目の前で披露してしまった。
困惑している様子のメイアに俺は返答する。
「前にも見せたことがあると思うんだけど、俺は色んな物を増やすことが出来るんだ。ちょっと説明に時間がかかりそうだから、先にクエストを完了させて、ゆっくりと話すよ。ひとまずこいつらの粘液を集めよう」
「あ、はい。それじゃあ、この瓶に詰めていきましょうか」
クエスト受領時に渡された瓶の中にポイズンワームの粘液を貯めていく。
緑色の粘液は、毒性があるらしく、直接触れないように気をつけながらの作業だ。
俺と少し離れて別の個体から粘液を集めているメイアに一度目をやり、そしてポイズンワームの死骸に再び視線を戻す。
その死骸には、キラーグリズリーの時と同じように、白く光る文字が浮かび上がっていた。
【毒攻撃】と【粘着糸】。
どうやらこれが今倒したポイズンワームの持っているスキルのようだ。
どの個体を見ても、同じ文字が浮かび上がっているので、同じ種族であれば同じスキルを持っているということなのだろう。
そう考えると、同じ種族なのに個人個人で全く別のスキルを持っている人間やエルフの方が特殊だってことなのだろうか。
そんなことを考えながら、俺は前と同じようにポイズンワームのスキルを【コピー】して、自分に【ペースト】する。
このスキルの【コピペ】については、メイアにも話さないつもりだ。
物を増やすのは見れば分かってしまうが、スキルを増やせることに関しては、こちらから言わなければしばらくはばれないからだ。
ただ、時が経てば経つほど、以前使えなかったスキルを突然使えるようになるのだから、いずれは話さなくてはいけなくなる時が来るかもしれないが。
「あれ?」
俺は思わず声を上げてしまった。
その声に反応して、メイアがこちらに顔を向ける。
「どうしたんですか? 何かおかしなことがありました?」
「あ、いや何でもないんだ。ははは。ごめんね。でも、ちゃんと手元を見てないと危ないよ?」
俺はたった今自分に【ペースト】したスキル【毒攻撃】と【粘着糸】をもう一度思い浮かべる。
すると、俺の頭に思い浮かんだのは【毒付与】と【粘着付与】という別の名前のスキルだった。
どうやらスキルというのは身に着けると自然とどう使えるのか分かるものと、分からないものがあるようだ。
この二つのスキルに関しては、使わなくても、大体の使い方や効果が頭の中に浮かんできた。
【毒付与】も【粘着付与】も文字通りその性質を物に付与させる効果がある。
ただし、【毒付与】については、もともとが【毒攻撃】だったせいか、俺の身体や俺が触れている物のみに効果を付けることが出来るらしい。
例えば、今ポイズンワームの粘液を掻き出している棒の先端に【毒付与】を使えば、この棒で突き刺されたら毒を受けるということだろう。
しかし、俺がこの棒を手放してしまえば、その効果は無くなってしまう。
一方で【粘着付与】は、効果を付ける時は同じように俺が触れていなければいけないが、一度付与すれば手放した後も効果は持続するようだ。
いずれにしてもどうやらモンスターの持っているスキルを自分のものにする時には、少し形態が変わることがあるようだ。
確かに、俺の身体から糸は出ないし、攻撃と言っても俺が繰り出すことの出来る攻撃は多種多様だから、俺の身体に合わせてスキルが自然と変化してくれたってことだろうか。
まるで俺という書式に合わせて、モンスターのスキルが文字化けしたみたいだ。
ふと、転生前の記憶を思い出す。
パソコンが苦手な上司が、取引先の国ではインストールされていない書式の特殊文字を使った文章を送ってしまい、文字化けしてしまったのだ。
あの時は連絡を直接受けた上司が、「ウイルスが! ウイルスが!!」と叫んで大騒ぎしていたっけ。
「ユーヤさん。今度は何か面白いことでもあったんですか? 顔が笑ってますけど」
「ん? あ、いや。ちょっと昔の笑い話を思い出してね。さぁ、これだけ集めれば十分だろう。クエスト終了の報告をしに戻ろうか」
俺はポイズンワームの粘液で満たされた瓶を鞄に詰める。
メイアも同じように瓶をしまうと、笑顔で俺の元へ駆け寄ってきた。




