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褒められバスター  作者: 平野文鳥
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第25話 ゴーストの弱点?

 その日の深夜――。

 ゴースト退治の仕事を受けたプレイズたちは、フェイムに教えてもらった現場へと向かった。依頼主となるフェイムもゴースト退治を見届ける為に同行した。


「ここよ。いつ出てくるかわからないからみんな気をつけてね」


 その場所は富裕層の家が並ぶ住宅街だった。周りは塀に囲まれ、入り口にはすぐ隣にある貧民街の住人たちが侵入しないように鉄製の門が設置されていた。富める者たちと貧しき者たちが隣同士で暮らす。ここは、まさに貧富の差が激しいこの国を象徴するような場所だった。

 フェイムが施錠されている門を合鍵で開けると、しばらく使ってないのか錆びついた軋む音がした。中に入ると街は真っ暗で、家の灯りが溢れている家は一軒もなかった。


「もう誰も住んでないの。ゴーストが現れるようになって皆んな引越しちゃった。まさにゴーストタウンだわ」

「ゴーストはいつから現れるようになったんだい?」


 プレイズが周りを警戒しながらフェイムの訊いた。


「半年前ぐらいかな。最初はここではなく隣の貧民街で現れたんだけど、いつの間にかここに移動してきたみたい」

「移動してきた? ゴーストはいつも同じ場所に現れるわけじゃないんだ」

「そうみたい。もしかしたら、何か目的があって移動しているのかなって調べてはみたんだけど、まだ分からないの。ただ……」

「ただ?」

「移動するたびに、少しづつ大きくなっているような気がするの。まるで生き物が成長するように」


 プレイズは成長という言葉にひっかかった。もしそれが本当なら、ゴーストは成長をするための何かを体に取り入れていることになる。プレイズは、ふと思いだした。ゴーストと闘った時に頭の中に人の憎悪の感情みたいなものが侵入してきたことを。もしかしたら、それと何か関係があるのか? プレイズは考えを巡らそうとしたが、今はその時ではないと思い途中でやめた。


「あら。早速、ゴーストタウンの御主人さまが、あたしたちを迎えにきてくださったようよ」


 フェイムが闇の中を指差すと、赤い光の玉がこちらに向かってゆっくりと進んでくるのが見えた。

 プレイズは大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、ファート、ガンテ、トールキンの三人に向かって「じゃあ、今朝、打ち合わせた通りに頼むよ」と確認をした。三人は額に冷や汗をにじませ緊張した面持ちでうなずいた。フェイムはプレイズたちの後方に下がり、事の成り行きを見守った。

 プレイズはゴーストへ向かってゆっくりと歩き始めた。そしてゴーストとかなり接近した時、ファートたちに向かって「今だ!」と声をあげた。


「どっちが強いかバスターポン! 」


 突然、ファートたち三人が子供たちの間で流行っている手遊(てあそ)びを始めた。


「ファートとトールキンはバリアント〜。 おいらはバスター〜。 おいらの勝ち〜!」

「何やってるの!? こんな時に、ふざけないでよ!」


 呆れたフェイムがそれをやめさせようとした。


「邪魔しないで!」


 プレイズの大声にフェイムはたじろぎ、ファートたちは、さらに声を張り上げた。


「やはり思った通りだ……」


 ゴーストはファートたちの遊ぶ声に反応するかのようにその動きを止めた。そして、ゆっくりと後退し始めた。


「もっと楽しんで!」


 プレイズの指示に、最初はぎこちなかった三人はガンテを中心にまるで子供の頃に戻ったように夢中になって遊びに興じた。プレイズは顔前にブレスレットを構えた。そして、いつものように目を閉じて無心になろうとした。


「あれ〜? 昨夜より早く光りだしてる〜」


 ガンテが遊びを中断してプレイズを指差した。ブレスレットが光り始めて十秒ぐらいで、その輝きは倍になり、そして数秒後には目を開けてられないほどの閃光を発した。その瞬間、光の中で悲鳴とも破裂音ともつかない異様な音が聞こえた。

 光が収まってフェイムとファートたちが細めていた目を見開くと、ゴーストは影も形もなくなっていた。その一部始終を目撃したフェイムは愕然としてしばらく立ち尽くした。そして我に返ると興奮しながらプレイズのもとへ駆け寄った。


「すごい! あれが、ブレスレットの力なんだ」

「ああ。今回はいつもより早く退治できたみたいだ。これも、皆んなのおかげだよ」

「ということはあの実験は、うまくいったということ?」


 ファートの問いに、プレイズは「もちろん!」と笑顔で答えた。ファートは、それまでの緊張の糸が切れたように、へなへなと地面にしゃがみ込んだ。


「どうなることかと思ったけど、ガンテのおかげでうまくやれたよ」

「ん? どういうこと〜?」

「正直言って、最初は緊張し過ぎてうまく遊べる自信がなかったんだけど、ガンテがあまりにも子供のように遊ぶから、こっちもつられちゃったんだよ」


 そう言ってファートが緊張していた顔を緩めると、トールキンも笑顔で何度もうなずいた。


「ねえ、どういうこと? あたしにも説明してよ。あたしはこの仕事の依頼主なんだから」


 一人だけ状況が理解できないフェイムは、プレイズに向かって口を尖らせた。


「そうだった、君は依頼主だったね。もちろん説明はするけど、その前に、仕事の成功報酬の確認をさせてくれないか。まさか、説明だけ聞いて金は払わないということはないよね?」


 フェイムは予想もしなかったプレイズの事務的な質問に面食らった。


「なによ、その言い方。ムカつくわね。もちろん払うわよ! 貧乏そうなあなたたちが腰を抜かすぐらいの報酬をね」


 ファートたちは、それを聞いて手を取り合って喜んだ。


「これで〜、ダムさんに恩返しができる〜!」

「ステラさんも喜んでくれるかな」

「う〜! う〜!」


 ファートたちの喜ぶ姿を見て、プレイズは「よかった」と一言つぶやいた。


「ということで、説明してくれるかな? そこで大喜びしている方々の行動について。あれはいったい何のマネなの?」

「見た通り、子供のように遊んでもらっただけだよ」

「そんなこと言われなくても分かるわよ! だから、どういう目的でやったの?」

「まだ、気づかないかな……」

「えっ?」


 きょとんとするフェイムをよそに、プレイズは左手のブレスレットを見つめ、そしてぐっと拳を強く握り締めながら答えた。


「ゴーストは、子どもが苦手みたいなんだ」

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