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褒められバスター  作者: 平野文鳥
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第16話 罠

「フランクと申します。ハーベン様よりあなた様を自宅までお送りするようにと命じられました。さあ、この馬車にお乗りください」


 プレイズがその巨漢の兵士を見上げながら馬車に乗り込もうとすると、再び声をかけられた。


「それと、プレイズ様のお父上が埋葬されている場所を教えるようにとも命じられたのですが、寄って行かれますか」

「えっ、父上を埋葬? も、もちろんです!」


 予想もしなかったフランクの申し出に、プレイズは歓喜した。


(やはり、ハーベン様は父上のことを気にしていてくれたのか。ありがとうございます……)


 この国では極刑に処された者は埋葬や弔いも禁止され、まるでゴミのように秘密の場所に捨てられる。その事を知っていたプレイズは、ファーテルも同じような処分をされただろうと諦め、父の亡骸なきがらの事は考えないようにしていた。だから、埋葬されていたことを知ったときの喜びはこの上もなかった。

 馬車が動き出すと、辺りにたくさんの馬の足音が聞こえた。プレイズが窓から顔を出し前後を見ると、馬に乗った重装備の兵士達が10人ほど護衛についていた。


(ずいぶん大げさな護衛だな。これもハーベン様のお気遣いなんだろうか……)


 一時間ほどたつと馬車は山道を登っていた。移動中、ほとんど口を開かなかったフランクがプレイズに言った。


「そろそろファーテル様が埋葬された場所に着きます。今しばらくお待ちを」


 しばらくして馬車が止まった――。

 馬車の扉が開き、護衛の兵士がプレイズを外へと促した。そこは森の中の草地だった。


「あちらの方へお進みください」


 兵士が森の奥に向かって指さした。しばらく歩くと草地が途切れ、眼下に深い谷が現れた。


「父上はどこに埋葬されているのですか」


 不安になったプレイズが後ろを振り向くと、突然一人の兵士が剣を抜いて斬りかかってきた。プレイズはそれを反射的に避け兵士の背後へ素早く周り込み腕で首を締め上げた。


「何をする!?」


 周りを見ると、護衛の兵士たちがプレイズを取り囲んでいた。その後方には両手を腰にあてた巨漢のフランクがプレイズを見下すような目で立っていた。


「残念だがここにファーテルはいない。たぶん今ごろ他の罪人たちと一緒に、どこかの荒れ地で仲良く寝ているだろうよ」


 フランクが高らかに笑うと、残りの兵士たちが一斉に剣を抜いた。


(どういうことだ。まさかハーベンが……)


 動揺したプレイズが油断したすきに、首を締めあげられていた兵士が腕から逃げた。そして兵士はすぐに振り向いてプレイズに斬りかかった。プレイズはそれを素早くよけ、同時に背中の殺龍剣を抜いて兵士に思い切り振り下ろした。剣は厚い装甲の鎧ごと兵士を斬り裂いた。


「おおっ……」


 兵士たち全員が驚きの声をあげ、ひるんで後ずさりすると、さらにプレイズは兵士たちに剣を突きつけ威嚇した。


「寄るな! これは龍型バリアントを倒す為に作られた剣だ。おまえたちが装備している大袈裟な鎧など簡単に斬りさくぞ!」


 兵士たちは動揺した。しかしフランクはそれには動じなかった。


「ほほお。なかなかやるな。化け物相手に闘ってきただけあって、なかなかの腕だ。しかし、こちらも百戦錬磨の特殊部隊。バリアントバスターごとき卑しき者に負けはせぬわ。 れ!」


 先ほどの動揺が嘘のように、兵士たちは「おう!」と自らを鼓舞する大声を上げ、一斉に剣をかまえプレイズに襲いかかった。それをプレイズは獣のような俊足で兵士たちの剣をかわしながら、あっと言う間に兵士の群れを突破した。


(遅い。バリアントの素早さに比べれば止まっているも同然だ)


 プレイズはそのまま駆け抜け、後方で悠然とかまえるフランクに向かって高くジャンプして剣を振りおろした。それをフランクは素早い剣さばきで受け止めた。ガキーン!と金属同士がぶつかる鈍い音が辺りに響いた。両者は素早く後ろへ退き剣を構えなおした。


「チッ!」


 フランクは自分の剣にヒビが入っているのに気づいた。


「だから言ったろ! この剣はおまえたちが持っているものとは格が違う。どうする? このまま続ければおまえも剣もろとも砕け散るぞ!」


 そう言いながらプレイズは後ろを振り向き、背後から襲いかかろうとした兵士たちを睨みつけた。兵士たちが思わず後ずさりする。再びフランクに目をもどすと、なぜかフランクはニヤリと笑った。

 その時、一発の銃声が聞こえプレイズは右肩に激しい衝撃を受けた。そして剣が右手からこぼれ落ちた。音がした方向を見ると森の茂みの中に銃を構えた兵士が立っていた。フランクは右肩を押さえてうずくまるプレイズのそばへゆっくりと近寄った。


