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褒められバスター  作者: 平野文鳥
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第19話 フェイムの秘密

「ここは人の話を盗み聞きする連中ばかりだから、外へ出ましょう」


 フェイムから誘わてれ店を出たプレイズは彼女の後について行った。しばらく歩くと雑然とした裏通りが、いつしか上品そうな店が並ぶ小綺麗な通りに変わっいた。


「あたしの名はフェイム。あなたは?」

「僕はプレイズ」

「プレイズ? どっかで聞いたような名前ね。どこだっけ……? ま、いっか。えーっと、どこの店がいいかな。そうだ、あそこにしましょう」


 フェイムは通りの中央にあった店を指差した。そこは他の店とは明らかに見た目から違う格式の高そうなレストランだった。


 フェイムが店に入ろうとすると、入り口の両側に腕を組んで立っていた二人の男が彼女を制した。


「バスターか? ここはおまえのような者が来る場所ではない。帰れ!」

「あら? 父上がいつでもこの店を使っていいって言ったから来たのに」

「父上?」


 男たちがキョトンとした顔でお互いの顔を見合った。


「ディザードよ」

「ディザード? ……もしや、あのディザードさまで?」

「そうよ」

「こ、これは失礼いたしました! ささ、中へ」


 男たちが一礼しドアを開けると、フェイムはプレイズの方へ振り返り「どうぞ」と中へ促した。慣れた様子で中に入って行くフェイムとは対照的に、おどおどしながら入って行くプレイズを男たちが怪訝な表情で見つめた。

 店内のロビーは豪華な装飾品で彩られ、どの客も身分の高さを思わせる衣装を身にまとっていた。客たちはバスターの装備に身を包んだフェイムとプレイズを見て、眉根を寄せて後退りした。


「あそこがいいわ」


 フェイムは店の奥にある窓際のテーブルを指差した。そして二人がテーブルにつくと、早速フェイムが口を開いた。


「そのブレスレット、あたしのと同じデザインだけど、どこで手に入れたの?」

「その前に君に訊きたいことがある。エスティムという魔導師を知ってるよね?」


 フェイムは目を丸くした。


「どうやら知ってるようだね。君はエスティムの家にあるゴースト退治の道具を手に入れる為に、山賊を使ったらしいね」

「誰から聞いたの?」

「エスティムの家の住人からだよ」

「知り合いなの?」

「ああ。とても親切な人だった」


 フェイムは何かに気づいたのか、膝をポンと叩いた。


「なるほど、そういう事だったんだ。バンディーが突然あたしの依頼を断ってきた理由は。恩人の知り合いを脅すわけにはいかないからって言ってたけど、その恩人ってあなたの事だったのね。で、それで?」

「それで……って、悪いとは思ってないの?」

「うーん、手荒な方法を使ったのは悪いと思ってる。でも仕方がなかったのよ」

「仕方がない? どういう意味なんだ」


 会話をさえぎるように給仕がお茶を持ってきた。フェイムはそれを一口飲んだ後、口を尖らせて不服そうに言った。


「だって、譲ってくれないから」

「えっ?」

「もともと、あたしの物になるはずなのにあの子、絶対譲ってくれないからよ。そんな物ないってしらばっくれて……」


(あの子?)


 プレイズの頭の中が混乱した。


(どういう事だ? フェイムとソフィアってどういう関係なんだ?)


