第30話 バスターの生き方
「プレイズどの! 申し訳ないが、自己紹介は後ほど」
そういい終わらぬうちにフェロンは素早く望遠鏡を取り出し、近づいてくるバリアントの群れを観察して、すぐに全員を集めた。
「バリアントは三十匹弱。なんとか対抗できそうじゃ。全員、武器と馬を中央にして円陣を作れ。襲ってくるバリアントに対して全方向で攻撃するのじゃ」
「役割りは?」
フェイムが確認した。
「わしら一家は爆龍弾で対空攻撃をする。残りの者はわしらの援護をしてくれ」
「わかったわ。プレイズも頼むわよ!」
「プレイズがいれば〜、十人力、いや百人力だ〜!」
全員の期待の目がプレイズに一斉に注がれた。それに答えるようにプレイズは無言でうなずいたあと、両耳に補聴石を入れ、バリアントたちの会話を聞き取るべく神経を耳に集中させた。
いよいよ、バリアントの群れが目前まで近づいて来た。
「先頭がリーダーのはずじゃ。あいつを倒して群れを混乱させるんじゃ!」
フェロンの指示で一家の四人が群れの先頭の大きなバリアントに向かって弓矢を向けた。すると、前列の左端にいた赤色のバリアントが一声鳴いた。
「ちがう! リーダーは左端の赤いやつだ。あいつを射て!」
フェロンが険しい表情でプレイズを見た。
「その理由は!?」
「あとで説明する! 僕を信じろ!」
フェロンはプレイズの迷いのない眼差しを信じ、一家の四人に向かって「目標変更! 左端の赤を射て!」と指示した。
四人はフェロンの指示に迷うこともなく爆龍弾がついた矢を一斉に放った。四本の矢全てが正確に左端の赤いバリアントに命中、爆発し、その体を粉々に砕け散らせた。すると、それまで整然と飛んでいたバリアントたちの動きが突然乱れ、それぞれが混乱したようにバラバラの方向に飛び始めた。
「今じゃ、射ちまくれ!」
フェロン一家は、まるで機械のように次々とバリアントに向かって爆龍弾を射ちまくった。そのどれもが外すことなくバリアントを打ち落としていった。しかし、一瞬の隙をつき、一匹のバリアントが爆龍弾をよけてフェロンに襲い掛かかり、右肩をわしづかみにして飛び上がろうとした。
「父上!」
すかさず息子のロビンがバリアントに矢を向けたが、さすがに射つのををためらった。爆龍弾が爆発したらフェロンの命もないからだ。
その時、プレイズが円陣の中央にいた馬を踏み台にしてバリアントへ向かって飛び上がった。そしてそのまま殺龍剣を抜き空中を一回転しながら、バリアントに向かって振り下ろした。勢いのついた剣はバリアントの体を一瞬にして両断した
「フェロンさん、大丈夫ですか!?」
プレイズがフェロンのもとへ駆け寄った。
「ううっ……。油断したわい……」
フェロンを見た全員が絶句した。フェロンの右肩はバリアントの剣のような爪によって鎧ごともぎ取られ、血が脈を打って流れていた。
「父上!」
悲壮な表情のロビンが止血をしようとが駆け寄った。
「バカ者! 持ち場を離れるな! まだバリアントは全滅しとらんぞ」
怒声に驚いたロビンは慌てて持ち場に戻った。すると、ロビンの息子のトムがある攻撃方法を提案した。
「父さん。あれを使ってみませんか? 早く決着をつけないとお爺さまが……」
「連爆弾か。この状況で使うのは危険だが……やむおえぬ! トム、手伝え!」
ロビンとトムは円陣の中央に置いていた武器の中から、大型の弓と爆龍弾より一回り大きい弾薬がついた長い矢を取り出した。そして、それを弓に備えてトムと二人がかりで矢を引いた。
「みんな! 地面に伏せろ!」
全員が伏せたのを確認したロビンとトムは矢を放った。矢は火花を吹きながら弓から離れ、バリアントの群れの中央に向かって飛んでいった。
「伏せろ!」
ロビンの合図で二人が伏せたその瞬間、矢の弾薬が閃光と大音響とともに爆発、さらにその爆発の中から数十個の小さな爆薬が四方に飛び散って爆発し、そこからさらに小さな鉄球が飛び散った。それはまるで大きな仕掛け花火のようだった。しかし、花火と大きく違ったのは、美しさを微塵も感じさせないその凄まじい破壊力だった。
爆発後、あたりに静寂が訪れた――。
しばらくしてロビンが顔をあげ、空中を見渡した。そこにはバリアントの姿は一匹もなく、薄い硝煙だけが霧のように漂っていた。そして目線を下げ地上を見渡すと、そこには累々たるバリアントの屍の山が築かれていた。
ロビンは再度、周りを見回して安全を確認すると、おもむろに立ち上がって声をあげた。
「バリアント、殲滅!」
その声を聞いた全員が顔をあげ立ち上がった。
「な、なんだったの? 今の……」
茫然とするフェイムをよそに、ロビンたち四人はフェロンのもとへ駆け寄った。フェロンの顔から血の気がなくなり、呼吸も荒くなっていた。
「父上! 必ず助かりますから、お気を確かに!」
今にも泣きそうな表情で止血処理を施すロビンに、フェロンは虚ろな目を細め笑顔を作った。
「もうよい……。どうやら、わしのバスター人生も、これで終わりのようじゃ……」
「父上。そういうことは言わないでください」
「勘違いするな、ロビン……。わしは、こうやって終わってゆくことを誇りに思っておるのだぞ……。バスターとして生き、バリアントを倒し続け、そして今バリアントに倒された……。バスターとして自然な生き方じゃ……決して悲しむことではない」
その言葉に何かを感じたプレイズは、はっと息を飲んだ。そして、フェロンに近寄り彼の左手を無言で握った。
「おお……。あなたか。ちゃんと自己紹介もできんで……申し訳ない」
「とんでもありません。あなたのバスターとしての生き方、しかとこの目に焼き付けておきます」
「プレイズさんとやら……」
「はい?」
「あなたは……いい目をしておられる。きっと正しいバスターになられるじゃろう……。正しい……」
「えっ?」
フェロンは最後の力を振り絞って、右手でロビンの手を弱々しく握りしめた。
「息子達よ……孫たちよ……」
ロビンたち四人が前のめりになってフェロンを見つめた。
「なんですか、父上……」
「おまえたち……よく頑張ったの……。褒めてやるぞ……」
その言葉を最後に、フェロンは静かに息を引き取った。夜の草原に、残された四人の悲痛な叫び声が響いた。フェイム、ファート、ガンテ、トールキンの四人もそのバスターとしての最後を目の当たりにして、感動と悲しみに涙をこらえることができなかった。
プレイズは、冷たくなったフェロンを見つめながら、彼がプレイズに言い残した、『正しいバスター』の意味を考えてた。それは亡き父ファーテルも一度も口にしたことがなかった言葉だったからだ。
(正しいバスター……。正しいって、どういう意味なんですか? 教えてくださいフェロンさん……)
心の中でいくら問うても返事など返ってくるわけないと思いながらも、プレイズはその本当の意味が気になって仕方がなかった。