「さすがのバリアントバスターも銃にはかなわないようだな。まあ仕方ないか。化け物は飛び道具を使うことがないからな」

「くそっ……卑怯だぞ!」

「卑怯? そうか。きさまは俺たちの部隊のことをよく知らないようだな。目的の為には手段を選ばない。卑怯とか、正々堂々とか、そんな安っぽい価値観など俺達には関係ない。きさまらバスターも、いくら気どったところで似たようなもんじゃないのか?」


フランクは突然剣を投げ捨て、手と首の骨をボキボキと鳴らした後、格闘術の構えをとった。


「丸腰の相手を剣で斬り殺すだけでは、おもしろくねえな」


 そう言い終わると、フランクはうずくまっていたプレイズの腹を思い切り蹴り上げた。プレイズは声も出せずそのまま後ろへ吹っ飛んだ。さらにフランクは倒れたプレイズの髪を引っ張って強引に立たせ、その顔に強烈なパンチをみまった。プレイズは力なく倒れ、そのまま気を失った。


「なんだ。口ほどでもない若造だな。おいっ、おまえたち! あとは任せる。俺は手を汚したくないからな」


 兵士たちが一斉に剣を振り上げプレイズにとどめを刺そうとしたその時、一発の銃声が響いた。

 フランクたちが銃声の方へ振り向くと、先ほどプレイズを銃で狙った兵士が倒れるのが見えた。その後ろには剣を持った男が立っていた。


「だれだ!?」


 フランクが叫ぶと同時に、数十本の矢が次々と雨のようにフランクたちを襲った。兵士たちが装備する厚い鎧はそれらのほとんどを跳ねのけたが、中には鎧の隙間に矢が刺さり悲鳴を上げる兵士もいた。


「おまえら、城の兵士のくせに俺たちよりも最低な連中だな!」


 フランクが声の方を見ると、そこには弓矢を持ったバンディーが立っていた。フランクの顔がみるみる赤くなっていった。


「きさまら山賊か。なめたまねをしやがって……。皆殺しにしてやる!」


 バンディーが兵士から奪った銃でフランクに狙いをつけながら言い返した。


「おう、望むところだ! こっちこそおまえらのような権威を傘にきて好き放題やってる連中をぶっ倒せるいい機会だ!」


 バンディーが銃を撃った。その弾丸はフランクの右頬をかすめた。それを合図にするかのように、バンディーの後ろから数十人の山賊たちが各々の武器を手に一斉になだれ込んできた。


「こいつらに、我々の実力を思い知らせてやれ!」


 兵士たちは「おおー!」と雄たけびをあげながら剣を振り上げて山賊の群れに突進していった。特殊部隊と山賊たちの壮絶な闘いが始まった。

 バンディーはフランクたちが山賊たちに気を取られている隙にプレイズを救い出し、近くの茂みに隠れた。


「プレイズ様、プレイズ様! 大丈夫ですか」

「ううっ……。だれだ」

「私です。バンディーです」

「バンディー……。バンディーさん? なぜここに……」

「動かないでください。今、手当しますから」


 バンディーは自分の上着を脱いで引き裂き、銃で傷ついたプレイズの肩に包帯代わりに巻き付けた。


「見慣れない兵士たちが俺たちの縄張りに入ってきたので、仲間を引き連れてつけてきたんです。そうしたら、プレイズさまがこんな酷い目にあってたのでお助けしました。とにかくこの場から離れましょう。歩けますか?」


 プレイズはバンディーの肩を貸りてよろよろと立ち上がった。そして一緒に逃げようとしたとき、誰かが行く手をさえぎった。


「おい、逃げるのか?」


 それは血みどろの剣を片手に鬼の形相で立つフランクだった。


「おまえが山賊の親分か。おまえもなかなかいい部下をもったな。この俺たちを苦戦させるとは。しかし、所詮しょせん、山賊は山賊。我々の敵ではない。見ろ!」


 フランクが指さす方向には、兵士たちに倒された山賊たちの屍の山が築かれていた。その周りには血しぶきを浴びた兵士たちが肩で息をしながら立っていた。


「あそこにいない山賊どもは、怖気おじけづいてさっさと逃げて行った。だから今ここに残った連中は、おまえら二人だけだ」


 フランクはニヤリと笑って剣を握りなおした。


「まず、余計なまねをしやがった山賊の親分様から消えてもらおうか。手間をとらせやがって……」


 フランクが剣を上段に構えたその時、突然、ドン! という低い音とともに地面が揺れた。


「なんだ?」


 この場にいた全員が一斉に音がする方を振り向いた。


 ドン! …… ドン! …… ドン! ……


 それは谷底から聞こえてきて、次第に大きくなっていった。プレイズがつぶやいた。


「バリアントだ。こいつはでかいぞ……」

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