「そっか! そのブレスレット、ソフィアにもらったんだ」

「あの……ソフィアとはどういう関係なんだ?」

「あたしの妹よ」


 プレイズは唖然として言葉を失った。そしてフェイムの顔をじっと見つめた。言われてみると、なんとなく似てなくはない。


「なによ。人の顔じろじろ見ないでよ」

「い、いや……その……」


 プレイズはしどろもどろになりがら、目をそむけた。


「ねえ、そのブレスレット、何か効果があった?」

「効果?」

「その、なんてゆーか、不思議な力が発揮されたというか……」


 プレイズはブレスレットの光でゴーストを退治できた事や、山で遭遇した巨大バリアントが逃げた事を思い出した。しかし、それらの事を今フェイムに話すことになんとなく抵抗感があった。


「いや、特に……」

「ほんと? そっかぁ……。やっぱり、これじゃなかったんだ……」

「これじゃなかった?」

「ううん。なんでもない」


 フェイムは話をはぐらかすように、手を上げて給仕を呼び食事を頼んだ。しばらくすると皿に山盛りの肉料理が運ばれてきた。


「このお肉は美味しいのよ。遠慮なく食べて」


 フェイムは肉の塊を小皿にとりわけると、まるで男のように豪快にかぶりついた。プレイズは今までの上品そうな彼女の印象とは大きく異なるその食べっぷりに面食らった。


「あなたもバスターなんでしょ。食べられる時にしっかり食べといた方がいいわよ。いつバリアントが襲ってくるかわからないから」

「えっ? そんなに頻繁に現れるの?」


 フェイムは肉を頬張りながら「うん」とうなづいた。プレイズも小皿に肉をとりわけ頬張った。


「うまい! こんなおいしい肉、食べたことがない」

「おいしいでしょ? 鳥型バリアントの肉って案外いけるのよね」


 プレイズは「うっ」と呻き、涙目で頬張った肉を無理やり飲みこむと、食事をする手をとめた。


「あら? もういいの」

「ああ、あまりお腹がすいてなかったもんで……。ところで、もう一つ訊きたいことがあるんだけど」

「また?」

「君はバリアントバスターなのに、なぜそれほどまでゴースト退治にこだわっているんだい?」

「しっ! 静かに」


 突然、フェイムは食事の手を止め、耳をそばだてた。


「外でバスターたちが騒いでる。きっとあいつらだわ」

「あいつら……?」

「プレイズ、あなたも手伝って! バリアントが来るわ」


 フェイムは食事を中断して店の外へ走った。プレイズも慌てて彼女の後を追った。

 店の外の通りはバリアント襲来の情報を聞いた市民たちが逃げ惑っていた。その混乱の中に居酒屋ローディーにいたほとんどのバスターたちが集まり、各々の武器を手にして皆同じ方向を見つめていた。

フェイムがバスターたちの先頭にいる眼帯の男に訊いた。


「数は?」

「わからん。でも、あいつら、最近、集団で動くようになってきてるから、最低でも十匹以上はいるだろう」


 眼帯の男がプレイズに気づいた。


「おっ、さっきのにいちゃんじゃねーか。あんたも手伝ってくれるのかい? 言っておくが、これは報酬金は出ねえし、倒しても誰からも褒められないぜ。バスターとしての使命感だけでやってるだけだ。この街を守るためにな」


(使命感だけで? たったそれだけの理由で命をかけるのか?)


 今まで、賞賛や名誉、そして実績が欲しいが為にバリアントを退治してきたプレイズにとって、その言葉が心に刺さった。


「来たわ! 上よ!」


 フェイムが指差した先に、鳥型バリアントの群れが現れた。突然、その中の一羽が急降下してバスターの一人を鷲掴みにし、再び急上昇して空から落とした。同時に、残りのバリアントたちが口に咥えていた大きな石を一斉にバスターたちめがけて落とすと、下にいたバスターたちが慌てて逃げ回った。


「猪型に攻め込まれたぞ!」


 バスターの一人が声を上げた。


「なんで、ちゃんと門を閉めてなかったのよ! 城塞都市の意味がないじゃない」

「俺に言われても。文句なら門番の兵士に言ってくれ!」

「あいつら陸と空から同時に攻めてくるつもりね。皆んな、よろしく!」

「おうっ!!」


 フェイムの掛け声に応えるように、バスターたち全員が一斉に雄叫びをあげた。

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