パンクでバーサークしたヤバいゲーム
書いてて頭おかしくなりそうでした。基本的にこういうノリで書いていきたいと思います。
私の脳が溶けてしまうまでは。
「さて、じゃあ久しぶりにパンベルにログインすっかなぁ。何日ぶりだっけ。」
オレは『部屋がホストによって閉じられました。』の文言を右上の赤バツで消し、3つのモニターのうち右のモニターに表示されているフォルダを一つクリックする。
『ゲーム置き場』と書かれたそれは、オレが今までに遊んできたゲームの数々である。
クソゲーから神ゲー、たまにあるクソゲーを謳って人を誘い実は神ゲーでしたみたいなゲームまで、あらゆるものを取りそろえたそこはオレの歴史といっても過言ではない。
技術は進んでも、相変わらず携帯ゲーム機やPCというものには需要がある。圧倒的に先を進んだとてつもないものが例えあろうとも。
「VRMMOあるからなぁ。21世紀じゃ考えられないね、実現するなんて思わなかったわ。」
圧倒的に先を進んだとてつもないもの、つまりそれが進化したVR技術というやつだ。
オレも最初にそれがある事を知ったとき、胸が震えたね。もう張り裂けそうなくらい興奮して叫んでたら姉がオレの事を引っ掴んで無理やり病院に連れてかれそうになったね。
まあそれはいいのだ、今はパンベルの事だろう。
【Punk Berserk】、通称パンベル。4年前の2139年に発売された対戦ゲーム。ハードはPCのみだけど、全世界で100万本売れる程度には流行ったゲームである。
先ほどオレはクソゲーから神ゲーまで取り揃えていると語ったが、ならばこれはどちらに分類されるのか、オレは即答できる。これは間違いなくクソゲーであると。
10歳児であるオレが語るのもなんかおかしな話だけど、昔のゲームと比べてここ5年10年のゲームは本当にバグが多い。
確か新しく出来たゲーム開発環境のせいだったかな、作る速度は上がったけどその代わり粗が目立つようになってしまったとかなんとか。
「すり抜け、無敵、当たり判定消失から当たり判定召喚まで、もう意味わかんないよね。」
そんな有り余り果てしなく続くバグ除去をやり切ったゲームが神ゲーであるとするならば、その逆のクソゲーはどうなるか、然りである。
パンベルは、とにかくとことんバグだらけ。幸い致命的なバグは無いものの、今も新たなバグが発生し続けているという意味が分からないゲーム。
ゲームを始めようとキャラを選択しようとしたら、いつの間にかエンディングを見ていた。こんな事だってザラである。
そのバグの過密さは、世界一バグが多いゲームとして一時期ギネスに乗る程だ。
だが、パンベルは売れたのである。何故売れてしまったのか。それはオレのプレイ風景を見てもらえるとすぐにわかると思う。
「あー、このオープニング画面懐かしいなぁ……えーっとバグコマンドは……。」
オレは机の下から引っ張り出した格ゲー用のアナログスティックを取り出すと有線で接続し、画面に表示されているもう訳が分からないオープニング画面を無視しコマンドを思い出しながら入力していく。
オープニングでコマンドとかファミコン世代のゲームかよと思うかもしれない、そんなものよりもっとこれは悪質だと思う。
「んーっと……よし出来た!」
赤いモヒカンのごつい男が舌を出して火炎放射器を掲げながら頭をブンブンと揺らしているという、なんともパンクでハブられるという意味で反社会的な世紀末オープニングが突如としてフリーズし、無音の画面に切り替わった。
その画面には文字が大量に浮かんでおり、様々な文字列が所狭しと並んでいる。
さて、これが何なのか。これはキャラエディット画面である。しかしただのキャラエディット画面ではない、デバッガー用キャラエディット画面、つまりデバッグ画面である。
普通のとどう違うのかと思うだろうか?全然違う、何しろ何でもいじれるのだから。
「えーっと……体力は当たり前のようにカンストさせ……いや、敢えて1にして火事場狙いかな、必殺キャンのバグってもう対策されてんのかなぁ……。攻撃力……は、1、4、2、7、……確か9、よし成功、技を切り替えて……。」
そして驚くべきことにこのゲームには、個人がゲームを改変するmodification、通称MODというものが殆ど存在しない。
人気のゲームであればそれだけMODは作られ配布されるはずのこの界隈にあって、このゲームに関しては別ゲーのえちえちなキャラのスキンを追加したりだとかキャラの見た目を変更する通称美化MODだとかそういうものしか存在しない、というか存在し得ない。その理由は至極単純なものである。
だって、いらないんだもの。
武器の巨大化?バグを使えば出来ます。攻撃力のカンスト?バグを使えば出来ます。モーションの短縮?バグを使えば出来ます。
分類的には格ゲーのくせにサンドボックスゲームかくやというとてつもない(開発の意図しない)自由度を誇るこのゲームに、MODなどいらない。
1のモーションから100のバグへと派生するようなパンベル、誰に聞いてもクソゲーだと答えるはずだ。実際オレもクソゲーだと答える。
でも実際にプレイしてある程度までやった人は口をそろえてこう言うはずだ。クソ神ゲーだと。
何がこのゲームを神たらしめているのか、それは対戦機能にある。
「よし!初期セットアップ完了!じゃあランクマ潜るかぁ。」
