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褒められバスター  作者: 平野文鳥
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第4話 緊急出動 その2

 バリアントの親子に挟まれたプレイズとファーテルの命は今や風前の灯火だった。


 しだいに距離を詰めてきた子バリアントに、プレイズは背中から殺龍剣を抜いて上段に構え「やあっ!」と声を出して威嚇した。それに怯んだ子バリアントが素早く後退りすると、父バリアントはプレイズを脅すような低い唸り声をあげた。

 プレイズは子バリアントから目をそらさないようにファーテルの背中に自分の背中を寄せた。そして震える小声でつぶやいた。


「父上。どうすればよいのですか」

「考えるに及ばず。おまえもバリアントバスターの端くれなら、バスターとして最後まで闘い、バスターとして散ってゆけ」


 今までになく落ち着いたファーテルの声を聞いてプレイズは気づいた。ファーテルが勝てる見込みのない巨大なバリアントに対してあえて剣をもって対峙しているのは、友人を目の前で亡くし正気を失ったからではなく、バスターとして死ぬ覚悟を決めたからだと。それは、プレイズが生まれて初めて見たバリアントバスターとしての生きざまだった。そしてそれを父親であるファーテルから見せてもらったことに感動した。と、同時に、まだそこまでの覚悟をすることができない自分の弱さに失望した。


(僕はまだ死にたくない……。でも、逃げられない。いや、逃げてはだめだ。じゃあ、どうする? どうすれば勝てる?)


(オトウトノ カタキ!)


 プレイズの様子をうかがっていた子バリアントが突然プレイズに襲いかかった。プレイズは応戦すべく素早い剣さばきで胴を連続で斬りつけた。子バリアントはその勢いに圧倒され思わず退いた。しかし、その鉄のように硬い鱗に剣のダメージを与えることはできなかった。


(なぜだ!? 弟のバリアントの時は簡単に斬れたのに。成長すると鱗が硬くなってゆくのか? ――いや、まてよ。もしかして……)


 何かを思い出し、子バリアントの体の一部をじっと見つめたプレイズは、子バリアントの目の前で高くジャンプし、首に向かって剣で斬りつけるふりをした。すると、子バリアントはギャッと小さく叫んで嫌がるように体をくねらせて後ろへ逃げた。その様子に父バリアントが慌てたように牙をむき出し、ひときわ大きな唸り声でプレイズを威嚇した。


(首か!)


 プレイズはファーテルの背後に戻り小声で伝えた。


「父上。やつらの弱点は首です。首の皮膚だけは他の場所と比べてかなり薄いようです」

「どうしてそう言える?」

「以前、ここでバリアントを倒した時、一太刀でそいつの首をはねる事ができました。その時は私の技の力だと思ってましたが、今考えると、あれは単に首の部分が弱かっただけだったんです」

「あいつの首は長いぞ。首のどの辺りだ」

「顎の下です」


 ファーテルは父バリアントの顎の下を見た。たしかにそこだけは他と比べて鱗が薄くなっていた。炎を吐くときにそこを膨らませて空気を貯めるために薄くなったのだろう。


「グオオーーーッ!!」


 二人の会話に不穏なものを感じたのか、父バリアントが空気が震えるほどの大声で吼えた。


(ムスコヨ モウヨイ。ワタシガ コイツラヲ シマツスル)

(エ? デモ……)

(オマエニハ  コイツラヲタオスノハ マダムリダ)


 そう言うと父バリアントは二人に狙いをつけるように頭をゆっくりと持ち上げた。


「父上!」

「うむ。バスターの意地と誇りをあいつに見せてやるのだ」


 二人は身を低くし、殺龍剣を下段に構え攻撃体制をとった。


「ばかやろー! 家族を返せー!」


 その時、誰かの叫び声が聞こえた。と、同時に父バリアントの側頭に何かが当たった。それは生き残った村の男が投げた石だった。父バリアントは反射的に頭を下げて男の方へ頭を振った。


「今だ!」


 プレイズとファーテルは疾走して父バリアントの顎の下に潜り込んだ。そして垂直に思いきり飛び上がり剣を突き上げた。すると二本の剣は嘘のように首の奥深くまで突き刺さった。父バリアントは呻きながら頭を激しく振って二人を振り飛ばした。地面に体を激しく打ちつけた二人に、今度は子バリアントがプレイズに襲いかかりその左腕に噛み付いた。普通だったら簡単に食いちぎられたであろうその腕は、装着していた特製の装甲によってかろうじて守られた。すかさずプレイズが腰につけていた短刀を抜き、子バリアントの上顎に突き刺すと、子バリアントはギャアと大きな悲鳴をあげてそのまま後ろへ倒れた。その隙にプレイズはファーテルを抱き起こし、近くにあった木の陰まで連れて行った。


(アアッ、ムスコガ! オノレ~ ヤキコロシテヤル!)


