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未来の世界の外気は特に汚染されている等という事はないけれど、オレにとっては毒である。

ごめんなさいぃぃ! 昨日投稿する予定だったのにぃぃぃ!!!

「ゴホッ、ゴホッ……あ、姉貴ぃ……オレはもうダメだ、オレの事は良いから、一人で病院に……!」


「あら大変、一緒に行きましょうねー。」


「うあー……!」


 その場で足を踏ん張っても、無理やり繋がれた手を引っ張られてオレは地獄へと向かう。

 無理やり荷造りして背負ったバッグはそんなに重くないはずなのに、どういう訳だかオレには重りのよう、気分は修行僧である。


 フードは被っているけれど顔にかかる太陽の光はオレを蝕み、気力をガンガンと削り精神もゴリゴリと削り、身体にかかる重力を倍増させていく。

 でもそんなオレを普通に引っ張って進むこのゴリ……姉は非情である。


「なんでそんな嫌がるの、もう家から出ちゃったんだから諦めなさい。」


「だって、だってぇ……!」


 嫌なんだもん、外出るの。

 家にいれば何でも出来る、ゲーム出来るし、あとゲームだって出来るんだ。

 ゲームも出来るし、あとゲームと、ついでにゲーム、ゲームが出来る、なんて素晴らしい、理想郷じゃないか。


 しかしそれを姉に伝えても分かってもらう事は出来ない、前に一度話したら凄い変な顔で頭の心配をされた、解せぬ。


「んー、あんたと外出るの新鮮な気分ねぇ。」


「そうだね、新鮮すぎてオレには刺激が強すぎるよ。帰らせて。」


「ダメ。」


 二言目には帰宅を求めるオレの言にも慣れてきたのか、姉の対応が徐々に雑になっていく。

 アスファルトとはまた違う、ザラザラとしながらも傷が殆どない石灰色の道を姉に手を引かれながら歩きながら、オレは周囲を頻りに見渡した。


 周りには人がいっぱいだ。でもやっぱり大体の人が黒髪で、目立つ髪色と整った容姿の姉は当たり前のように目立ちそんな姉が連れているオレという存在も目立つ。

 その目立ち度を形容するならあれだ、小さな商店街で外国人が歩いている感じ。


 そもそもの話、オレは実は人前に出るというのが苦手なのだ。


 顔合わせだとかリモートだとかそういうのなら問題ない、どもる事もなくいつも通りの悪態を吐くことが出来るんだけど、人前に顔を晒して実際に喋ろう! となるとさあ大変。オレはドモりまくる典型的な陰キャに早変わり!


 いや、陰キャが悪いわけじゃないけどさ……そもそも陰キャって言葉自体もう死後も死語、ひいおじいちゃん世代が知ってるかどうかっていうレベルの言葉でしかない。

 ゲームが大流行して、そういう時代になったからか陰キャ陽キャの区別は自然と消えたらしい。相変わらず普通に身体を張ったスポーツという概念はあるけどeスポーツだって発展してみんなゲームやるから、色々と馬鹿にする人たちも馬鹿らしくなったんだと思う。


 まあとにかく、そうなるとオレは無害な一人の幼い少年でしかなくなる。学校に行きたくない理由の一つもそれ、人と最低限しか話さないのに人と仲良くなれるわけないじゃない?


 活気のある地域に近づき徐々にすれ違う人数が多くなってくると、オレは思わず姉の手を反対の手で持ち換えて開いた手で姉の裾を握った。今だけはこの姉が何とも頼もしい、オレを無理やり連れだした元凶って事を含めなければ。


「あら、今日はずいぶん可愛いわね。もっと連れ出そうかしら……。」


「やめて、死ぬそれ……。」


「ふふっ、普段からこんなトオリだったら何でもお願い聞きたくなっちゃうかもね?」


「えぇ……。」


 普段どんなにあざとく媚びても揺らがないあの金剛ハートを持った姉が……だと……?

 どこが良かったんだ、この腕を抱きしめて裾を握ってる感じか? それとも、怯えているオレに萌えを見出した……まさかサディストか!?


