プロローグ
フラヴィ・ラプラスは天才だ。
少なくとも周りはそう思っているし、フラヴィの才を疑ったことはない。そして事実、彼女はものすごく優秀だ。
頭脳明晰で武芸に秀でており、誠実で誇り高い。更に美しい容貌も合わさって、フラヴィを人間かと疑う者までいる。
そんなフラヴィなので、彼女の昇進に嫌な顔をする者はいなかったし、皆20歳という若さで騎士副団長に任命された彼女に拍手を送った。
「あーあ、本当に凄いなあ。ちょっと前まで並んで勉強とかしてたのに」
「ちょっと前って言ってももう4年近く前だろ」
「えっ、嘘。もうそんなに経つっけ?」
同期たちは感嘆の溜息とともにフラヴィを見遣った。最早嫉妬する気も起きない。それほどフラヴィは圧倒的だ。
完璧な挨拶を済ませたフラヴィの凛々しい眼差しに、皆背筋を伸ばして敬礼した。
そしてその夜、ある民家で絹を裂くような悲鳴があがった。
醜く呻いて床を転がる女を、フラヴィは氷のような眼差しで見下ろしていた。もう1人の男は腰を抜かしてへたり込んでいる。
「どうして、こうなったんだっけ……」
「お、おいフラヴィ、落ち着け……」
「私は! 無私の勇気と慈悲の心を持ち、気高く、決して臆さず折れはしない!」
握り締めた手のひらに破片が食い込み血が滴るが、フラヴィは気に留めていない。意味もなく腹を抱えて笑い出したフラヴィを、男は気味悪そうに見たが、すぐにはっと気付いて逃げ出そうとした。
「うがあっ」
鳩尾に蹴りをひとつ。それだけで男は無様に倒れ込んで、堪え切れず嘔吐した。
騎士として鍛えられたフラヴィの一撃は重い。男は涙目で震え出した。
「それをこんなにも! 辱め踏みにじり、揺さぶってくれたのは貴様らだけだ!」
花瓶が割れる音、引き攣った悲鳴。フラヴィはこの時初めて孤独になり、初めて自由になった。
騎士副団長として任命されたこの日、フラヴィ・ラプラスは大罪を犯した。
こんな始まりですがほのぼの田舎暮らしの話です。
次から本編です!