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褒められバスター  作者: 平野文鳥
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第14話 ゴースト

 プレイズは食堂の出入り口の横で停まり、中を覗き込んだ。

 テーブルや椅子が散乱し、その間に仲間同士で斬りあった兵士たちが血を流して倒れていた。そして、その奥には赤い球体が空中にふわふわと浮いていた。大きさは大人が手を広げた幅ほどで、球体の中には何やら得体のしれないものがうごめいていた。それは例えるなら、まるで、人間の不安や憎しみ、怒りの顔みたいなものがドロドロと形を変えているように見えた。


(あいつがゴーストか……。 なんて気持ちの悪いやつなんだ。うかつに近づくと僕も兵士たちの二の舞になるぞ。さて、どうしようか……)


 しかし、考えたところでゴーストを倒す方法など思いつくわけがない。とりあえず直接ではなく、間接的に攻撃して様子を見てみようとプレイズは考えた。そして、いったん食堂から離れ、途中で出会った兵士に武器庫の場所を訊いてそこへ走った。

 武器庫を見つけたプレイズは中に入り、使えそうなものを物色した。


(たぶん、弓矢などは効果ないだろう。火器が良さそうだ。でも、それだと火事になるかもしれないな……。ええい、ぐだぐだ考えても仕方ない。その時はその時だ!)


 プレイズは、持てるだけの手投げ弾を、腰につけたバッグの中に入れ再び食堂へ戻った。そして中を覗き込んでみた。ところがそこにはゴーストの姿はなかった。


(変だな。どこへ行った?)


 プレイズが怪訝な表情で後ろを振り向くと、目の前にゴーストが浮いていた。プレイズは「うわっ!」と声をあげ、食堂の中へ逃げた。

 ゴーストはふわふわと空中を移動しながらゆっくりとプレイズを追いかけた。プレイズは食堂の奥まで逃げたが、壁に行く手を阻まれゴーストに追い詰められた。すかさず手投げ弾を投げようと腰の袋の中から一個つかんだが、焦っていたせいで手から落としてしまった。ゴーストがいよいよ目の前まで近づいてきた。プレイズは思わず目を閉じ、両手を自分の顔の前にあげてガードした。


「グエ~……」


 その時、まるで人間の低いうめき声のような異様な音がした。プレイズが目を開けると、なぜかガードした手がまぶしい光を発していた。目を細めてよく見てみるとその光は左手につけたブレスレットから放たれていた。


(何も考えないでください。考えるとエンパに心を奪われます……)


 声が聞こえた。それは耳からではなく頭の中からだった。


(この声は、もしかして……ソフィア?)

(何も考えないで……何も……)


 プレイズは前を見た。光を嫌ったのか、ゴーストは大きく後退していた。


「何も考えるな? どういう意味なんだ、ソフィア!」


 プレイズはあたりを見回しながら、どこから聞こえてきたかわからないソフィアの声に向かって叫んだ。しかし、ソフィアの声はもう聞こえなかった。

 再びゴーストがプレイズに向かってゆっくりと前進し始めた。


(うっ、なんだこの感じは? 誰かが僕の頭の中に入ってくる……。それも、複数で……)


 プレイズは頭を抱え込んだ。


(もしかして、これが父上をおかしくさせた正体なのか? だめだ、このままでは僕も……)


 プレイズは早くこの場から逃げようとした。しかし、目の前にはゴーストがいる。


(何も考えない……何も考えない……)


 為す術を失くしたプレイズは、ソフィアが言ってた事を信じ、実行してみた。そして、今までのことも、ゴーストのことも、自分のことも全て考えないように頭の中を真っ白にした。すると、さきほど自分の頭の中に入ろうとした誰かが徐々に消えてゆくような感じがした。

 プレイズは目を少し開いた。目の前にまぶしい光を感じた。そして何かが爆発するような音を聞いたあと、気が遠のいていった。


 どれほどの時がたったのだろうか――。

 真っ暗なプレイズの頭の中に白い人影が現れた。


(よくやったプレイズ……。褒めてやる)


 そしてその人影の顔が笑ったような気がした。


(父上!?)


 プレイズは我に返った。なぜか床に大の字になって倒れていた。周りを見回すと心配そうに覗き込む兵士たちがプレイズを取り囲んでいた。


「生きてるぞ!」


 兵士の一人が声をあげた。それと同時に兵士たちの歓声が沸き起こった。プレイズはいったい何が起こったのか理解できなかった。


「なんていう奴だ。まさか本当にかたきをとるとは思わなかったぞ」


 プレイズを取り囲んだ兵士たちの中からハーベンが現れた。そして倒れていたプレイズに手を差し伸べた。


「どうしたんですか? 何があったんですか」

「なに、覚えてないのか? おまえは見事ゴーストを倒したんだぞ」

「ゴーストを倒した? この私がですか」


 プレイズは人ごとのように、気の抜けた表情を浮かべた。ハーベンはプレイズから少し離れた床を指さした。そこには何かが爆発したような黒い焦げ跡があった。


「おまえが、その左手でゴーストを退治したのだ」

 

 プレイズはまだ理解できず唖然とした表情で立ちつくしていた。ハーベンの横にいた兵士が言った。


「ハーベン様。プレイズ様はあの闘いのショックで、少し記憶を失っているのかも知れません。全てを目撃していた私からご説明すれば、少しは思い出されるでしょう」


 ハーベンは黙ってうなずいた。


「プレイズ様。あなたがゴーストに追い詰められたと後、突然無抵抗になり、立ちつくしておられてたのは覚えてらっしゃいますか」


 プレイズは首を横に振った。


「そうですか。その後、プレイズ様の左手が少し光ってゴーストを退けたのです。しかしゴーストは再度プレイズ様に近づきました。すると今度は左手の輝きが前よりも増し、その光に弾き返されるようにゴーストは吹っ飛び、そして風船のように膨らんで、最後は赤い光を放って爆発しました」


 プレイズはそれでも思い出せないのか、首をかしげた。ハーベンが口を開いた。


「思い出せないようだな。それだけ体力、気力を消耗したという事か。しかし、まさかおまえがあのような術が使えるとは思わな……ん? どうしたプレイズ。大丈夫か」


 突然、プレイズの顔が青ざめ、その体がふらふらと揺れ始めた。そして再び意識を失って床に倒れた。

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