被検体は酷く哭く
目が覚めた時、私は真っ暗で冷たい空間にいた。外から差す微かな月明かりしか光源はなく、1mほど先が壁であること以外何もわからない。
「あれ?私……なんで?」
どうして私がここにいるのか、何もわからない。ううん、多分、記憶が無くなっているっていうのが正しいのかな。でも、私の体が何かこれまでと違うのはわかる。
「起きたか?」
「え?……誰?」
「我々が何者かなどどうでもいいことだ。お前はこれから我々の実験の被検体となってもらう。そのために少し手を加えさせてもらった」
「よく、わかんない」
「別に理解しなくても良い。いずれ体で知ることになるのだからな」
そういうと、真っ白の防護服を着た人達が四角い空間から出ていた。その人達を追おうとして立ち上がろうとしたけど、足につけられていた重い鉄の足枷のせいで立ち上がれなかった。
「私……どうなっちゃうの?」
私は恐怖で眠れなかった。でも、朝になると同時に私は知ることになる。本当の地獄はこれからなのだということを……
・・・
「おい朝だ。起きろ。ついてこい」
私は何もわからずに部屋から連れていかれた。連れていかれた先は、石で作られた椅子がぽつんとあるだけの部屋だった。
「座れ」
「ねぇ、なにするの?これから、なにするの?」
私の質問に防護服の人達は答えてくれなかった。その代わりにただ一言。
「今わかる」
とだけ言った。そして私は、何をすればいいのかわからずにただ椅子に座ることしか出来なかった。
「今より、不死の薬の実験を開始する。被験者No.13は台座へ」
やたら機械じみた声で話した内容は、ほとんど理解できなかったけど、少なくとも私は人間として扱われてないことは分かった。
「本日は第1段階から第3段階まで行います」
その機械音を最後に、その部屋には私の悲鳴しか音は無かった。最初は気を失いそうになる程の電流が10秒毎に流された。意識が飛ぶ寸前で止められ、また回復しそうになった時に流される。それが2時間続いた。終わった時には、まともに座っていることすら出来なかった。
「第1段階終了です。次は第2段階に移ります」
私は、何人かの防護服の人達に運ばれた。もう既に私は滅入っていたけど……
運ばれた先は手術室みたいなところだった。
「始めます」
手と足を手術台に固定され、全く動けなくさせられた。その私の体にメスが入れられていく。
「痛い痛い痛い!!!やめて!」
私の悲痛な叫びは誰にも届かない。5分くらい経った時、右腕の中に空気が入ってくる感じがした。というか、皮膚がなくなってる感じ。
「やめて!!もうやめ…がぁ!いった……ぁあ!ぎゃぁぁ!!!」
その後襲ってきたのは筋繊維が切られていく感覚だった。ブチブチという音と共に襲ってくるそれは、暴れたくなるような痛みだった。
「次」
「あ……がぁ…………ぎゃぁぁ!痛い!!!もうやめて!やめてぇ!!!」
右の二の腕の筋肉を切り終えた後、左腕から同様の痛みが走った。また切られていく筋繊維。そこに空気が触れてより痛みが増していく。もう既に地獄だった。
「第2段階終了。そのまま第3段階へ移行」
両二の腕の筋肉が断たれた後、防護服の人達が全員私の下半身の方に移動した。私は何をされるのかわからない恐怖と、これまでの実験でかなり疲弊しきっていた。
「始めます」
その声と同時に下腹部を裂かれていく感覚があった。痛いけど、まだ耐えられるくらいには耐性がついてた。
でも、それは単なる始まりだった。そのあとの痛みは、声が出ない痛みってこういうことなんだなって感じだった。
「あぁ………………が………………」
何をされたのか理解出来なかった。ただ、自分の大切なものを失ったという感覚と嫌な寒気と耐えられないほどの痛みだけが、私の中に渦巻いた。
「第3段階、子宮摘出終了」
子宮摘……しゅつ?ってことは…………私、これからどうなっちゃうの?
・・・
その次の日から、本格的な実験が始まった。それは徐々に過激さを増した。
まず、子宮を摘出された時に開けた場所からさらに上に切り口を広げ、胸骨に当たる寸前のところまで開けた。その後、防護服の人達が3人位で私の内蔵をかき混ぜ続けた。途中から声が出なくなった。グチュグチュという内蔵をかき混ぜる音だけが音のない空間に響いていた。
次はその切り口をさらに上まで広げ、肋骨を全て折られた。そして心臓と肺をあらわにした状態で心臓の動きを撮影され、片方の肺を摘出された。その後傷口を雑く縫って引っ付けられた。私は子宮と肋骨と肺を失った。
その次に、私は両腕と両足を切り落とされた。ボトリと大きな音を立てて切り離された四肢が落ちるのをしっかりと見せつけられた。体の中の血が大量に出ていくのが分かった。切られていくにつれて地面に広がる血の海は、恐怖でしかなかった。
四肢が切り離された後、数時間後にしっかりと縫い付けられた。最初は動かなかったけど、朝を迎える頃には前と同じように動かせた。
そして、私は断頭台に乗せられた。私の顔は恐怖に染まってたと思う。そんな私のことは関係なしと言わんばかりに躊躇なく鎌が落とされた。私の首は呆気なく断たれ、地面に落ちた。ゴツンという音が間近で聞こえたと同時に、猛烈な痛みと失ってしまった身体の感覚の違和感に襲われた。私は視界が赤くなっていく中、久しぶりに気を失った。それでも生きているのは、多分不死の薬?とやらのお陰なのかな…………
そして今日、昨日と同じようにつけられた首に違和感を覚えながら、いつもの手術室に連れていかれた。
「今日は最終段階の実験を行う。これによって死んだ場合、不死の薬を改良する」
いつもと同じ言葉を聞きながら、私は何をされるのか待った。もう首を落とされること以上の痛みはないだろう。そんな勝手な余裕があった。
「最後は脳の確認を行う」
「し、しかし……この不死の薬は脳が生きている限りなのでは?…………」
「だから最後なのだ。その制約がないと分かれば、本当の不死の薬が完成したということになる。なぁに、代わりはまだいる」
一人の人がそう言うと同時に私の頭に重い衝撃が走った。割れた。そんな感覚だった。
「よし、まずは取り出す」
「ぐがぁ…………はぁ…………がぁぁ!!!ぎゃぁぁぁ!!!!痛い!!!やめて!!やめ──」
全身を引きちぎられているような感覚と共に、焼けるような痛みなのに冷たくて激しい痛みに襲われた。それはこれまで感じたことの無い痛みだった。私は、我慢できなくなって叫んだ。
が、私はその途中で死んだ。気づいたら空中にいて、脳を取り出され、痛みに顔をゆがめた自分と、小さくてシワが少ない少しドロっとした何かを持った防護服の人を見ていた。
『私死んだの?これで、もうあんな日々とさよなら出来るの?』
その答えは返って来ないまま。でも、死んだ時の私はとてつもない幸せで満ちていた。