オレはデバッグ画面から再びバグを意図的に発生させて、ランクマの待機画面へと移行。バグの様々な情報を思い出すように眼を瞑って脳を整理し始めた。
オレの使用するキャラは、オレと同じ緑髪のアフロに消火器を持った巨体のキャラ、『ジョニー』。
普通格ゲーといえばキャラによって性能が全然違い、使い方も多様なのが普通だろう。けどぶっちゃけこのゲームにおいて何のキャラを使おうが大差ない。
ならなんで選んだのか。髪色が同じだから、それだけ。
「あ、来た来た!えっと、【ルードリッヒンヒン】さんね、凄い名前だなぁおい。キャラは『スレイ』ね、あぁだからヒンヒンなのか……。」
オレはスレイという馬を無理やり二足歩行にして競馬で使う鞭を持ったキャラを見て思わず呟く。馬だからヒンヒン、ネタに溢れてていいじゃないか。
適当なことを考えながらもオレのコントローラーをたたく音は止まらない、ゲーム開始前、しかし既にゲームは始まっているのだ。
画面が一瞬暗転し、同時にオレはコントローラーをガチャる。
『Three!』
明転したとき、普通ならばお互いにある程度の距離を保ち向かい合っているという格ゲーの当たり前を無視した光景がそこにあった。
オレのキャラは、既に馬面の真ん前にいる。
『Two!』
画面全体に影が差し、緑アフロは持っていた消火栓を上に放り投げてそれと一緒に自らも大跳躍をした。
暗い画面は超必殺技の特徴、超必殺技は当てれば問答無用でワンパンだ。本来動けないはずの戦闘直前待機画面で動くというのは、この界隈においては息をするようによく行われる事の一つだ。
『One!』
しかし相手の馬面スレイもただ突っ立っているという訳ではない。オレよりも一瞬遅れて手に持った鞭を大回転させ始め、画面にさす影がより一層深くなり画面が見えにくい。
超必殺技の同時発動は、ゲーム画面が暗くなり過ぎるという理由でゲームの仕様上不可能にされているあるはずなのだが、ゲームの仕様などあってないようなものだ、当たり前のように超必殺が飛び交うのがこのゲームである。
そして、万が一超必殺技が二つ同時に発生した場合、前者の超必殺技の即死判定は後者の超必殺技の無敵時間に阻まれ後者のみが有効化するとかいう法則によって、このままだと負けるのはオレの方だ。
だがさせない、オレをそんじょそこらのパンベルプレイヤー、パンベラーと一緒にされては困る。
その動きを見てから急いでボタンとレバーでコマンドを入力していくと遥か空中に飛び去ったはずのジョニーが突如として画面の反対側に姿を現し、その手に持った消火器を思い切り握りつぶす。
握りつぶされたことによって発生した白い煙が相手の方へと向かい、馬面スレイは回転させていた鞭を引っ込めスタンに入った。
本来このゲームでは超必殺技中は怯みとダメージ無効である。だが本来などこのゲームには存在しないのだ。
これも当たり前のように使われるバグの一つで、画面端から波〇拳だとかそういう遠距離技を放った場合、超必殺発動中の相手は謎のスタンに陥るというものがある、それを利用しただけの事。
そして画面端に移動したというか、正確には出現させたという方が正しい。
キャラクターが画面上に存在しないときに一定の操作を行うと、次ラウンドの操作キャラがスポーンするというバグを利用したのだ、更にスポーン場所もコマンドの改変によって弄り画面端にと変更している。
スタンしている馬面スレイの真上から、突如として白い光、次の瞬間光は白から赤へと変わり、ジョニーの野太い声がどこからともなく聞こえ始める。
『ooooOOOOOOOOO!!!!!』
「エクスティングウィッシャー!カノーン!」
『extinguisher!cannoooon!!!』
中身の白い粉を後ろに周囲にまき散らし謎の推進力を得ながら、巨体でその小さな赤い消火器に跨ったジョニーが空から降ってくる。
カオス極まりないその状況、でももうそんなものとっくに慣れた。
無駄に本場の声優さんを使ってるお陰か、ネイティブな超ハイテンションクソ意味わからない安直必殺技名詠唱と共に飛来したジョニーと消火器は、見事馬面スレイの顔面に衝突して馬面スレイのHPバーを真っ黒に染める。
画面端の緑アフロと反対端の緑アフロが完全にシンクロした動きで決めポーズを取った。
画面にデカデカと金色の文字がデデーン!と出現する。
『Perfect Punk!!!』
『Let's Punk!!!』
ラウンド獲得を告げるアナウンスと共に現れる今ラウンド開始の合図。本来そこから全てが始まるはずなのに、とっくにラウンドは終わってしまった。
それなのにも関わらず律義に出てくるそのド派手な燃えたエフェクトの掛けられたLet's punkの8文字に、オレは涙を禁じ得ない。もちろん笑い過ぎて涙が出てきただけだが。
まあ、分かって頂けただろう。これが【Punk Berserk】、名実ともにゲームとして反社会的でバーサークしているのに、どういう訳だか面白い。クソ神ゲーである。
続きが気になった!ぶっちゃけこのゲームやりたい。
という方は、ブクマと評価で直接的な評価ptへの支援、感想で作者の心への支援、レビューで多大な宣伝効果による間接的な支援をよろしくお願いします。
この作品は不定期更新ですので、皆様の応援が執筆意欲へと直結します。