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褒められバスター  作者: 平野文鳥
44/50

第44話 反撃

 巨大ゴーストは、バーリーの骨とプレイズたちが出すシンパの光を嫌うこともなく、ゆっくりと近づいていた。


(プレイズ! ゴーストは俺たちの力を全く怯えてないぞ)

(どんどん近づいてくる〜。怖いよ〜)

(落ち着くんだ! シンパの力が弱まるぞ)


 プレイズたちのシンパの力はバーリーの骨の効果で数十倍になっていた。しかし、それは巨大ゴーストの影響から心を守れる力はあったが、倒せるほどのものではなかった。

 巨大ゴーストはプレイズたちのすぐ近くまで来ると、その動きを止めた。


「うわああ〜! 怖いよ〜!」


 ガンテは目の前の小山ほどの巨大ゴーストを見上げて恐怖に悲鳴を上げた。残りの全員もその巨大さに度肝を抜かれた。


(みんな、動揺しちゃだめだ! 早く気持ちをもどすんだ!)


 恐怖に集中力を失ったファートたち三人のシンパの力が急速に落ち、各々が持っていた骨の光も弱まってきた。


(プレイズさん! バーリーの骨の輝きが弱まってる。このままではゴーストに心を奪われるわ)

(ファート、ガンテ、トールキン、大丈夫だから心を落ち着けてくれ!)


 しかし、一度乱れた三人の心はなかなか元に戻らなかった。


(まずい。エンパが頭の中に入ってくる……)


 プレイズは焦った。それがさらに彼の集中力を弱めていった。


(このままではゴーストに心を奪われてしまうわ)


 全員の心の乱れがバーリーの光をさらに弱めていった。止まっていた巨大ゴーストが再びゆっくりと前進し始めた。


(万事休すか……)


 プレイズは次第に心の中に入ってくる邪悪なエンパを感じながら覚悟を決めた。その時、何かが落下した大きな音が聞こえた。と、同時に弱まっていたシンパの光が突然明るさを増した。巨大ゴーストはそれにたじろぎ動きを止めた。プレイズは心の中からエンパが一気に消えてゆくのを感じた。


(やはり、こういう事になるだろうと思っとったわい)


 プレイズが目を開けて声の方を向くと、インヘルが空中で羽ばたいていた。


(インヘル!)


 全員が喜びの声をあげた。


(バーリー様のお力を使いこなせぬとは情けない。この未熟者どもめ!)


 プレイズが地面に目を落とすと、もう一本のバーリーの手の骨が輝いているのに気づいた。


(さあ、もう一度心を落ち着け、シンパの力を強めるのじゃ)


 インヘルの再来にすっかり安心した全員が再び心を一つにした。二本のバーリーの骨はその輝きを強め、さらに今までの数倍の明るさになった。その光の強さはまるで小さな太陽のようにな球体となり周りを明るく照らした。

 平原の上で、ゴーストの赤い巨大な球体と、シンパの白い小さな球体が対峙しながら輝いた。


(何かが近づいてくる……)


 プレイズの耳に地響きが聞こえた。それは、正気に戻ったバリアントの大群が巨大ゴーストを退治する為に突進してくる音だった。すると、その音が次第に近づいてくるにつれて、シンパの光の球も次第に大きさを増していった。インヘルがつぶやいた。


(うむ。バリアントたちのシンパの力が我々の加勢をしておる。それも今までない強い力で……)


 その時、巨大ゴーストの大きさが一回り小さくなった。


(おお! シンパの力がゴーストに勝ち始めたぞ)


 バリアントの大群が近づくにつれ、ゴーストの大きさは徐々に小さくなっていった。プレイズたちの光とバリアントの大群に挟まれた巨大ゴーストは、そこから逃げるように突然向きを変え、今までにない速度で移動し始めた。


(いかん! ゴーストがテクニアに向かい始めた。あいつ、人間たちの心を奪って、心の闇の連鎖で再び巨大化するつもりじゃ。先周りして早くこの事をテクニアの人間たちに知らせるぞ!)


 インヘルは地上に降りてプレイズたちを背中に乗せると、バーリーの二本の骨を鷲掴みにして空高い舞い上がった。シンパの光に包まれたインヘルとプレイズ達は、まるで夜空を走る流れ星のように、テクニアへ向かって一直線に飛んでいった。




「陛下! たいへんです!」


 王座の間に軍務大臣バートルが息をきらせて駆け込んできた。


「巨大ゴーストが異常な速度でこちらに向かっています! そして、それを追うようにバリアントの大群も向かってきています」

「なんだと!?」


 テクニア王は驚愕して玉座から立ち上がり、バートルを睨みつけた。


「どうするのだ!?」

「ははっ! すぐに門を閉じ、最新の火器で完璧な防衛体制をつくり、バリアントの侵入を防ぎます」

「ゴーストは? ゴーストにはどう対抗するのだ!」

「そ、それは……」

「答えんか!」


 激昂したテクニア王がバートルを怒鳴りつけた。バートルは震えあがった。答え方次第ではディザードの二の舞になる可能性があったからだ。


「この老いぼれ王め……。調子にのりやがって……」


 突然、部屋の外から暗く陰湿な声が聞こえてきた。テクニア王とバートル、そして近衛兵たちが声の方を一斉に振り向いた。そこにいたのは、血のりがついた剣を持つ数人の兵士たちだった。危険を感じたバートルと近衛兵たちはテクニア王を守るために一斉に剣を構えて、その兵士たちの前に立ちはだかった。


「おまえたち、どういうつもりだ!」


 兵士たちを激しく叱責したバートルが、兵士たちの後ろを見て目を丸くした。そこにいたのは、ゆらゆらと空中に浮かぶ赤い光の球だった。

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