 怒り狂った父バリアントは炎を吐くために空気を吸い込もうとした。しかし、首に刺さった二本の剣のせいでうまくいかない。


(クソッ! ナラバ カミコロスマデ)


 父バリアントは足音を響かせながら二人のそばまでゆっくりと前進し、そして大きく口を開いて牙をむいた。


「もはやこれまで……。プレイズよ。これまでよく頑張ったな。褒めてやるぞ」


 ファーテルが笑った。しかし、その笑顔はプレイズが大好きだったそれではなく、寂しさにあふれた作り笑顔だった。


「父上……」


 覚悟を決めた二人はお互いの手を強く握りあった。

 父バリアントは、勢いをつけて二人を噛み殺すためにゆっくりと首を後ろへ引いた。と、その時、その喉元に十本近くの矢が一斉に突き刺さった。


(ナニッ?)


 父バリアントが矢が飛んできた方向を見ると、闇の中に十数人のバスター達が弓を持って並んでいた。


「我らはゴリテア様の要請により集まりしバリアントバスターなり! 悪事を重ねるバリアント退治の助っ人に参った!」


(ナマイキナ…… オマエラ ミナゴロシニ シテクレル!)


 父バリアントはバスターたちに向かって突進しようとした。しかし、首に大きなダメージを受けたせいでその体は思うように動かなくなっていた。


「爆龍弾を射れ!」


 バスターの一人がそう指示すると、残りのバスターたちが一斉に父バリアントに向かって爆龍弾を放った。矢は次々と父バリアントの喉元に命中し爆発した。さすがの父バリアントもその攻撃に耐えきれず、大きな悲鳴を上げながらその巨体を崩し倒れた。地面が地震のように揺れた。


「やったぞー!」


 バスターたちは勝利の雄たけびを上げ、そしてとどめをさすべく父バリアントに駆け寄ろうとした。しかし、まだ近づくのは危険だと判断したプレイズが彼らを止めた。

 プレイズは補聴石を使い、虫の息の父バリアントのつぶやきに耳を傾けた。


(ムスコヨ……)


 倒れていた子バリアントがその声を聞いてよろよろと立ち上がった。そして父バリアントのもとへ歩み寄ろうとしたその時、数本の矢が子バリアントの喉元に刺さった。しかし子バリアントは倒れず、父バリアントの近くまでふらふらと歩き続けた。そして父バリアントの目の前で力尽き倒れた。


(トウサン…… ダイジョウブ?)

(スマン…… スコシ ユダンシタヨウダ……)

(トウサン ボク オトウトノカタキハ トレナカッタケド ガンバッタヨネ?)

(ウム…… オマエハ ガンバッタ……)

(ホメテクレル……?)

(アア……ホメテヤル……)


 その会話を最後にバリアントの親子は絶命した。

 プレイズは動揺した。褒めてもらえることを望んだ子バリアント。そして、それに答えるように褒めてやった親バリアント。それが自分とファーテルとの関係に重なり合ったからだ。


「どうされました?」


 バスターの一人が、茫然と立ち尽くすプレイズに声をかけた。我に返ったプレイズが慌てて彼らに「もう、行ってもだいじょうぶです……」と答えると、バスターたちは一斉にバリアント親子のもとへ駆け寄りとどめをさした。


「ありがとう! あなたは最高のバスターです」


 父バリアントに石を投げつけた村の男がプレイズのもとに駆け寄り礼を言った。しばらくして他の生き残った村人たちも現れ、バスターたちと一緒にプレイズとファーテルをとり囲みその活躍と勇気を称賛した。ファーテルは胸を張り、手を振ってその称賛を受けた。しかし、それとは対照的にプレイズの表情は暗かった。


(なぜなんだろう……。皆から褒められても少しも嬉しくない……)


 プレイズは称賛の輪の中で無言でたたずみ、人垣越しに見える動かなくなったバリアントの親子をずっと見つめていた。

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