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褒められバスター  作者: 平野文鳥
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第2話 補聴石(ほちょうせき)

 ファスト村でのプレイズの仕事ぶりは巷の噂となり、それからは彼のもとにバリアント退治の仕事が徐々に舞い込むようになった。プレイズはそれらの仕事を全て確実にこなし、その度に人々から称賛を受けた。


(みんなが僕を笑顔で褒めてくれる。みんなが僕のことを認めてくれる……)


 プレイズはこの上もない安心と幸福感を味わう日々を送っていた。


 ある日のこと。武器庫で古い武具の整理をしていたプレイズは、棚の隅で埃まみれの木製の小箱を見つけた。その中には豆粒ほどの小石が二個入っていた。


「父上、武器庫でこんなものを見つけたのですが、これはなんですか?」


 居間にいたファーテルにプレイズがその石をに見せると、ファーテルはいかがわしいものでも見るかのように眉根を寄せた。


「ああ、それか。それは、たしか……補聴石とか言ってたな。なんでも先代が魔導師からもらったそうだ」

「ほちょう……せき?」

「耳の中に入れると、バリアントが何を言ってるのかわかるらしい。昔、その話を信じて幾度か試したことがあったが、全くなにも起こらなかった。ただの石だった。つまり先代はインチキ魔導師にだまされたというわけだ」


 ファーテルは壁に飾ってあった先代の肖像画を見ながら、軽いため息をついた。

 補聴石に興味がわいたプレイズは、もっとよく見ようと顔に近づけてみた。すると突然、石がぼんやりと光り始めた。驚いて石を遠退けると光は消えてしまった。


「父上! 今、石が光りました」


 ファーテルは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに真顔にもどした。プレイズはその表情を読んで「いえ、なんでもありません……」と口ごもり、話を続けるのをやめた。


「気のせいだ。さっきも言ったが、それはただの石だ。それとも、私の言うことが信じられないのか 」

「と、とんでもありません! 父上がおっしゃる通り、気のせいだと思います……」


 ファーテルはプレイズを睨み、不機嫌な表情で居間から出て行った。その後ろ姿を見ながらプレイズは首をかしげた。


(ほんとに気のせいだったのかな)


 プレイズはもう一度、補聴石を顔に近づけてみた。再び石は淡い光を放った。


(やっぱり気のせいじゃなかった。バリアントが何を言ってるかわかるって、父上は言ってたっけ……。そうだ。 あそこへ行って試してみよう)


 プレイズは、はやる気持ちを抑えながら悪事の森へと向かった。

 馬に乗って森へ移動するプレイズは、何気に森の遠景に連なる山並みを見た。その山並みの中にひときわ高い山がそびえていた。その山の峰はまるで剣の切っ先のようにするどく、何人も近づけさせない雰囲気を醸し出していた。


(バーリー山か……。父上は、バスターがあの山に行くとバリアントの呪いにかかるから絶対近づくなって言ってたけど、本当なんだろうか)


 プレイズは妄想を走らせながら、馬に鞭を打って悪事の森へ急いだ。

 悪事の森はプレイズが子どもの頃からバリアント退治の訓練に使ってきた場所だ。高い頻度でバリアントが現れるので訓練場としては最適だった。

 森の名前は正式名ではない。プレイズがかってにつけた呼び名だ。訓練をする前にファーテルが倒すべきバリアントが行った悪事を必ず説明していたため、いつしかこの森自体が悪事の巣窟のように感じるようになったからだ。


 異形の樹々が茂る森の中は夜のように薄暗く、湿気を含んだ苔臭い空気がよどんでいた。

 プレイズは上着のポケットから補聴石を取り出し両方の耳に入れた。そして茂みの中に隠れてバリアントが現れるのを待った。

 ところが、いつもなら少し待つだけで二、三匹は現れるはずが、この日に限って一匹も現れなかった。


「しかたがない……。また出直すか」


 プレイズが残念そうに頭をかきながら森から出ようとすると、どこからか人の声が聞こえてくるのに気づいた。


(ニンゲンダ! ニゲロ〜! ニンゲンダ! ニゲロ〜!)


 声のする方を見上げると、暗い木々の間から見える青空に一羽の鳥型バリアントが横切って行くのが見えた。プレイズはもしやと思い、耳から石を引き抜いた。


「ギャギャッ! グギャーツ! ギャギャッ! グギャーツ! 」


 人間だと思っていたその声は、まぎれもなくバリアントの鳴き声だった。プレイズは思わず手に持った補聴石を見た。


(信じられない……。 これは本物だったんだ)


 その時、向こうの茂みから何かが飛び出した。プレイズは反射的に身を低くして背中の剣の柄を握った。飛び出してきたのは二匹の小さな猪型のバリアントだった。二匹は何やらギャーギャーとわめいている。プレイズはその内容を聞こうと急いで補聴石を耳の中に入れた。


「ニンゲンガ ヤッテキタヨウダ。ミツカッタラ コロサレル」

「マタ アイツカ?」

「ワカラナイ」

「オレタチ ナニモ ワルイコト シテナイノニ」

「イイカラ ハヤク ニゲルゾ!」


 二匹は会話を終えると茂みの中へ逃げて行った。


「驚いたな……。バリアントも人間と同じくらいの知能があり、会話もするんだ。あいつらの考えが手に取るようにわかるぞ。こいつは使える」


 補聴石がこれからのバリアント退治の最高の道具になる事を確信したプレイズは、光るその石を握りしめた。

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