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ダメ人間?失礼な!

「姉貴ー、やめてくれー。」


「抵抗するならするでもっと感情込めなさい。というかシャワーに入るだけでしょうが!」


 無理やり両の手を上げられ、着用していたダボダボTシャツを没収される。オレはゲームをするときには解放感が欲しいのだ、かといって裸だと、夏場の暑い日でもない限りは何だか落ち着かない、だからこそいつもオレの適正サイズの二つくらい上の服を部屋着として使用しているのだ。


 そして今度は下に履いていたハーフパンツも没収、可愛らしいウサギさんのプリントがされたパンツもすぐにずり下される。


「キャー! 姉貴の変態!」


「うっさいわねぇ。誰が10歳児のソレ見て興奮する奴が居るのよ。」


「ネットだと結構多いよ? ってか姉貴はショタコンでしょ?」


「違いますけど!?」


 いいや、絶対ショタコンだね。こんな可愛い弟が居たらショタコンに絶対になるはずだ、オレはそう思う。

 

 ちなみに姉貴は既に服を全部脱いでいる。健康的な女子高生の全裸……いや、姉貴のだから別に変な気分にならないし、というか姉で興奮する様な性癖はオレにはない、二次元ならともかく……。


 え?だったら姉貴もそうなんじゃないかって?いや、オレ2.5次元系だし。


「ってかさ、オレ別にシャワーくらい一人で入れるけど。」


「あんた、髪洗うの下手でしょうが。」


「え?」


 髪を洗うのが上手いも下手もあるもんか、床屋さんとか洗髪店でもあるまいし。

 ちょっと濡らしてシャンプー泡立たせてゴシゴシした後リンスでちょっと揉めば終わりだ。


「あんた、男の洗い方してんのよ……。」


「オレ男だけど……はっ、まさかオレって、実は生物学上は女……!?」


「ちっちゃいのぶら下げながら馬鹿な事言わない! あたしが言ってんのはその髪の長さ! 男にしては長いじゃないの。せっかく綺麗な髪してんだからちゃんと洗わないと損よ。」


 オレの髪の毛は普段後ろで縛っているが、解くと大体肩に掛かるくらいはある。

 これは別に伸ばそうと思って伸ばしたわけじゃない、切るのが面倒だったから放置したら伸びただけだ。それを綺麗と言われても、愛着も何もない訳だし「へーそうなんだー」で終わってしまう。


 まあそんな事を言うだけあって姉の薄緑色の髪の毛は弟としてのひいき目を除いても輝いていて、普段から天使の輪が現れるくらいにはサラサラだ。

 まあ例えオレが同じような髪質だとしても外に出ないからどんな髪だろうと関係ないんだけど。


 そんなこんなですっぽんぽんに剥かれたオレは押されるように浴室へ入り、プラ製の小さな椅子に腰を下ろさせられた。


「はぁい目ぇ瞑ってー。」


「んんん……。というかさ、シャワー入るなら顔洗った意味ないじゃん?」


「良いじゃないの、朝起きて顔を洗う、あんたが大好きな様式美ってやつよ。」


「まあ、確かに?」


 同意したオレは目を瞑ったまま身体の力を抜く。シャワーに入るという事は面倒な事だけど、入ってしまったのならばその気持ちよさを享受しなければ損だろう。運がいい事にこの姉は頭のマッサージが上手い、文句なしに気持ちいい。


「ん゛ぁぁ……。」


「おじさんみたいな声出さないの、ほんとあんたってつくづく子供っぽくないわね……あぁ、あんたは子供じゃなくてクソガキだったわ。」


「うるさい貧乳。」


「今誰があんたの髪洗ってるか分かって言ってるセリフかしらねそれ……!」


「あ、ちょ、いだだだだだ!!!」


 頭を絞められ思わず叫び声をあげる。というか痛い!叩かれた時の例の様式美と違ってアイアンクローはマジでやめて欲しい、握力が無駄にあるその素手での締め付けはオレに効く。