「あ、姉貴……オレ痛いの嫌だから、優しく……。」


「何言ってんのあんた?」


「だって、姉貴って実はドえ――。」


「あ゛?」


「ひっ!」


 姉の恫喝にも似た声に、その腕をより強く抱きしめ身体を密着させる。

 助けて愛しのお姉ちゃん、オレをどうか野生のオーガゴリラから助け……いや、今縋ってるのかそのオーガゴリラか、ってかなんだオーガゴリラって。

 あぁ、オレは外気にやられておかしくなっているのだろう。


 オレは大切な姉を思う気持ち99.9%と極々僅かな不純を込めて姉へを警告を下す。


「姉貴、やっぱり外は危険だ。帰ろう。」


「やっぱり頭見てもらった方が良いんじゃない?」


 オレは正常だ、健康体だ。病院に行かなくてもいいほどに。


 あー、本当に行きたくない。なんで病院なんて行かないといけないんだ、定期健診? んなもんいらん、何なら家に派遣してくれ。

 オレが小鹿のようにぷるぷるとしながら姉に縋っていると、進行方向から異様に明るい声が聞こえてきた。


「あれー? アイちゃんじゃん! どったのー?」


「ん? リリじゃん! そっちこそどうしたのさ、買い物?」


「そだよー、アイちゃんは? ってかその腕に張り付いてる緑の塊なに?」


「あ、え、姉貴……だれ……?」


 突然現れ突然姉と親しそうに話し出した金髪の女、髪の生え際からわずかに黒が見えるあたり、あれはオレ達みたいな地毛ではなく染めたものだろう。

 まずい、オレのドギマギゲージが危険領域に入った、初めてあった人に突然こうして注目されるとオレは話すことが出来なくなる。


 そんな状態のオレを姉が紹介しやがった、この弟の状態を見ていないのかこの鬼め。


「あぁ、この子はトオリよ。前に話したでしょ、出不精極めた弟。ほらトオリ、このギャルはあたしの友達のリリよ、挨拶しなさい?」


「……!」


 オレはとっさに姉の手を開放すると、バッグを前に回してその中から一応持ってきたタブレットを取り出す。

 そしてメモを開いてパソコンで鍛えた高速タイピングを発揮する。


「……。」


『初めまして。いつもうちの愚姉がお世話になっております。』


「え、文字で会話? 普通に話しなさいよ……。そもそも愚かな姉って何よあんた。」


「アハハ! アイちゃんの弟くん面白いじゃん! ねね、家でのアイちゃんってどんな感じ?」


 手早くキーボード入力で文字を打ち見せると、姉からは困惑の声、そしてリリと呼ばれた姉の友人Aからは笑い声と共に再び質問が投げかけられる。

 フードで顔を隠したまま、家での姉の様子を思い出す。家で……家での姉貴は……。


「……。」


『オレを地獄に誘う悪魔兼ゴリラ兼オーガです。』


「ぷふっ!」


「トオリィ……!」


ゴッ!


「いだぁ……!」


 突如として頭に降りかかったゴリラのゴリラたる所以の理不尽たる暴力に、思わずオレは頭を仰け反らせる。

 反動でフードがはらりと頭から落ち、オレの薄緑の髪が舞うとともに直射日光を浴びてしまったオレは思わずその場に座り込んだ。


「うぅぅ……。」


「あ、ごめんトオリ、やり過ぎたかも……。」


「お日様なんか嫌いだぁ……。」


「大丈夫そうね。」


「へー、弟くん、本当に弟? 女の子みたいで可愛いねー、あたし知ってるよー。これが萌えってやつでしょー。」


 あ、この姉友ギャルはオタク文化を受け入れるタイプ良い人だ。オレの中での好感度メーターが僅かに揺れ動いた。

 いやでも、話すのは怖い……あ、そうだ!


 オレは顔を覗き込んでくる姉友ギャルの視線を遮るように再びフードを被ると、バッグの中からもしかしたら何かに使うかもしれないと思って持ってきた狐面を取り出して顔にはめる。

 何に使うと思ったのかって? オレにもわからない、とりあえず近くにあったから入れた。

 だって、荷造りって普段する事ないからどういうもの入れていけばいいのか分からなかったんだもの。


 仮面を付けると、何となく安心感が沸く。先程までの不安感は既になく、オレの中に代わりに渦巻くのは万能感。

 ははは! オレは人間を辞めたぞ! と叫びたくなる。……そういえばあの漫画、前に第五十二部が始まったんだったかな、なんだったら帰りに本屋寄って行って貰おう、技術の発達が目覚ましいこんな世の中でもファンによって紙の需要というものは絶えないのだ。


「ふぅ……改めてこんにちは、姉貴の友達ですね? いつもお世話になってます。」


「え、突然弟くんキャラ変わったねー。つーか声も可愛いじゃーん! どしたのさとつぜーん!」


「オレ、どうも顔晒しながら直接話すの苦手なんすよねー。これ姉貴が買ってきてくれた中で最高のお土産でした。」


「えっ、もっとあるでしょ!?」


 オレの発言にあたふたしている色々と買ってきてくれる姉には悪いけれど、これが最高のプレゼントだとオレは思う。

 だってこれ便利じゃん。息苦しくないし視界良好だし持ち運びも便利、更には顔を隠せる。これさえあればどもらなくなるんじゃないだろうか。

 ……でも、やっぱり学校では無理かな、認められるわけないし。


 そういえば、今の俺はブカブカなデザインのパーカーにハーフパンツ、そして狐面というなんか漫画の世界から出てきたのか? というような様相だ。

 けど待ってほしい、自分がそんな恰好をしていると思うと、少しだけ気分が昂るものだと思わないかい? オレは思う、そして案の定少しだけ気分が昂っている。


 あー、これならたまに外出るのも良いかも……確かまだアキバってあるんだよね、今度繰り出してみようかな。コスプレイヤーの気持ちを御年10で理解する男、オレです。


「トオリ、そんな姿の子供連れ歩くあたしの身にもなりなさい。はい、外す。」


「え、あっ、やめて! あー……!」


 姉の手が顔を鷲掴み、絶対防壁であり最後の壁でもあった表面の一枚を取り外した。

 目に日光が飛び込み、同時に溢れ出る不安感。昂ぶりなどとうに失せ、今のオレは超絶ネガティブだ。


 姉友ギャルは、そんなオレを見て面白そうに笑っていた。

書くの楽しい。それはそうとハッピーハロウィン! ムーンライトの方に短編上げようと思ってます。

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