第20話 バリアントの異変
フェイムの掛け声のもと、バスターたちはまるで事前に打ち合わせしていたかのように鳥型バリアントと猪型バリアントを攻める二チームに分かれた。
鳥型を攻めるチームは、各々が爆龍弾の矢を大型の弓に取り付け、空を旋回するバリアントたちに向かって狙いを定めた。一方、猪型を攻めるチームは道の両側に二列に別れ、その真ん中に向かって爆走してくるバリアントたちを迎え撃つために弓や槍を構えた。
「射て!」
一人のバスターの号令で爆龍弾がついた矢が一斉に鳥型バリアントに向かって放たれた。そして、そのほとんどが命中しバリアントたちは吹き飛んだ。プレイズは空を見上げながら息を飲んだ。その爆龍弾は、今までプレイズが使っていたものとは比較にならないほどの破壊力があった。
「おいでなすったぞ!」
眼帯の男が叫ぶと、十匹の猪型バリアントたちが道の中央を突進してきた。道の両側で構えていたバスターたちがバリアントたちに向かって一斉に矢や槍を放つと、それらのほとんどが命中した。しかし、バリアントたちはそれでも倒れず怒り狂ったように両脇にいたバスターたちをなぎ倒していった。
「あたしの出番ね!」
フェイムは背中の剣を抜き、突進してくるバリアントたちを、まるで踊るような剣さばきで次々と斬り捨て、あっと言う間にバリアントたちの屍の山を作った。
「死んだふりしてるやつもいるから、とどめを刺しといてね!」
フェイムは剣についた血を振り落としながら、周りのバスターたちに頼んだ。
「退治終了ー!」
眼帯の男が叫ぶと、バスターたち全員が勝利の雄叫びを上げた。彼らは、ものの十分足らずで全てのバリアントたちを全滅させた。
「はやい……」
プレイズは何もできないまま、ただ呆然と立ち尽くしていた。
(こんなに強くてチームワークのあるバスターたちは初めて見た。この国のバスターたちはみんなこんな感じなんだろうか? 僕が知ってるルーウィンのバスターたちとはレベルが違う……)
バリアントを退治した事を知った市民たちが、隠れていた家からぞろぞろと表に出てきた。市民たちはバリアントの屍を見て安堵のため息をついたが、誰ひとりとしてバスターたちに礼を言ったり、称賛したりする者はいなかった。しかし、そのことを気にしているようなバスターも一人もいなかった。初めからそんなことなど期待してなかったように。
「さてと、また店で飲み直すか」
眼帯の男が鎧についた埃をはらいながら、つぶやいた。あれほど団結していたのが嘘のように、バスターたちは各々ばらばらの方向に散らばっていった。プレイズは地面にしゃがみこんで、深いため息をついた。
(僕は今まで自分のことを、わりと優秀なバスターだと自負していた。でも、どうやらそれは、井の中の蛙の思い上がりだったみたいだな……)
プレイズの後ろにやって来たフェイムが話しかけた。
「最近のバリアントって、なんか変。以前にも増して凶暴に、あと利口になってきたというか……」
プレイズは立ち上がり、近くに倒れている鳥型バリアントの屍を観察した。
(こいつら、ずいぶん頭が良かったな。僕が知ってるバリアントとはかなり違ってた)
「ねえ、プレイズ。あなたって、けっこう実績がありそうだけど、あなたが倒してきたバリアントも今のみたいだった?」
プレイズは今まで倒してきたバリアントのことを思い浮かべた。ルーウィンにいたバリアントたちは最初から人間を襲うような事はほとんどなく、むしろ人間の方が悪役にしたてていた。特にファスト村の龍型バリアント親子の一件は今でも記憶から消える事がなかった。しかし、ここテクニアのバリアントたちは違っていた。まるでルーウィンとは別のタイプのバリアントか、そうでなければ、その心を何かに支配されてるかのように感じられた。
「どうしたの? ぼうっとして」
「あ、いや、なんでもない。僕が倒してきたバリアントのことだっけ? そうだなぁ、ここのに比べれば、ずいぶんおとなしかったよ。だから僕の実績なんか大した事ないよ」
プレイズはそう言って引きつった笑いをした。フェイムはプレイズのその表情に、なんとなく卑屈なものを感じ「あ、そう」と素っ気なく答えた。
(この人、あたしが思っていたような凄いバスターじゃなかったのかも……。でも、ソフィアからブレスレットをもらったんだよね? あの子が普通の人間にあんな大切なものをあげるわけないし。それとも、間違えてあげちゃったのかな? いやいや、それはありえない……)
フェイムは釈然としない表情で首をひねった。
「じゃあ、あたしはそろそろ帰る」
「わかった。じゃあ、元気で」
「あなたもね」
フェイムは軽く手を振ってプレイズのもとから去ろうとした。しかし、すぐにその足を停めて振り向き、きつい目でプレイズを指さした。
「言っとくけど、あたしの後をつけてくるようなまねはしないでね!」
そう念を押してフェイムは走り去って行った。
(それって、自分の家を知られたくないってことだよな。つまり、それだけ特別なところに住んでいるというわけか。わざわざ自らアピールすることもないのに……)
プレイズは苦笑した。そしてその場から離れようとした時、通りの奥から顔を隠した汚い身なりの集団が幾台もの大きな荷車を引っ張って来るのが見えた。集団は道に転がっているバリアントの屍を次々に荷車に積み込んでいった。
(屍処理屋か。御苦労さまです……)
プレイズがバスターと縁の深い彼らの仕事に対して、心の中で感謝の言葉をささげた時、町民の誰かが彼らに向かって石を投げたのが見えた。その差別的な行為にプレイズの中に怒りの感情がわいた。しかし、屍処理屋たちはそれを気にする事もなく黙々と仕事を続けていた。プレイズは彼らの堂々とした姿を見て、自分の正義感が安っぽく感じられて気恥しくなった。
「なんか、いろいろと考えさせられる事が多いな。この街は……」
プレイズは軽くため息をつき、再び居酒屋ローディーへ戻って行った。




