第百三十三話 ゾーン脱出
「――っ……!」
一度断絶した意識が戻り、全身の感覚が復活する。
夜雲さんのスキル『式符・表裏一対』による転移は、俺たちを第4エリアから第3エリアに戻る入り口まで飛ばしてくれた。
「走って、神崎君っ!」
夜雲さんの声がして、反射的に走り出す――第3エリアに移動する寸前に背後で崩落が起き、地面と大気がビリビリと震えるのが分かった。
「はぁっ、はぁっ……」
《名称不明のデーモン 暫定ランクA+ 討伐者:神崎玲人のパーティ》
《暫定ランクA+のユニークモンスター討伐実績を取得しました》
《神崎玲人様が500000EXPを取得、報酬が算定されました》
《姉崎優の恒常スキル『経験促進』によって獲得EXPが50000増加しました》
《神崎玲人様のレベルが上昇しました》
レベルを1上げるにも、必要な経験量が膨大すぎると思っていた――だが『龍』を倒したことで得られた経験は、それを満たすに足るものだった。
《――前回参照したデータからの変化量を推測、レベルアップ後のプロパティをお伝えいたします》
神崎玲人 男 レベル:131/230
職業:創紋師
体力:3480/7520
オーラ:21800/36500
筋力:226(D)
体力:356(C)
教養:1256(A)
精神:1207(A)
魔力:1306(A)
速さ:757(B)
魅力:357(C)
幸運:156(E)
通常スキル
強化魔法 LV8/13
弱体魔法 LV5/13
特殊魔法 LV10/10
攻撃魔法 LV11/11
回復魔法 LV8/8
格闘マスタリー LV1/8
ロッドマスタリー LV1/13
軽装備マスタリー LV1/8
高速詠唱 L∨1/5
魔法抽出 LV1/5
呪紋付与 L∨1/13
生命付与 LV1/5
魔力効率化 LV1/5
生命探知
魔力探知
鑑定 LV2/5
固有スキル
レベル限界+30
スキル限界+3
魔神討伐者
呪紋創生
残りスキルポイント:558
(スキルレベルの上昇が反映されてる……攻撃魔法の限界は10だったが、それをさらに突破している。それでもポイントが残ってるってことは、俺にはまだ余力があるってことなのか)
任意でスキルポイントを振れない以上、500以上もあるスキルポイントが勿体なくも見えるが――必要な時に使えるのなら問題はない。
「玲人さんっ……!」
「玲人……!」
黒栖さんと雪理が駆け寄ってくる――そして、気を失っているミアを心配そうに見る。
「……回復魔法をかけてるけど、それだけじゃ足りない。病院に連れて行かないと」
「この人は……玲人の、大切な人なの……?」
「ああ。俺の仲間だった……パーティを、組んでたんだ」
「……玲人さんの大切な人は、私にとっても同じです。魔物に操られてしまっていた、っていうことなんですよね」
「そうだと思う。目が覚めてもまだ元のミアに戻ってなかったら……ってことは、あまり考えたくないけど……そうだとしても、彼女は敵対することなんて、自分で望んだりはしないはずだ」
何も分かっていないに等しい。俺が持っている手がかりは、魔女神がこの世界に侵攻しようとしているということ――ウィステリア、イオリ、ミアは、そのために利用されてしまった。
全てが魔女神の手によるものかは分からないが、俺がいたあの『旧アストラルボーダー』の世界は、今いる『この現実』に干渉していると考えられる。
(……俺たちがゲームだと思っていたのは。本物の、異世界だったんだ)
VRMMOの世界だと思っていた『旧アストラルボーダー』の世界に、俺たちはログインをきっかけとして飛ばされていた。
ゲーム内で死亡した人たちは、現実でも死亡する。ガイドAIによって見せられたそれを証明する映像が意味していたものは――。
あの異世界で死んだ人は、俺が『ログアウトした先』であるこの世界に飛ばされ、そして死亡していた。そういうことになるのだろうか。
(誰がそんなゲームを作った? 俺が元いた世界には魔物はいなかった。そこに持ち込まれた異物――『旧アストラルボーダー』は、俺たちプレイヤーをあの異世界に集めるための装置だった。それは何のためなんだ……)
「……すぅ……すぅ……レイト、さん……」
「っ……ミア……」
寝言ではあるが、ミアが言葉を発した――そして少し苦しそうな表情をするが、すぐに穏やかになる。
