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褒められバスター  作者: 平野文鳥
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最終話 希望の青い光

 居酒屋ローディーから出たフェイム、ファート、ガンテ、トールキンの四人は、再びこの店で再会する事を約束して別れようとしていた。その時、ガンテが皆んなに提案した。


「ねえ~。プレイズにも~再会の事を教えたいから~心で声をかけてみようよ~」


 フェイムが腕のブレスレットを見ながら答えた。


「そうだね。もし距離が離れ過ぎてたら、だめかもしれないけど、チャレンジしていいかも」


 ガンテの提案に賛成した全員が、各々ブレスレットとバーリーの骨を顔の前に掲げ目を閉じた。


(プレイズ、聞こえる? 聞こえたら返事して)

(プレイズ~~~!)

(プレイズ返事してくれ!)

(プレイズさん!)


 しかし、四人が何度プレイズに呼びかけても返事はなかった。


「だめか……。どこか遠くに行っちゃっみたいね」

「そっか~。残念~……」


 四人はプレイズの事を諦め、その場から立ち去ろうとした。


「え? 今、プレイズの声がしたような」


 フェイムが突然足を止め、辺りを見回した。しかし、プレイズらしき人影はいなかった。


「神の使いだー!」


 街を歩く市民の一人が空を指差して大声をあげた。フェイムたちや、そこにいた市民たち全員が一斉に空を見上げた。そこには空中に浮かぶ巨大な龍型バリアントの姿があった。市民たちは騒然とした。あの巨大ゴーストの一件で、龍型バリアントを神の使いと信じた市民たちは、その場で手を組んで祈り始め、信じない市民たちは脱兎の如く逃げて行った。


「まさか……、またゴーストに心奪われたバリアントじゃないわよね」


 警戒したフェイムはブレスレットを顔の前に掲げた。


「おーい! みんなー! わざわざ心で会話する必要はないよー!」


 プレイズの生声が聞こえた。フェイムたちは驚いて辺りを見回した。


「上だよ、上!」


 フェイムたちは声がする方へ顔を上げた。そして目を丸くした。


「プレイズ!」

「わ~プレイズだ~!」

「プレイズ!」

「うー!うー!」


 フェイムが満面の笑みで飛び跳ねた。ファート、ガンテ、トールキンも同じく声を上げて小躍りした。

見上げた龍型バリアントの背中からプレイズが手を振りながら笑顔を覗かせた。


「ソフィア!?」


 さらにフェイムが目を丸くした。プレイズの後ろからソフィアも顔を覗かせたからだ。


「どうなってるの!?」


 龍型バリアントがゆっくりと地上に降りてきた。バリアントを神の使いと崇める市民たちが、その周りで平伏し祈りを捧げ始めた。バリアントの背中からプレイズとソフィアが飛び降りた。


「皆んな久しぶり。あれから一度も連絡しなくて悪かった」


 フェイムがプレイズとソフィアの側へ駆け寄った。


「そんなことより、そのバリアントはなんなの?」


 プレイズがバリアントの方を振り返った。


「彼はインヘル二世。空を飛べない僕らを助けてくれる友人なんだ」

「インヘル二世って……」


 唖然とするフェイムたちにソフィアが微笑んだ。


「その名前は私たちが勝手につけたんです。彼は私たちがインヘルの意志を継いだ事を知って、協力しに来てくれたのです」

「私たち? ソフィア、まさかあなたも……」

「はい。あれから私も考え直して、プレイズさんと共に行動する事にしました。きっとエスティムお爺様も喜んでくれると信じて」


 フェイムはプレイズとソフィアの今まで見た事もない明るい表情を見て、心に熱いものを感じた。それは、深い心の傷を乗り越えて、やっと希望を得ることができた喜びの表情にも見えた。


「あれからゴーストは現れたかい?」

「ううん。ぜんぜん。どうやら国王が改心して、すっかりいい国にしてくれたおかげで、市民たちの心の闇が減ったみたい」

「そうか……。よかった。そう言えばルーウィンもゴーストの数が激減したそうだよ。テクニア王の影響かどうか知らないけど、ルーウィンの王もいきなり国の方針を変え、軍隊を縮小し、その予算を市民の生活の為に回したそうだ」

「ふ~ん……。じゃあ、プレイズの出番も減りそうね」


 プレイズとソフィアの顔が少し曇った。


「テクニアとルーウィンではそうかもしれない。でも他の国では異常にゴーストの数が増えてきていると聞いている」

「心の闇が増えているのね……」

「人がこの世にいる限り、ゴーストは生まれ続けるだろう。でも、いつの日か、人はゴーストを生まない新しい存在になれるかもしれない。僕は、そう信じたい」


 プレイズは後ろのバリアントを見上げた。ファートが訊いた。


「でも、すごい時間がかかりそうだね。バリストのように五百年以上かかったら、プレイズはどうなっちゃうんだ」

「たぶん~、生きる屍みたいになるのかも~。うひゃあ~怖いよ~!」


 ガンテは自らの妄想に震え上がった。それを見た全員が声をあげて笑った。

 突然、龍型バリアントが首を下げ、プレイズの耳もとで小さく唸った。プレイズは補聴石を耳に入れ唸り声に聞き入った。笑顔のプレイズが真顔になった。


「じゃあ、皆んな、お別れだ。ここから遠く離れたホーピアンという国に巨大ゴーストが現れたらしい。今からそこへ向かう」


 プレイズはそう言うとソフィアを引き連れてバリアントの背中に飛び乗った。二人を乗せたバリアントは翼をはばたかせて土煙をあげながらゆっくりと浮上した。


「じゃあ、皆んな、また会おう!」


 龍型バリアントの背中で手を振るプレイズとソフィアに、フェイムたちも手を振って見送った。バリアントの体が輝き始め光に包まれ始めた。フェイムたちはプレイズとソフィアがシンパの力を使い始めたことを知った。


「え!? あの色は……」


 フェイムたちは我が目を疑った。バリアントを包んだ光は、いつもの白色ではなく、清々しい青色だったからだ。それは、あの赤いゴーストを倒した時に見た青いゴーストと同じ色だった。光はさらに強さを増し、青い光の球となって大空に向かって急上昇し、そして東の空へ向かって飛んで行った。

 フェイム、ファート、ガンテ、トールキンは飛んで行く青い光を笑顔でいつまでも見続けた。その各々の頬には何故か涙の筋ができていた。

 フェイムが微笑んだ。


「きっと、あの青いシンパの光はプレイズとソフィアの心が作ったに違いないわ……。それはきっと、二人の深い心の傷が、何かに成長したからに違いない。あたしには、あの青い光が、希望の光に見えるわ……」


 フェイムの言葉に納得するように、ファート、ガンテ、トールキンが笑顔でうなずいた。


 希望の青い光は、輝きながら東の青空に吸い込まれるように消えていった。

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