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褒められバスター  作者: 平野文鳥
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第45話 謎の原稿

 ゴーストに気づいたバートルたちは、うろたえながら後退りした。


「なにしておる!? 早くその者どもを斬り捨てんか!」


 テクニア王の命令にバートルが首を横に振った。


「陛下。ゴーストです……」

「な、なにっ!?」


 乱心した兵士たちがバートルたちににじり寄り、ゴーストも部屋の中へ入ってきた。


「陛下。ディザードの話によると、ゴーストは人の心を奪い凶暴にさせるそうです。もし、我々がそうなったら陛下のお命が保証できません。我々が正気なうちに、はやく隠し扉からお逃げ……」


 そう言い終わらないうちに、バートルは突然苦しみながら頭を抱え込んだ。そして、まるで何かが乗り移ったようにその表情を一変させた。


「この、くそじじいめ……。好き勝手なことばかり言いやがって。きさまなど地獄に落ちてしまえ……」


 バートルが剣を抜くと、それに合わせるように近衛兵たちも同時に剣を抜き、その切っ先をテクニア王に向けた。


「お、おまえたち……」


 テクニア王は玉座の後ろにある隠し扉から逃げようとしたが、腰を抜かして歩くことができなかった。バートルたちは部屋に侵入してきた乱心の兵士たちと一緒になり、テクニア王のもとまで近づいた。そして全員で王を取り囲み剣を振り上げた。


「これまでか……」


 テクニア王は覚悟を決め、目を閉じた。と、その時、人の呻き声とも破裂音ともつかぬ大きな音がした。異変を感じたテクニア王は恐る恐る目を開け、そして驚愕した。周りを取り囲んでいたバートルや兵士たちが剣を振り上げたままの姿勢で床に倒れ込み、後ろにいたゴーストも跡形もなく消え去っていたからだ。テクニア王は何が起こったのか全く理解できず、ただ呆然とその場に座り込んでいた。


「よっぽど嫌われてるのね、王様は。笑っちゃうわ」

「だ、だれだ?」


 光るブレスレットを左手につけたフェイムが部屋の中にゆっくりと入ってきた。


「はじめまして、王様。あたしはバリアントバスターのフェイム。ディザードの娘よ」


 テクニア王は絶句し、目を見開いた。


「復讐に、きたのか……」

「ふざけないで! それが命の恩人に向かって言うセリフなの!?」

「命の恩人?」

「ゴーストを倒したのは、あたしよ!」


 激昂したフェイムは足元に落ちていた剣を蹴り飛ばし、左手につけた二つのブレスレットをテクニア王に向かって突き出した。


「本音を言えば、あなたなんか助けたくなかった。ゴーストに呪われたあなたの部下に殺られて欲しかった。でも、どうしてもやって欲しい事があったから助けただけなのよ!」


 フェイムの剣幕に圧倒され動揺したテクニア王は、目を白黒させて何も話すことが出来なかった。


「よく聞いて。今、この都市の中で、たくさんのゴーストが生まれているわ。その原因は人々の恐怖や不安、怒りや憎しみなどの心の闇が急激に増えてるからよ」

「増えている? な……なぜ」

「巨大ゴーストがこの国に近づいているからよ。そいつの強烈なエンパの影響がここにも出てきたのよ」

「エンパ? なんだそれは……」

「なるほど……。あなたは父さんが長年研究してきた事を全く聞いてなかったわけね。もう、いい。あなたに詳しい事を説明しても時間の無駄だわ。じゃあ、これからあたしの言う事をやってもらえる?」


 そう言ってフェイムは一枚の紙をテクニア王に投げ渡した。


「なんだ、これは?」

「演説の原稿よ。これを市民の前で話して」


 原稿に目を通したテクニア王は眉根を寄せて「ううむ」と唸った。


「な、なんだこの内容は? あまりにも突拍子もなく馬鹿げている……」

「時間がないから詳しい説明は抜きよ。王様がこれを全市民の前で読んでくれれば、ゴーストの脅威からこの国が助かるかもしれないわ。どう? やるの、やらないの?」


 テクニア王は即答しなかった。たぶん、彼のプライドが許さなかったのだろう。


「ゴーストだ-! ぎゃあ-っ!」


 廊下から兵士たちの悲鳴聞こえた。


「わかった。やりたくないみたいね。じゃあ、このままゴーストで乱心した部下たちに殺されればいいわ」

「ま、待てっ!」


 恐怖で血の気失ったテクニア王が救いを求めるような表情でフェイム言い寄った。


「わかった。おまえの言うことをきこう。ただ質問がある。なぜ、わざわざわしが演説をしなければならんのだ」

「あなただったら皆んなが信用すると思ったからよ。もっとも、あなたに人望がなかったら意味がないけどね」


 フェイムの皮肉にテクニア王の顔が歪んだ。


「わかった……。どういう算段があるのか全くわからぬが、それで巨大ゴーストの脅威から国が守れるならやろう。しかし、すでに街の中にいるゴーストはどうするのだ」

「あたしの仲間と倒しまくるわ」


 そう言ってフェイムが後ろを振り向くと、部屋の入り口に数人の男たちと、少年が立っていた。それは家長を失ったフェロン一家の四人と、ディザードの実験でブレスレットを光らせた四人の少年たちだった。




 大きな鐘の音が鳴り響いた。それは全ての市民を街の中央にある大広場に集合させる合図だった。


「こんな時に何のようなんだ。今、この国がどんな状態なのか分かってるのかよ!」


 バリアントバスターのダムが城の方を向いて吐き捨てるように言った。この時、ダムも含め、この国の全てのバリアントバスターたちが軍の要請でゴーストによって暴徒化した市民の鎮圧にあたっていた。ダムと行動を共にしていた城の兵士が答えた。


「我々は行かなくてよい。このまま暴徒の鎮圧を続けろとの指示を得ている」

「しかし、いったいいつまでこれを続ければいいんだ。ゴーストを退治しない限り暴徒は増える一方だぞ」

「そ、それは、私にもわからない……。我々は命じられた事をただやるだけだ」

「ふっ。兵隊さんは大変だね」

「きゃあーーっ!」


 どこからか女の悲鳴が聞こえた。ダムたちは声の方向へと走った。そして、声が発せられたと思しき場所に着いた時、ダムは目を丸くした。


「フェイムじゃないか! おまえも暴徒鎮圧にかり出されたのか?」

「違うわ。ゴースト退治よ。今、襲われそうになった女性を助けたわ。でも、お礼も言わずにさっさと逃げて行ったけどね」

「ゴースト退治? おいおい、冗談はなしだぞ」


 その時、フェイムの後方に赤く光る球が現れた。


「フェイム! 後ろにゴーストだ!」


 フェイムはすかさず後ろを振り向き、横にいたフェロン一家と少年たちに目配せした。そして、全員が目を閉じるとフェイムが両手につけていた二個のブレスレットがパッと光り、その瞬間、ゴーストが破裂音とともに消え去った。ダムは愕然とした。


「シンパの力が九人分。ブレスレットが二個。あれ位の大きさのゴースト退治なら朝飯前だわ」

「フェイム、おまえ、いつからそんな技を……」

「ごめん! 今、急いでるの。はやく王様の演説を聞きに行かなくちゃ」


 フェイムは「じゃあね!」と言って軽く手を上げると、仲間を連れて大広場へ駆けて行った。

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