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褒められバスター  作者: 平野文鳥
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第18話 女バスター・フェイム

 城塞都市テクニアに着いたプレイズは、バンディーに教えてもらったローディーという名の居酒屋を探した。店はすぐに見つかった。地元では結構有名な店らしい。しかし、それは良い意味ではなく、悪い意味で有名だった事がわかったのはプレイズが店に入った後だった。


 店の中には、バリアントバスターと思しき装備に身を包んだ男たちであふれ、各々、友人と思しき仲間と酒を片手に大声で談笑していた。

 彼らはプレイズが知っているバリアントバスターとは少し雰囲気が違っていた。プレイズがいたルーウィン王国にいるバスターたちは、皆、どことなく気品があった。それは自分たちの仕事に誇りを持っており、誰からも尊敬されるよう、身なりや言葉遣いにも気を使っていたからだ。しかし、ここにいるバスターたちはその逆で、おおよそ気品というものが感じられない。身なりは汚く、会話から漏れ聞こえる話の内容も下品そのもので、ただの荒くれ者の集団にしか見えなかった。


「見なれない顔だな」


 カウンターについたプレイズに、隣の席で酒を飲んでいた厳つい中年の男が無遠慮に話しかけてきた。見ると顔は傷だらけで右目に眼帯をつけ、いかにも百戦錬磨のバスターの雰囲気を醸し出していた。


「おまえも仕事を探しに来たのか?」

「えっ? ま、まあ、そんな感じです……」


 プレイズは素っ気ない返事をした。酔っ払いの話し相手をするのは嫌だったからだ。


「ならば、ここの店主が紹介してくれるぜ。ただ、この店にはルールがあって、おまえの力量にあった仕事しか紹介してくれない。それは素直に従ったほうがいい。以前、そのルールが不満で自分の力量を超えた仕事を奪いとったバスターがあの世にいっちまった。相手が火を吹きやがるバリアントだったんだ」


 眼帯の男はグラスの酒をぐいと喉に流し込んだ。


「どうもご親切に。ルールには従うようにします」

「それと……」


 突然、男は小声になり、酒臭い口をプレイズの耳元に近づけた。


「おまえは若いから忠告しておくが、フェイムという女バスターから仕事を誘われたら注意しろよ。どんなに金を積まれても」


 プレイズはフェイムと名に強く反応し身を乗り出した。


「なぜですか」

「あいつの仕事はバリアントじゃなく、ゴースト退治だからさ。ゴーストの事をよく知らず、金につられて引き受けたバスター達全員が頭が変になって命を落とした」


 男は話した後、ぶるっと身震いし「ああ、おっかねえ、おっかねぇ……」とつぶやいた。

 プレイズはバンディーが言っていた事を思い出した。フェイムがソフィアの家にあるゴーストを倒せる道具を欲しがっていた事を。


「質問があります。フェイムはなぜゴースト退治にこだわっているのですか」

「なぜ? 知らねえよ。直接本人から訊いてみればいいだろ。おっと、噂をすればなんとやらか……」


 そう言って男は頭を店の入り口に向かって振った。ドアの前にバスターの装備を身にまとった小柄な女が立っていた。その容姿を見てプレイズは驚いた。バスターというから男のような勇ましい風貌の女だと思っていたが、予想に反してプレイズとあまり変わらない若さだった。金髪を束ね、バスターとは思えない知的で美しいその顔は、育ちの良さも感じさせた。

 フェイムが店の中に入ってくると、騒然としていた店の中が急に静まり返った。フェイムはそのままカウンターまで進み、あいていたプレイズの隣の席に腰を降ろした。プレイズは緊張した。フェイムは注文したミルクで喉を(うるお)すと、ほっと息を吐いた。そして横目でプレイズを見た。


「あら? ずいぶんお若いバスターね。あなたも仕事を探しに来たの?」


 プレイズは返事にとまどい横目で眼帯の男を見た。男は「話に乗るな」とでも言わんばかりに無言で首を横に振った。


「えっ、無視? ずいぶんね。せっかく大金になるいい話があったのに……」


 フェイムは残念そうな表情で肩をすくめ、ミルクの入ったグラスに手に取った。その時、店の扉が乱暴に開き、大男のバスターが怒鳴りこんできた。


「フェイム! てめえ、だましやがったな!」


 大男のバスターは、立っていた客をなぎ倒す勢いで店の中をドカドカと進み、フェイムの後ろで立ち止まった。そして威圧するように肩を怒らせ、フェイムを指さした。


「あんな化け物、初めっから倒せないとわかっていて俺たちにやらせやがったな! そのせいで俺のかわいい部下たちがあの世に行っちまったぜ! いったい、どういうつもりなんだ!」


 フェイムは興奮した大男の怒声に特に動揺のそぶりも見せず、ゆっくりとグラスを置いた。


「それは気の毒だったわ……。でもね、私は最初に何度も念を押したわよね。倒す相手はバリアントじゃない、ゴーストだって。だから倒す自信がなかったらやめときなさいって。なのに、大金に目がくらみ自分の実力もかえりみずに引き受けたのは、どこのどなたさんでしたっけ?」

「この小娘……」


 大男は顔を真っ赤にし、いきなりフェイムの肩を強くつかんだ。プレイズは反射的にフェイムを守ろうと腰を上げた。すると次の瞬間、フェイムは目にも止まらぬ速さで大男のみぞおちに肘打ちを入れ、そして大男が呻き声をあげて前かがみになって突き出した顎を拳で下から思いきり突き上げた。男はまるで人形のように後ろへ倒れ気絶した。


(すごい……)


 ファイムが繰り出した技はまるで踊りのように華麗だった。プレイズは思わず見とれてしまった。


「逆恨みはやめといてね」


 フェイムは男を一瞥し、何事もなかったように椅子から立ち上がり、カウンターに金を置いた。


「と、いうことで、ゴースト退治に興味があるかたは、いつでもあたしに声をかけてね!」


 そう言ってフェイムは店から出て行った。静まり返っていた店の中が再びにぎやかになった。


「フェイムって何者なんですか?」


 プレイズが眼帯の男に訊いた。


「実は、優秀なバリアントバスターだという意外、俺もよく知らねえんだ。ただ、さっきの格闘術やゴースト退治の莫大な報酬金が支払えることを考えると、どうも城の関係者じゃねーかという噂もある」


(城と関係あるバリアントバスター? 聞いたこともないな……)


 プレイズの頭の中にいろんな疑問が溢れ、ぐるぐると回った。

 なぜ彼女がそれほどまでにゴースト退治にこだわっているのか。なぜエスティムの家にゴースト退治の道具があると知っていたのか。考えれば考える程、プレイズはフェイムに対して興味がわいてきた。


(それと、バンディーを使ってソフィアを脅してたことに関しても、一言、抗議しとかなくては)


 プレイズはどうにも落ち着かなくなり、今すぐにでもフェイムに会って話がしたくなった。と、その時、突然、店内が静かになった。何気に後ろを振り返ると店の扉を開けて肩で息をするフェイムが立っていた。フェイムはプレイズの背後まで駆け寄り両肩に手をそえた。


「ああ、よかった! まだいたのね。ねえ、ちょっとそれについて訊きたいことがあるんだけど、いいかな?」


 フェイムはプレイズの左手首につけられたブレスレッドを指さし、同時に自分の左手首を見せた。そこには同じ形をしたブレスレッドがつけられていた。

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