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褒められバスター  作者: 平野文鳥
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第22話 バリアントの暴走

 ファート、トールキン、ガンテの三人は暗くなった夜道を何のあてもなくとぼとぼと歩いていた。


「ダムさんの家を出たのはいいけど~、おいらたち、これからどうすんだ~」


 ガンテが子どものようなしゃべりかたでファートに訊いた。


「とりあえずローディーの店へ行って仕事を探そう。と、いっても、いつものようにありつけないと思うけど、他にあてもないし……」


 ファートがそう答えて肩を落とすと、ガンテもトールキンもつられるように肩を落としてうなだれた。


「おいらが~もっと頭がよかったら~、トールキンが~喋ることができたら~、仕事もらえたのかな〜」

「おい、それは言わない約束だろ! 仕事にありつけないのはそのせいじゃない。俺たちにバスターとしての実力がまだ足りないせいだよ」

「でも〜、ダムさんは実力あるのに~なかなか仕事に……」


 ガンテはそう言いかけて途中でやめた。


「ダムさんはバリアントとの闘いで左目を失ったから仕方ないよ……」


 ファートはそう小声でつぶやき、星空を見上げてため息をついた。


「おいらたち~三人とも孤児みなしごだから~、帰る家もないし~。このままじゃ飢え死にしちゃうかも~」


 悲観的になったガンテにつられるように、トールキンも泣きそうな表情になった。


「元気だせよ! まぁ、なんとかなるさ! 今までも俺たちそうだっただろ。な? ガンテ、トールキン」

「うん……。そうだね〜。そうだったね~。おいらたち~なんとかなる、なんとかなる~」


 急に楽観的になったガンテを見て、トールキンも嬉しそうにうんうんとうなずいた。


「あれ〜? あれはなんだろ〜」


 ガンテが指差した先の暗闇の中に、赤い火の玉のようなものがふわふわと浮いているのが見えた。その正体を確かめようとガンテが前へ進もうとした時、ファートが大声でそれを制した。


「だめだ、近づいちゃ! もしかしたらゴーストかもしれないぞ。皆んな逃げろ!」

 

 その声に反応したのか、その火の玉は突然動き出し三人に向かってきた。それはファートが言ったようにまぎれもなくゴーストだった。


 三人は慌てて逃げ始めた。


「ま、待ってくれ〜!」


 先頭を逃げるファートが振り返ると、ガンテが転んで倒れていた。そのすぐ後ろにゴーストが近づいて来る。


「たすけて~! こわいよ~」


 ガンテがまるで子どものように泣き始めた。すると不思議なことにすぐ後ろまで近づいていたゴーストが突然その動きを停めた。


「ガンテ! 逃げろ!」


 ガンテは後ろを振り向きゴーストが停まったことを確認すると、慌てて立ちあがりファートたちと一緒に脱兎の如く逃げ去った――。




「今夜は僕が畑の見張りをします。ダムさんと奥さんは先におやすみください」


 プレイズはダム夫婦にそう告げると、バスターの装備に身を包み家の裏にある畑へ向かった。そして畑の真ん中に腰を降ろし、星空を見上げながら考えにふけった。


(ルーウィンのバリアントのほとんどが、先に人間に危害を加えたりすることはあまりなかった。でも、ここテクニアに住むバリアントはルーウィンとは逆で、突然、街に現れては人々を襲ったり、畑を荒らして人間の食物を奪ったりその被害件数もルーウィンをはるかにしのいでいるようだ。必然的に、バスターたちもバリアント退治の仕事に困ることはなさそうだと思っていた。でも、ダムさんから聞いた話によると、実際はそうでもなく、逆に少ないというのは意外だった。その理由が、依頼したくても報酬金が払えなくて断念する貧しい人々が多かったからとは……。だからと言ってバリアントに苦しめられている貧しい人々を見て見ぬふりすることは、ここのバスターたちにはできなかったそうだ。


――バリアントバスターの使命感で闘っている――


 以前、ダムさんがそう言っていたのは、そういう背景があったからなんだろうな……。そのバスターたちの命をかけた善意を貧しき者たちは感謝し、富める者たちは卑しき者の自己満足として見下している。それが、ここ、テクニア王国におけるバスターたちの現実のようだ――)


 プレイズは立ち上がり、畑の周辺を見回った。


(僕がここに来たらあの三人は家から出て行ったようだけど。僕を嫌って出て行ったのかな? ――いや、考えすぎか……。う〜ん、すぐ周りを気にするこの性格、どうにかならないものかな)


 プレイズは自分に対して苦笑した。

 その時、家の表の方で人声が聞こえた。気になって向かうと、そこには出て行った三人が肩で息をしながら立っていた。


「あれ? 皆んな、どうしたんですか」

「ゴーストだ! ゴーストが現れた。こちらに向かってる」


 ファートが息を切らしながらそう報告すると、プレイズは顔をこわばらせた。


「今どこに!?」


 ファートは振り向いて今来た道の方向を指差した。しかし、その闇の中にはゴーストらしき光は見えなかった。


「あれ? いない。どこに行ったのかな」


 三人は道を見ながら首をかしげた。


「きゃあーーっ!」


 その時、裏の畑の方から悲鳴が聞こえた。プレイズたちが急いで向かうと、畑の真ん中で腰をぬかして座り込むステラと、畑の奥の茂みの中で目を光らせてステラの様子うかがっている四匹の猪型バリアントがいた。


