表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

面白そうなことやってるじゃん!

遅くなりましたぁ!

 まあいい、まさかの謙遜の事はいったん忘れよう。それよりもいま重要なのはこれからどうするか、だ。


 迷惑をかけているのはわかっている、でも結局は政府の方針だし、絶対に診察は受けないといけないってもののはずでもないはずだ……あれ、義務だっけ? まあいいや、オレまだしょーがくせい、難しいことなーんにも知らない。


 とりあえずまずは病院から出よう。確かこの病院には北口、東口、西口がある。


 東口はオレの姉が入ってきた入り口で、北口は逃げてきた方角にあるから使えない、出るなら西口だろう。


 思い立ったオレはそのまま足を動かして、周囲から感じる奇異の視線を無視しながらずんずんと病院内を進んでいった、そして特に何の障害もなく病院からの脱出に成功する。


 露出した太ももに刺す紫外線、ポケットに突っ込んだ手が妙に暑苦しく感じてオレは手をパーカーから出すと、そのまま大きく伸びをした。


「はぁ~……逃げれたぁぁ……。」


 体力に気を使いジョギング程度で病院の敷地を抜け、オレはいま大通りの人ごみの中にいる。


 仮面さえあれば人ごみも怖くない、それどころか余裕もあるし、色々と見て回るのも良いかもしれない。家に帰るって手もあるけれど、せっかく外に出てきたんだから外じゃないと出来ないことがしたい。


