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褒められバスター  作者: 平野文鳥
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第3話 緊急出動 その1

「起きろプレイズ! 緊急出動だ。すぐ準備をしろ」


 ベッドで寝ていたプレイズはファーテルの大声で飛び起きた。時計見ると深夜の一時をまわっていた。


「いかがされました?」

「ファスト村に龍型バリアントが現れた。村はほぼ壊滅状態らしい」

「壊滅?」


 バスター専用の装備を身に着けていたプレイズの手が一瞬止まった。


「今度のはかなりでかいそうだ。村で闘っている友人から応援を頼まれた」

「了解しました!」


 プレイズは急いで武器庫へ走り、巨大バリアントに対抗できそうな武器を選び出した。そして武器庫から出ると一度自分の部屋へ戻り、机の引き出しから補聴石を取り出した。


(いよいよこいつの出番だ。頼むぞ!)


 祈るように補聴石を顔に近づけると、それに答えるかのように石は白く光った。


「なにをしている、早くしろっ!」

「今、まいります!」


 早馬を飛ばしてファスト村に到着した二人は愕然とした。

 そこには以前のような牧歌的な村の風景はなく、闇の中で炎につつまれ崩れ落ちる家々と、あちらこちらに村人の屍が横たわる地獄絵図があった。


「ファーテル!」


 燃える家の炎に照らされて、髭面の大男がよろよろと歩いてきた。その男はファーテルの古くからの友人で同業者でもあるゴリテアだった。全身傷だらけのその姿は、バリアントがいかに手強い相手なのかを物語っていた。

 ゴリテアはファーテルの手前でガクリと膝をついた。


「大丈夫か! ゴリテア」


 ファーテルはゴリテアに駆け寄り抱き起こした。


「すまん……。せっかく来てくれたのに、このザマだ」

「バリアントはどこだ?」

「ファーテル。せっかく来てくれたのにこう言うのも心苦しいが、早く逃げろ。あいつは俺たちがたちうちできるようなやつじゃない」

「そんなに強いのか」

「でか過ぎるんだ。おまけに炎まで吐きやがる。俺は部下を十人連れて挑んだが、あっと言う間に炎の餌食になった」


 ゴリテアの話を聞いたファーテルは珍しく落ち着かない表情を見せた。その横顔を見てプレイズも固唾を飲んだ。


「グオーーーッ!」


 バリアントの咆哮が村全体の空気を震わせた。プレイズは胸ポケットから補聴石を取り出し耳の中に入れた。


(フクシュウーーッ)


「え? 今なんて言った?」


 ドン! という重い音とともに地面が揺れた。それは今までに聞いた事もない巨大な生き物の足音だった。足音はゆっくりとプレイズ達に近づいてきた。


「ファーテル! 俺の事はいいから早く逃げろ!」


 ゴリテアがそう言い終わるやいなや、燃えさかる家々から立ち登る黒い煙の中から、赤く目を光らせた巨大な龍型バリアントが現れた。


「でかい……。人間十人分の体高はあるぞ。プレイズ、爆龍弾だ!」

「はいっ!」


 プレイズは素早く弓を構え、先端に爆弾が付いた矢をバリアントに向かって放った。火花を噴射しながら勢いよく飛んでいった矢はバリアントの胸に命中し強烈な閃光と音を出して爆発した。バリアントは悲鳴をあげてのけぞり、轟音をたててその巨体を地面に倒した。


「やったか!?」


 ゴリテアは動かなくなったバリアントに向かってよろよろと近づいていった。



(ヒッカカッタナ……)


 プレイズの耳にバリアントのつぶやきが聞こえた。


「ゴリテアさん、罠だっ!」


 プレイズは疾走しゴリテアに体当たりした。同時に二人の頭上にバリアントの巨大な右手が落ちてきたが、間一髪でそれを避けることができた。


(ナゼ ワカッタ?)


 バリアントは再びその巨大な体を起こし立ち上がった。そして三人の方へ向かってまるで照準を合わせるように頭を下げ、深く空気を吸い始めた。


「炎を吐くぞ! 逃げろ!」


 ゴリテアが大声で叫ぶと、プレイズとファーテルは素早くその場から逃げた。しかし、体を痛めていたゴリテアは間に合わず、強力なバリアントの炎につつまれ燃え上がった。


「ゴリテアーッ!!」


 ファーテルは弓を取り、バリアントに向かって狂ったように爆龍弾を連射した。しかし鎧のような硬い鱗に覆われた体にはまったく効果がなかった。


「父上、爆龍弾がなくなりました」

「だからどうした! 逃げるのか? ここで逃げてはバリアントバスターの名がすたるだろうが!」

「ち、父上……」


 友人を目の前で亡くし正気を失ったのだろうか。ファーテルは背中から殺龍剣をゆっくりと抜くと中段の構えをとってバリアントと対峙した。


(バカメ……)


 バリアントはそうつぶやいてゲッゲッと笑った。そして口を大きく開けて空気を吸い込み始めた。

 このままでは焼き殺されると思ったプレイズは、無理にでも連れて逃げようとファーテルの背後に回った。


(コイツダ! トウサン)


 プレイズの背後から声が聞こえた。振り向くと、そこには小柄な赤い龍型バリアントが立っていた。


(コイツガ オトウトヲコロシタヤツダ!  トウサン オレニカタキヲトラセテクレ)


 巨大バリアントは目を見開くと、吸い込んだ空気をいったん飲み込んだ。


(弟……? そうか! こいつは以前、退治したバリアントの兄なのか。ということは、あの巨大バリアントは父親で、あいつが言ったフクシュウとは、村人と僕に対する復讐の意味だったのか)


 すべてを理解したプレイズは愕然とした。まさか、バリアントが人間と同じような復讐心を持っていたとは想像もしてなかったからだ。


(ワカッタ……。カタキヲ トッテミロ)


 父バリアントから許可をもらった子バリアントは、牙を剥き出してプレイズににじり寄った。


(ムスコヨ。オモウゾンブン タタカウガヨイ。モシ、マケソウニナッタラ ワタシガ コイツラヲ ヤキコロシテヤル……)


 プレイズが父バリアントの方を振り向くと、そこには自分とファーテルを睨みつける巨大な目が赤く光っていた。

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