(まずい。このままではステラさんが襲われる。あいつらの注意をこちらにそらさなければ……。まてよ、後ろにいるやつは馬なみにでかいな。どうやらあいつがボスのようだ)


 プレイズは後ろにいた三人に小声でつぶやいた。


「バリアント退治は初めてじゃありませんよね」


 三人は自信なさげにうなずいた。


「今から僕があいつらの注意をひきます。やつらが突進してきたら手前の三匹は無視して、後ろにいるボスと思われるでかいやつを皆で一斉に攻撃しましょう。あいつらは人間のチンピラ集団と同じで、ボスがやられると子分たちが弱気になり、その士気も一気に乱れます。そこを狙いましょう」


 プレイズのよどみのない説明に三人は呆気にとられた。


「群れるバスター退治の初歩的な戦法です。ボスはかなりでかいですが、大丈夫ですか」


 プレイズの念押しに三人は「は、はい!」と慌てて答え、各々が武器を背中から抜いて構えた。


「おいっ、バリアント! おまえらの相手はこっちだ!」


 プレイズの大声に気づいた四匹のバリアントが一斉にプレイズたちの方を向いた。そして「ブキーッ!」とけたたましく吠えると、まず手前にいた三匹が突進してきた。プレイズたちは三匹の進路を避けるように二手に分かれ、そのままボスの方へ疾走した。予期せぬプレイズたちの動きにうろたえたボスは後ずさりた。


「今だ!」


 プレイズの合図に、トールキンが構えていた弓で矢を放った。矢はボスの顔をかすめた。逆上したボスはプレイズたちに向かって突進してきた。と、同時に先ほどの三匹も反転してプレイズたちへ向かってきた。プレイズたちはすかさず各々バラバラの方向に走ってバリアントたちを攪乱かくらんした。そして、ボスが混乱してその足を止めた一瞬を狙い、ボスを四方から取り囲んで一斉に攻撃をした。トールキンはさらに矢を射ち込み、ファートはモーニングスターの鉄球を叩き込み、ガンテは斧を振り下ろし、プレイズは殺龍剣を突き刺した。ボスはその一斉攻撃に耐え切れず「ギピーッ!」とするどい悲鳴をあげてその巨体を崩し音をたてて倒れた。それを見た残り三匹は、プレイズの読み通り、うろたえ、方向を変えて逃げようとした。


「逃がすか!」


 プレイズは疾走し三匹の前に先回りをした。そして剣を中段に構え、向かってきた三匹に舞うように剣を振った。それは一瞬だった。三匹は悲鳴もあげず地面に倒れた。その鮮やかなプレイズの技を見た、ファート、トールキン、ガンテの三人はしばらく唖然として立ちつくしていた。


「す、すごい……」


 ファートのつぶやきでガンテとトールキンが我に返ると、三人はプレイズのもとへ駆け寄った。


「お、お見事! でも、なぜ逃げてゆく三匹をわざわざ倒したんだ?」


 ファートが興奮しながら訊いた。


「生かしておくと、あいつらは必ず仲間を呼んで復讐に来るかもしれません。それを阻止しました」

「なるほど~。プレイズは頭がいいな~」


 ガンテが感心して手を叩いた。トールキンも納得したようにうんうんとうなずいた。


「ステラさんは大丈夫かな」


 プレイズたちは畑でうずくまっているステラにもとへ駆け寄った。


「大丈夫ですか」

「え、ええ……ありがとう。さすが皆さん、バスターなのね。おかげで助かったわ」

「こんな所でなにをされてたんですか」

「ダムが見あたらないので探しに来たのよ。そういえば、あなたたちも、どうしてここにいるの?」


 ステラがプレイズの後ろにいたファートたち三人を指さした。


「実は……途中でゴーストに遭遇して、ここまで逃げてきました」

「途中でゴーストに? やだ、まさかここまで追いかけられたんじゃないでしょうね」


 ファートたちは気まずそうに顔を見合わせた。


「もう大丈夫です。ゴーストはどこかへ行ってしまったようですから」


 ファートの答えに、ステラは「そう」と言ってほっと胸を撫で下ろした。


「ところで、ダムはどこに行ったのかしら? こんな大騒ぎになってたのに……」


 ステラが口を尖らせて家の方を見ると、暗闇の中からダムが現れた。


「あなた! 今まで何してたのよ!」


 おぼつかない足でダムに近づこうとしたステラの手をプレイズが引っ張って制した。


「ダムさん……」


 ダムを見た全員が息を飲んだ。

 そこには剣を片手に死人のような目で立つダムと、そのすぐ後ろにまるでダムを操るかのようにふわふわと浮いているゴーストがいた。

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