 オレは背負ったバッグの中身を確認する。


「んー、クレカと……水筒と……。」


 水筒と……何もない。水筒で最後、本当に何も持ってきていなかった。あとはポケットに入れた携帯端末だけ。


 でもまあ、お金があるだけいいか。お金さえあれば大体何でも出来るんだ。でもするとしたら何だろう……。


「……あ、そうだ。」


 瞬間、オレの脳裏に天啓舞い降りる。せっかく外に来たんなら行くところは一つしかないじゃないか。


 オンラインもいいけどたまにはオフラインも良い、オレは駆け出し、奥に見えた電灯色豊かな看板の前まで走り自動ドアを通り抜ける。


 人の喧騒と機械の稼働する音、金属と金属が擦れあうジャリジャリとした不協和音。

 そんな音が絶えず鳴り響くここは、オレからしたら天国の一つ。


「ゲーセン!」


 ゲームセンター、オレの中の人格が生きていた古来の時代から伝わる素晴らしい園。


 金を溶かして娯楽に浸かる、それは云わば……上手い言葉がなんも思いつかないな、まあいっか。


 とにかくここは素晴らしいところだ、小学生並みの語彙力で申し訳ないけれどオレは小学生だから無問題。


 ただ一つ、前のオレが知っていたゲームセンターとは一つだけ違う部分がこの時代では存在する。

 eスポーツの文化が大きく発展し、ゲームというものが最大手の娯楽に成り上がったこの時代において、ゲームセンターとは球場や映画館などと同等のものなのだ。


 オレは七色の電飾で飾られた大部屋の中に入ると、奥にあるイベントブースへと歩を進めた。


 徐々に大きくなる喧騒、大きめの体育館ほどもあるそのゲームセンターの敷地の奥に進むにつれて、高くなる人々の密度によって気温が上がり始めたのを感じる。


「やっべ……狐面あってよかったマジで……。」


 こんな所にもしもコレ無しで放り出されようものならきっとオレは地面に蹲ってうなり声をあげながら動けなくなってしまうと思う。

 けれど大丈夫、今のオレにはこの仮面がついている、目立ってはいるけど問題ない。


 そんな事を考えながらも足を進め、明らかに周囲から身長的にも様相的にも浮いていることを自覚しながら奥へ奥へと進んでいく。


 多種多様なゲーム筐体から漏れた光のみで照らされた仄暗い空間を抜け、やがて一層明るいフロアに到着する。

 そうしてやって来たのは大広間、周囲をスタジアムのように高台と椅子で囲われた場所、ちょっと豪華なゲーム大会会場と言えば分かるだろうか。


 中心の円形大台に二台背中合わせに置かれたゲーム筐体と、その周囲に数台置かれた同じゲームの筐体、そしてごった返す人、人、人。


 これはなんのゲームのイベントなんだろう。そういえば何となく面白そうだから来てみたけど、何をやってるのは一切知らない。


 オレは近くに貼ってあった紙状スクリーンに書かれた文字を読む。


「『エンジェルディオV』……飛び入り連勝大会……?!」


 思わず声に喜色が混じった。

 エンジェルディオ、確かオレが産まれる少し前に無印版が登場して大ヒットした格ゲーだったかな。


 プレイヤーは天使になって広大なフィールドを超速で駆け回り、点在する街を信仰の支配下に置いて信仰パワーを得る。

 そして得たパワーで自らを強化、敵プレイヤーと闘いながら敵の手に落ちた街を破壊したりしてリソースを削りあう、格ゲーと戦略ゲーを上手くマッチさせた当作品、その最新作である五作目だ。


 もちろんオレだってやった事ある、というか高かったけどダウンロード版をパソコンに落として一時期やり込んでた、実機と同じコントローラーも揃えたし、ダウンロード版と筐体版のクロスプレイも可能だったから普通に野良に潜ってた。


 買ってしまえばあとは経費が掛からないダウンロード版と一回100円の筐体版だと前者の方が良いんじゃない? というのが昔の時代を生きていたオレの感覚だが、今の世の中ゲームセンターで筐体でのプレイを行うとみてた人が投げ銭をくれることがあるから意外と何とかなる。

 ストリートギターのようなイメージだ。


 そして今回はそんなゲームの大会、否応なしにオレの心は沸き立ちスクリーンの文字をさらに読み進めた。


「えっと、周りの十八台の筐体で……?」


 フィールドの中には中心に二台、周りに十八台の筐体が設置してあり、番号が振られている。


 『I』と書かれた二筐体から時計回りに『II』『III』と番号が増えていき、中心に座す『X』の文字、そして『X』の対面に座る細身の黒服。

 

「まず初めに『I』の台からスタートし、見事勝利すれば『II』の台へ、『X』の台へと到達しガーディアンとの挑戦権を得よ……なるほどね、んで飛び入りだから参加は自由と……。」


 ルールを確認しながら更に目線を下げ、景品と書かれた欄に目を通す。やっぱりどういうものが貰えるのか気になってしまうのだ。


「『IFN2200』……まじかよ、めっちゃ欲しい……。あ、でも『№1エンジェリスト』の称号はいらないかな。」


 『IFN2200』が何なのかというと、最高級の腕時計のようなものだ。

 かといってそれがブランドだとかそういうものじゃない、とにかく実用性と娯楽を突き詰めたオレ的にもぜひとも欲しい一品。


 空間投影モニターに、どんなに処理が重いサイトやゲームでも一瞬で読み込むことが出来る処理速度、持ち運びが自由のくせに据え置き機とほぼほぼ変わらない性能を発揮するそれはまさに超小型オーバースペックパソコン。


 ただ……物凄く高かったんだよな、八桁くらいしたっけ。そんなものを景品に出せるここは相当儲かっているのか、それともあの中心で偉そうに座している黒服がそんなに強いのか……まあ両方だろうなぁ。


 でももう心は決まった、こんなの逃す手はない。


「面白そうなことやってんじゃん……!」


 思わず漏れた言葉は本心、こういうイベントがあるならたまには外に出るのも良いかもしれないと思う程度には。

 今度色々調べてみようか、これだけのイベントが即興で始まったわけもないし、きっと盛大に告知なども行われていたんだろう、最近ネットサーフィンしてないから知らなかったけど。


 参加方法を確認してからスクリーンから離れ、近くに置いてあった箱形の認証装置の前に立った。

 オレはポケットに入れていた携帯端末をを取り出すと指を這わせて一つのアプリを起動する。


 起動したのはエンジェルディオの公式アプリ、自らのIDを入力してログインすると映し出された灰色の四角、超細かいバーコードを認証装置にかざした。


【確認。ようこそ、本大会へ。『Seraph(セラフ) rank RISETA』の出場を歓迎いたします。】


「あははー……!」


 仮面の奥で口角が上がるのを自覚しながらオレはおかしな笑い声を漏らす。


 めっちゃ楽しみになってきた……!

大丈夫、エタりませんよ。


ブクマや評価、等々を貰えればトオリ君と作者のモチベが上がります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