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褒められバスター  作者: 平野文鳥
39/50

第39話 シンパの秘密

 ソフィアの意外な答えにプレイズの心が大きく揺れ動いた。それは、その内容が彼女のイメージからは創造もできなかった内容だったこともあったが、同時にブレスレットが使える自分自身もソフィアと同じような心があったということを意味したからだ。

 一気に場の空気が重くなった事を感じたソフィアは、それを紛らわすように笑顔を見せた。


「ごめんなさい! ちょっと深刻になってしまいましたね。今の考えはあくまで私の創造です。確たる根拠があるわけではないので気にしないでね」

「え~? そこまで言われたら~気にしないわけにはいかないよ~……」


 ガンテが眉毛を八の字にしてつぶやいた。


「みなさん、もっとバーリーの近くに行ってみましょう」


 プレイズたちはソフィアの後について、バーリーの骨がある岩場まで降りた。


「上からは気づかなかったけど、近くで見るとけっこう大きいな、バーリーって」


 プレイズは足の部分にあたる骨にさわってみた。化石化したそれは硬く冷たかった。

 ソフィアはしゃがんで近くにあった小さな骨のかけらを三つ手に取ると、ファート、ガンテ、トールキンに向かって差し出した。


「お願いがあります。これを顔の前に構えて目をつぶり、しばらく何も考えないでもらえますか」


 三人は一瞬とまどったが、すぐにそれを手に取り、言われたようにやってみた。そして、しばらくして起こった出来事にプレイズが驚きの声をあげた。三人が持った骨のかけらがブレスレットと同じように光り始めたからだ。


「やはり、私がみなさんから感じたシンパに間違いはなかったようです。皆さん、目を開けてください」


 言われるままに目を開けた三人は、目の前で光る骨を見て驚き飛び上がった。


「うわ~! なにこれ~!? まるでプレイズのブレスレットみたい~」

「な、なにが起こったんだ!?」

「うー! うー!」


 三人は目を丸くし、穴が開くほどその光る骨に見入った。


「それは、ブレスレットと同じものです。つまり、ブレスレットはバーリーの骨なんです」


 ファートが嬉しそうに骨を頭上にかかげた。


「じゃあ、俺たちもプレイズと同じようにゴーストを倒せるかもしれないということか」

「え~!? すごい〜すごい〜!」

「しかし、どうして俺たちにできたんだろ? まてよ……。もしかしたらさっきのソフィアさんの考えは当たってるかもしれないぞ」

「え~? どういうこと~」

「ガンテ、トールキン。俺たちって全員孤児だよな。おまけにガンテは生まれつき頭が悪いし、トールキンは喋ることができないし、俺なんか育ての親が盗人ぬすっとだった。だから、みんな子供の頃からずっといじめられ馬鹿にされてひとりぼっちだったよな。楽しいこととか、希望とか、そんなもんなかったよな」


 ガンテ、トールキンは昔のことを思い出し、悲しい表情でうなずいた。プレイズはファートから初めて聞く三人の生い立ちに驚き、思わずソフィアの横顔を見た。ソフィアはいつもどおりの優しい微笑みで三人を見つめていた。


(やはり、ソフィアは自分の考えに確信があったんだ……。シンパは心の傷から生まれると。それも子供の頃に受けた深い心の傷に……。ということは、僕の中にもそれがあるということか? ならば、それは何が原因なんだ……)


 ファートたち三人が一斉にプレイズを見た。ガンテが気の毒そうな顔で遠慮気味に話しかけた。


「じゃあ〜、プレイズも子どもの頃に辛い事があったの〜?」

「ごめん……。不幸自慢には興味がないんだ」


 プレイズは自分の過去を探られるのを嫌い、あえて答えをはぐらかした。突然、ソフィアが左手のブレスレットを顔の前にかかげた。


「もう一度、みんなでやってみましょう!」


 全員がブレスレットと骨を顔の前にかかげ、一斉に目をつぶった。すると、信じられないことが起こった。各々が持つそれらが光り始めると同時に、バーリーの骨全体も同調するように光り始めたのだ。光は次第に明るくなり、そして岩場全体を照らすほどの強さになった。その明るさに気づいたプレイズたちは目を開けようとしたが、眩しすぎてできなかった。


(なにが起こったの! 目が開けられないよ)

「おや~? 今、誰が喋ったの~? ファート?」

「俺じゃないよ」

(あれ? ボク、喋れる!)

「だれ~? プレイズ~?」

(ファート、ガンテ! ボクだよボク! トールキンだよ! ボク、喋れる!)

「え~!? トールキン? 本当~?」

「本当ですよ、ガンテさん。今のはトールキンの心の声です。トールキンさんは今、心でみんなに話してるんです。みなさんも心の中で彼に話しかけてみてください」


 各々が半信半疑で心の中でトールキンに話し掛けてみると、トールキンがそれに心の中で答えた。


(本当だ……。確かに心で会話ができる。ソフィア。これはいったいどういうことなんだ)

(バーリーの力です。バーリーの骨がシンパの力を何十倍も増幅させて、それを可能にしてるんです)

(まさか、信じられない……。そうか! 君が遠方のテクニアにいる僕に心で話しかけられたのは、この骨のおかげだったのか)

(はい)

(よくわからないけど~、とにかくすご~~~い! トールキン! みんなと話せるようになって良かったね~!)

(うん! とっても……とっても、うれしいよ!)


 その時、会話の中に聞きなれない声が聞こえた。それは、まるで老人のように低くしゃがれていた。


(どういうことじゃ。バーリー様が光っておる……)


 全員がその声に驚き目を開けた。するとバーリーの骨の輝きは消え、ブレスレットや骨の光も弱まった。


「バリアントだ!」


 プレイズが頭上に向かって指さすと、そこには今まで見たこともない老いた龍型バリアントが翼をはばたかせて空中に浮かんでいた。プレイズとファートたち三人は反射的に武器を手に取り身構えた。老いた龍型バリアントはプレイズたちを見やり、ゆっくりと土手の上に舞い降りた。すかさずトールキンが弓を構えた。

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