 なんて酷い事をするのだろう。ただの事実なのに。こんな姉弟間のふざけ合いは日常茶飯事なんだから、いちいち暴力で返してくるのは止めて欲しい。


「もう本当にあんたは……黙ってれば可愛い弟なのにねぇ。」


「え? オレ可愛いでしょ?」


「そういう所よ。」


 知ってる。分かってやってるから。

 でも自分の可愛さが分かっているからこそ、内面との乖離のせいでどうも純粋な子供を演じることが出来ないのだ。自分が気持ち悪くなる。

 だからオレは基本ふざけるし、基本不真面目だ。


 そうこうしているうちにシャワーのお湯がオレの頭に降り注ぎ、泡を洗い流していく。


「ほんとあんたはねぇ。放っておくと3日くらい部屋から出てこないの何とかしなさいよ。」


「だってゲームでやる事多いんだもん。」


「もんじゃないわよ。少しは家事手伝いなさい。はい、身体洗うからこっち向いて。」


「えー。」


 家事手伝えって言われてもなぁ。面倒だ。

 それにちゃんと断る理由だってある。


「一家の大黒柱はオレだよ、姉貴は家事してオレの面倒見てよ。」


「ほんと、何であんたがお金稼げるのかしら……、あたしには理解できないわ。」


「ふふん、ゲームに年齢という垣根は無いのだ……!」


 この22世紀において、ゲームというエンターテインメントの需要は高い。

 21世紀初頭に比べてその規模は数十倍、下手すれば数百倍に膨れ上がりゲーム人口も相応に多くなっている。


 その背景にはロボット工学の発展や進歩による働く意義の低下などがあるのだろうが、細かい事には興味ない、ただこのゲームが大流行りしているという事実だけでオレには十分だ。


 しかも都合のいい法律まで出来てるみたいでオレみたいな子供でも容易にゲームでお金を稼ぐことが出来る、まあ年齢バラしたら色々言われそうだから基本的にオレは自分の年齢を隠してるけど。


 ちなみにオレが大黒柱である理由。それは父さんと母さんにある。


「父さんは死んで、母さんは入院中。まあ多分母さんも長くないだろうけど。だったらオレが稼ぐしかないじゃん。生活保護じゃ姉貴の高校の費用でギリ、大学とか行けないし。」


「あんたには感謝してるけど……どうにも納得いかないわ……。ってかほんとあんたは父さんと母さんに関しては淡白よね。」


「だって、オレ産まれてすぐ父さん死んで母さん入院したじゃん。」


 オレ達姉弟は特異な薄緑色の髪の毛と、金色の綺麗な瞳をしている。これは今の日本には、というか世界には一定数存在する負の遺産である。


 『デザインズヒューマン』、21世紀の終わり頃に開発された、遺伝子組み換え技術の一つの到達点である。

 人より賢く、人より強く、人より美しく。そんな親の子を想う気持ちが暴走したのか編み出されたその技術は、産まれた特異な子供に特異な影響を齎した。


 身体が弱く、寿命が短い儚い存在。確かに人より強く賢く美しく、親が望んだ何かしらの特別な特徴を受け継いでいるけれど、それでは人として以前に生物として劣っている。

 

 もちろんその危険性と人という存在そのものを歪ませかねないその技術は各国によって禁忌とされ厳重に封印された、だがしかし産まれた『デザインズヒューマン』達はそのまま人の世で生き続ける。


 父さんは普通の人だったらしい、まあオレが産まれてすぐに事故で死んだが。だけれど母さんが件の『デザインズヒューマン』であった。


「でもあたしたちはラッキーなのよ? ちゃんと健康に産まれる可能性が5分5分だったらしいんだから。二人ともちゃんと120歳まで生きられるそうだし。」


「ま、そりゃそうだ。」


 それにこんなハイスペックな身体を手にれられた訳だから、結果としては上々だろう。


 まあ長々と世界背景的なものを誰とも知らぬ何かに延々と語っていたわけだが、普通の人であった父さんは死に、『デザインズヒューマン』であった母さんは入院中。収入など高校生の姉に碌な期待など出来たものではない、結果的にオレが大黒柱というわけだ。


 それに家族の情もあるし、なんだかんだ俺も姉の事は嫌いじゃない。大学に行かせてやりたいって思うだろう?