「……あの魔物と融合しているように見えた部分が、ほとんど無傷で良かった」
「あの魔物……『龍』は、ミアの力を利用していただけだったんだ。敵はそういう手段を使ってくる……今後も強い力を持つ人を狙ってくるだろう」
「それでは、神崎君も護衛をつけた方がいいということになるが……君自身の強さを考えると、国内に務まる人間がいるのかどうか。私や灰島でも十分とは言えないだろう」
「そうですね……俺も気をつけます。操られたりとか、そういう系統の攻撃についても十分対策をしておかないと」
「討伐隊でも装備などについての相談は受けられるだろう。改めて礼を言う……君はこの特異領域の崩壊を防ぎ、内部に残された人たちの命を救ってくれた」
「ここにいる全員でやったことです。みんなも無事で良かった……」
『麟獣』と戦うだけでも大きな危険が伴う。それでも仲間たちは敵を引き付けてくれた――やはり疲労は隠せないが、それでも笑っている。
「もうほんと、避けるだけで精一杯でしたけど……この戦いで私もひとつ上のステージに行けたって感じはしますね」
「援護くらいしかできませんでしたが、度胸はつきましたわね」
「ガンナーは攻撃範囲に入るだけでも命取りだ……前衛には全く頭が上がらない」
「ああ、本当に……うちは女子のアタッカーが多いからな」
「君たちもなかなかいい射撃をしていたな。射撃手の先輩として、後輩が順調に育っていることを嬉しく思う」
「恐縮です、綾瀬隊長」
「今後も自分たちなりに腕を磨いていきます」
唐沢と木瀬もよほど神経を使ったのか、クマができるほどに疲弊が目立つ――それは皆同じなので、『ヒールルーン』と緊張を解すための『リラクルーン』を全員にかけていく。
「はぁ、効くわね……この回復魔法。効いてる箇所に光る文字が浮かぶとか、中二病をくすぐる演出で良いわ」
鷹森さんは待機組なのでさほど消耗していないようだが、一番喜んでくれていた――というか、恍惚とした表情までされると回復呪紋を使いづらくなる。
「玲人さんはすごいですね、本当になんでもできて……あっ……」
そうだ――さっきは勢いで名前を呼んでしまったが、ハルの正体が『桜井ソアラ』さんであるというのは、彼女にしてみれば隠したかったことのはずだ。
今後はどう接すればいいかと思っていると、彼女は帽子を少し気にして被り直し、こちらに近づいてきた。
「(……さっきのは内緒ですよ? 私、お忍びで葉月さんのことが心配で来ちゃったんです)」
「そ、そうだったんですか……」
普通に敬語になる俺。さっきまでは同じ年頃の少年として接していたが、実は人気配信者――というかアイドルに近い人だと分かったのだから、脳が少々バグってしまっている。
ソアラさんは他の人に聞こえないようにということか、さらに俺に近づき、耳元で囁くくらいの声で言った。
「さっき名前を呼んでくれたとき、ドキッとしました。気づいてなかったはずですよね……なのに土壇場で気づいちゃうなんて。これって……」
「……ハルさん、男性同士といっても距離が近すぎないかしら」
「そ、それは友情の距離なんでしょうか……あっ、な、何でもないですっ……」
「ふふ……ハルもなかなか大胆なことをするわね。私も雪理ちゃんのライバルとして、彼に覚えていてもらう努力をしないと……」
「そんなことはしなくていいわ。あなたとの手合わせは楽しみだけど、玲人の記憶にあまり破廉恥な人を残したくないから」
「はぅっ……ハレンチなんて言葉を雪理ちゃんに言わせてしまうなんて。ゾクゾクして腰に力が入らなくなりそうよ」
「……ちょっぴり変態さんだったりします?」
「そ、それは言い過ぎではないかしら……確かに折倉さんがそういうことを言うと、新鮮さはありますし」
伊那さんと鷹森さんは微妙に馬が合うようだ――と、まだゾーン内に余震が残っているので、あまり長居はしていられない。
「幾島さん、今マップはどれくらいできてる?」
『現在27%ほどです。討伐隊のマップデータを提供してもらえたために大きく上昇しました。第2エリアに通じるゲートについても発見できています』
「よし……! 綾瀬さん、第2エリアのゲート位置が分かりました。皆さんに共有します」
