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褒められバスター  作者: 平野文鳥
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第6話 国王の依頼 その1

 ファスト村の一件から三年たった。


 あの一件で評価を上げたファーテルとプレイズに依頼される仕事は増え、それらを二人は一度も失敗することなく確実にこなしていった。特にプレイズの成長ぶりには目を見張るものがあり、顔つきからは子供っぽさが消え、バリアントバスターらしい精悍な顔つきになっていた。そんなプレイズをファーテルは頼もしく思っていた。しかし、プレイズを幼いころから知る者の中には、彼のあまりの変わりように陰口をたたく者もいた。

――プレイズは変わってしまった。昔のように正義のためではなく、ただ実績を上げ、賞賛されるためだけにバリアント退治をする男になってしまった――と。


 ある日の朝、家のドアを激しく叩く音が聞こえた。


「ファーテル殿! ファーテル殿ははおられるか」


 ファーテルがドアを開けると、そこには黒い軍服に赤いマントを羽織った長身の男が立ち、その後ろには十人ぐらいの兵士達が横一列に並び、無表情でファーテルを見つめていた。


「貴殿がバリアントバスターのファーテル殿か」

「そうだが、あなたは?」

「突然の訪問の無礼をお許し願いたい。私は国王陛下の命により参じた近衛隊長のハーベンと言う者だ」


 突然の近衛隊長の訪問に驚いたファーテルは、上ずった声で「ははーっ!」と言ってひれ伏した。ハーベンは抑揚のない口調で淡々と話し始めた。


「おもてを上げられよ。実は、陛下が貴殿たち親子の活躍ぶりを噂に聞き、陛下自ら貴殿たちにバリアント退治を希望された」


 ファーテルは予想もしなかったルーウィン王からの依頼に自分の耳を疑った。


「ま、まことですか? それは光栄の至りに存じます。それで、そのバリアントとはいかなる種類のものでございますか」

「正確に言えば……バリアントではない」

「は?」

「実体なき化け物。つまり……ゴーストだ」

「ゴースト?」


 ファーテルは想定外の依頼内容に困惑した。ハーベンはそれを予想していたかのように話を続けた。


「私も無茶な依頼だとは思う。ただ、陛下が仰るには、ゴーストと言えどもバリアントと同じ化け物。優秀なバリアントバスターの貴殿達なら、今までの経験と知恵でそれ倒すことは決して不可能ではないと信じておる、と」


 ファーテルの額に汗がにじんだ。

 バリアントバスターがゴーストを倒したという話はいまだかって一度も聞いた事がなかった。もちろん彼もその倒し方など全く知らない。だから無責任に引き受けてルーウィン王の目の前で失敗し醜態をさらすわけにはいかない。かと言って、国王直々の依頼を断るわけにもいかないし、そういう立場でもない。ファーテルは途方にくれた。


「陛下は、この仕事を成功させたら、貴殿たちを公認のバリアントバスターとして召しかかえると仰られている。実は私もそうなる事を望んでおる。というのも、我々は人間相手なら絶対負けぬ自信があるが、バリアント相手ともなると、恥ずかしながらまだまだ未熟だ。だから貴殿たちが我々の仲間になってくれたら非常に頼もしい」


(国王陛下公認のバリアントバスターとして召しかかえる……)


 夢のようなその一言にファーテルの手が震えた。


「ハーベン殿。返事はいつまでにすれば?」

「依頼内容が特殊ゆえに、今、この場で求めるのも性急であろう。三日後にでも返事をもらえれば助かる」

「ははっ!」

「良い返事を待っておるぞ、ファーテル殿」


 そう言い残し、ハーベン達は馬に乗って去って行った。それを見送ったファーテルはさっそく訓練に出かけたプレイズを呼びに行った。




「父上。とりあえず書庫にあるバリアント関連の書物をすべて確認してみませんか? もしかしたらゴーストに関する事が書かれているかもしれません」


 プレイズの提案にファーテルは同意した。そして二人はさっそく書庫に入り、手分けしながら埃まみれの古い書物一冊一冊に目を通し始めた。


 それから数時間がたち、窓の外が夕焼け色に染まっていた。

 すべての書物に目を通した二人は落胆した。ゴーストに関する情報を何一つ見つける事ができなかったからだ。


「困ったな……」


 ファーテルは近くにあった椅子に腰を沈め、ため息をついた。


「お断りになられたらどうです?」


 苦悩するファーテルとは逆に、プレイズが人ごとのように言った。


「断る? 国王陛下直々の依頼をか? そんな事が出来るわけないだろ!」

「しかし、依頼を受けて陛下を期待させたのに、もし退治できなかったら陛下を大きく失望させますし、同時に我々の実績やこの家の誇りにも傷がつきます。もともと陛下も無茶な依頼だという事はわかっているようなので、仮に断ったところで激怒して我々を処分するという事はありえないと思います。ですからここは無理せずに……」

「うるさい!」


 ファーテルは大声をあげて立ち上がり、座っていた椅子を蹴り飛ばした。そこにはプレイズが子どもの頃から尊敬してきた冷静沈着な父の姿はなく、ただ感情的にふるまう普通の男がいた。


(どうしたんだろ。いつもの父上らしくない。もしや名誉欲に目が眩んで我を失っているのでは……。まずいな。このままだとゴースト退治を引き受けかねないぞ。もしそうしたら失敗する確率が高すぎる。困った。どうすればいいんだ。 ……ん? 待てよ)


 何かを思いついたプレイズは、胸ポケットから補聴石を取り出し顔に近づけた。いつもなら光るその石は、ファストの一件依頼、なぜか一度も光らなくなってしまった。しかしプレイズはそれを今でも御守りとして肌身離さず持っていた。

 プレイズは補聴石を見ながらつぶやいた。


「もしかしたら魔導師に聞けば、何かわかるかも……」

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