「ほんとあんたの肌ってピチピチねぇ、女の子に産まれるべきだったんじゃない?」


「ふふ。あんまり褒めると照れちゃう。」


「……まだ子供だからかしら、女声上手いわねぇ。」


 ふふん、ネットの出会い厨どもを揶揄うために女声は習得済みよ!ネタ晴らしするときに、何故かより一層喜ぶ人がいるのは謎だけど。

 というか女声よりも通常時のショタボの方が人気あるってどうなの?ネット怖い。


「そういえばオレ、最近ゲームばっかでネット全然見てない気がする。あとで見よっと。」


「学校は?」


「……。」


 嫌だ、オレは行かないぞ。万感の思いを込めて姉の瞳を見つめる。

 ……あのー、愛しのお姉さま、そのブリザードの様な視線はおやめください、何か肌寒いです。


「い、いやー、オレ寝てなくて辛いんだ。通学路で寝ちゃうかもしれない。」


「あんた二徹余裕でしょうが。」


「あ、ほら。オレって可愛いから途中で攫われるかも……。」


「ここら辺そんな物騒じゃないし、あんたなら撃退出来るでしょ。」


 オレの事をよく分かってらっしゃる。流石姉だ。

 だがオレは耐える、耐えて耐えて、その時が来るのを待つ。


「……っ!」


「あ、こらっ!」


 オレの身体を洗い終わり、泡を全て流し終えたことを確認したオレはダッシュで浴室から飛び出した。

 最適化された動きで棚を開けバスタオルをさっと抜き取ると、マットで足裏の水分をふき取りながらバスタオルで身体を包み、二階へと駆けあがっていく。

 だってオレに言い争いで勝てる要素が無いもの。三十六計逃げるに如かずは素晴らしい言葉だとオレは思う。


 勢いよく自室へ飛び込んだオレはタオルを腰に巻きなおし、少しだけ上がった息を深呼吸して整えてそのままベッドに腰かけた。


 すぐにドアの向こう、一階から声が聞こえてきた。


「もぅ! 分かったわよ! 今日も学校に連絡しておくわ!」


「はーい!」


 なんだかんだ、姉は優しいのだ。ベッドに身体を倒して目を瞑る。このまま寝たら風邪をひくだろうか?いやでも一徹の疲れが出てるな、このまま寝て……。


 ピロン!


 ん、なんだ?オレはベッドから重い身体を起こし、パソコンへと四つん這いで近づき画面を見る。右上のメールマークの下に通知を知らせる丸があった。

 すぐにクリックして開く。


 『おはようございます。プロフィール欄で傭兵稼業をやっているという事を知りまして、勧誘のメールを送らせて頂きました。』


 傭兵稼業、お金を貰って一時的にどこかのチームに入るという事だ。

 送り主の名前には見覚えがある、確か前のゲームで良く戦ってた相手だったっけ。オレは引き出しから髪留めを一つ取り出し鬱陶しい前髪を留めると、添付された詳しい内容に目を通し始める。


「ほうほう……金額は文句なし、練習期間は……殆ど無いな。まあ何とかなるか。くふふ、楽しくなって来たぁ!」


 この傭兵稼業だって結局のところ強い人と戦える機会が増えるからこそ始めたものだ、オレのテンションは徐々に上がっていく。

 でもとりあえずオレに必要なものは練習ではない。


「アマテラス様! 岩陰に引きこもりやがれください!」


 おかしな掛け声で遮光カーテンを思い切り閉め、オレはベッドに横になる。ボフンッという音を立ててオレを包み込む柔らかなオフトゥンの感触……たまらねえぜ。


 ……あ、服着ないと……まあいいや、面倒だし。


 練習よりも、上質な睡眠の方が今は欲しい。オレはそのまま意識を手放した。

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