「ありがとう、本当に助かる……部隊員も落ち着いているし、いつでも移動は可能だ。その女の子についてもこちらで運ぶことはできるが、どうする?」
「その、そちらでの運び方っていうのは……」
「フロートモービルというものがある。魔力で駆動する乗り物だが、負傷者を載せて運ぶためにも使われているものだ……そう、これのことだな」
討伐隊の隊員の人が空中に浮かんで滑るように移動する乗り物を持ってきてくれる。なるほど、これは色々な用途に使えそうだ――人を寝かせられるスペースもある。
「すみません、よろしくお願いします」
「何も気にしなくていい、君のためにできることがあるなら我が隊の誇りだ。では、陣形を組んで移動を始める。全員配置につけ!」
『はっ!』
恐慌に陥っていた綾瀬さんの部下たちは、すっかり落ち着いている――このエリアに出る敵に対しては、彼らに任せておけば安全だ。
「あ……すみません綾瀬さん、もう一ついいですか。俺たちが作ったマップ上に食糧のある場所が表示されてるんですが、そこに寄って回収してもいいですか」
「っ……そ、そうか、食糧が……一度撤退する際に食糧を積んだモービルが壊されてしまってな……」
「そのまま食べられる果実ですし、十分量もあるので、寄って採取していくのがいいと思います」
「本当に恩に着る……何から何まで」
部隊員は食糧があると聞いて歓声を上げている――俺たちは携帯食料が無くなる前で良かったが、彼らにとっては死活問題だったということだ。
「はー、ほんとみんな無事で良かった……もうあーし、どうなることかと思って……」
「姉崎さんは救護活動をして部隊の人たちを勇気づけてたわよ。私にはなかなかできないことだから、感心して見ていたの」
「そ、それはあーしの仕事っていうか……なんかレイ君たちについてくうちに、そういうのもできるようになったんだよね」
おそらく姉崎さんは『激励』のスキルを覚えたのだろう。そして彼女が別エリアにいたとはいえ、『経験促進』は効果を発揮した――彼女のサポート能力は、彼女自身が思っているよりもずっと高いと感じている。
「ありがとう、姉崎さん」
「えっ……そ、そんな……あっ、じゃあその……レイ君が褒めてくれるんだったら、何かご褒美とかあったりする?」
「勿論それは当然というか、メンバー全員に……」
感謝しているし、何かしたいという気持ちがある――と言う前に、皆が期待の目を俺に向けてきている。
「……でも、全部ミアさんのことが落ち着いてから、ですね」
「そうだな……ごめん、気を遣わせて」
「いえ、ミアさんが元気になったら、一緒にお話したいなって……私も、そう思っているので」
黒栖さんの言葉に胸が熱くなる。みんなの前で無ければ、情けないところを見せてしまっていた。
ようやく仲間に会えた。仲間を取り返すことができた――今はまだ眠ったままのミアだが、必ず目覚めてくれる。
第2エリアに移動すると、民間の討伐者たちが食糧と水の不足でそこかしこに倒れていた――食糧と水を確保してきたことがここにきて良い方向に働いた。
そして特異領域に侵入してから約半日が過ぎた頃。俺たちは、再び陽の光の下に出てきた――外はすっかり夕陽の色に染まり、ゾーン内での事故を知って駆けつけた人たちが、無事に出てきた人たちとの再会を喜んでいた。
※お読みいただきありがとうございます、更新が大変遅くなり申し訳ありません!
ブックマーク、評価、ご感想などありがとうございます、大変励みになっております。
※この場をお借りして告知のほう失礼させていただきます。
本日8月25日に「ログアウトしたのはVRMMOじゃなく本物の異世界でした」
書籍版4巻が発売となりました!表紙は画面下部に表示させていただいておりますが、
今巻で活躍する「桜井ソアラ」、そして奥にいる玲人が目印です。
イラストを担当していただいているKeG先生には今回も大変素晴らしい表紙・挿絵を描いていただき、
キャラクターたちの魅力が目一杯引き出されております!
書き下ろし部分もございますので、よろしければ書店様などでチェックを頂けますと幸いです。
また、本の帯にも書いて頂いておりますが本作のコミカライズが決定しております!こちらについては後ほど詳細をお伝えさせていただきます。
改めまして、今後とも本作をよろしくお願いいたします!m(_ _)m




