2話
2話です。
至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
「うむ、息は吹き返したようじゃ。まあ、しばらくしたら起きるじゃろ」
「茜さん」
「何じゃ」
「さっそく、起きましたよ」
綺麗な黒髪、そして整った顔、さらには巨乳。というなんとも素晴らしいお方がこちらを見ておられる。
すぐ隣には白髪、巫女服の女の子もいた。
俺はいまだはっきりとしない意識の中で、それだけを見つけるとすぐに顔を天井に向ける。俺の視界に移りこむ天井は見慣れないものだった。
見知らぬ女の子が二人もいるんだから当然か、そんなことをボーっとしながら考えていたが、意識がはっきりしていくにつれ俺、なんでこんなところにいるの。てか、俺死んだはずじゃ……。という疑問がふと湧いてきた。
「おーい、起きろー。起きるのじゃ」
声質からして女の子と方だろうか。まあ、どっちでもいいが俺の意識があるかを確認しているようだ。
あれ、もし女のこのほうだとしたら言葉遣いがおかしくないか。いや、もしかしたら小さい方はおばあさんだったのかもしれないな。声のとても若いおばあさん。そういうことにしておこう。
それよりも俺は今もっと早く、出来ることなら今すぐに、俺は生きているのかを確認しなければならない。
「このワシを無視とはいい度胸しとるな」
ドタドタと足音を立てて走っていってしまった。しかし、足音はすぐにすり足に変わって近づいてくる。
「茜さん、それはだめですよ」
「いいんじゃよ」
何をしようとしているのか僅かながらに気になり、ふと目を向けるとそこにはバケツを持っておられるお方の姿が目に入る。
「ちょ、待って、待ってくださいよ。おば」
ここまで言うと、俺に冷たい水が降りかかる。
「誰が婆さんじゃって? えっ?」
その顔を見てみると、決しておばあさんってわけじゃ無さそうだ。さいしょの見立て通り女の子らしい。口調と白髪は常識的に考えて女の子の持つべき姿形とはややずれている気がするが、やっぱり女の子だ。
ちゃんと確認したから間違えてはいないはず。
「茜さん、喋り方だけ聞けばおばあさんじゃないですか、落ち着いてくださいよ。この人さっきまで、あの、その、えっと、寝てたんですよ」
「……それもそうじゃな、すまんかった」
「こちらこそすいませんでした」
素直に謝られてしまったら、俺もこう返すしか思いつかなかった。普段人と接してないとこんなとき気の利いた返しとか思いつかなくて困るな。
「あの、ここはどこでしょうか」
「別にそんなかしこまった喋り方をせんでもよいぞ」
仕方ないだろ最後に友達がいたのは小学校の頃だったし、家族も死んじゃってるし、ずっと一人だったんだから。声が裏返らなかっただけありがたいと思え。
というか、まずはお前が口調をどうにかしたらどうだ。
「いや、毎朝早くからこんな場所に来てるくらいじゃから友達がおらんのか、ならば仕方ないのう、かしこまった喋り方しかできなくとも」
いちいち腹の立つガキだな。何が毎朝早くからこんなところに来ているだよ。
あれ、最近同じようなこと言わなかったっけ。言ったよな、確か刺されるちょっと前。そうだよな。確か俺刺されたんだよな、しかも十回ぐらい。いやぁあれは痛かったな、それはもう死んじゃうんじゃないかと思ったよ。
いやいやいや、俺は死んだんじゃないの? こんなあっさりと生きてるけど、俺死んだんだよね。
「大丈夫か、おい聞いとるのか」
「……」
ここは死後の世界?
それとも、俺は死んでなかったのか?
「茜さん、お水持ってきてくれますか?」
「うむ、任せておけ」
すぐに女の子は水を汲んできたようだ。
「お水飲みませんか?」
突然声が掛けられて驚きはしたが、別に大慌てということも無く水を受け取り口に水を含んでから気づく。俺に水を渡したのは人形だ。それもクマの人形、結構可愛い感じのやつ。
ちらりと、クマの人形に目を向けると丁寧に正座をしていた。もはや正座とも呼べそうに無い正座に吹いてしまう。俺の吹いてしまった水は俺がクマの方に向いていたこともあり、完全に水を掛けてしまう形となってしまった。
「すいません」
そう言ってポケットに入っていたハンカチを取り出し、特に濡れてしまっていた腹の辺りを拭こうと触れると。
「んぅ」
ん?
なにやら声が漏れてきた。正体を確かめるためにもう一度同じ場所に触れてみる。
「んぅ」
また同じ声が漏れてきた。
「ほれ、そろそろ出てきたらどうじゃ、葵よ」
するりとクマの人形から何者かが抜け出した。
「……えっち」
「はい?」
真っ赤な顔で出てきた、巨乳の子が俺に向かってそう言った。俺は「はい?」という言葉を返したが、これはいろんな意味での「はい?」だ。
まずは当然のごとく、俺は人形を触っただけですが? という意味での「はい?」
そして、なぜに今この人形から出てきた? という意味も込めたつもりの「はい?」だ。正直色々ありすぎて、もう混乱しきっているのもあってか、そこまで驚けない。何でだろうな、程度のもんだ。
今日だけで俺はいくつの疑問を抱えればいいのやら。
「葵、完全に混乱しとるぞ。どうするんじゃ」
「仕方ないじゃないですか、あんなに触られちゃったんですよ。わたしもうお嫁さんにいけません」
「別に悪いやつじゃないじゃろうし、こいつに貰ってもらえばいいじゃろ。そもそも、おぬしは幽霊じゃろ」
「嫌ですよ。まだよく知らないのに」
なんでだろう、俺告白してないのに振られたよ。良いよ良いよ、良いですよ。どうせ俺はモテませんよ。分かってましたよ、こんな会話が始まった時点で覚悟はしてましたよ。まずは友達が出来てからそういうことは考えましょうね。
ってか、おい!
「で、なんじゃったかのう。ここがどこかじゃったか? そうじゃな、そうじゃったそうじゃった。ここはの、神社じゃよ。おぬしが通いつめとった神社」
なんだろう、もう驚きようも無い。いやー人間って凄いね、だって混乱もすぎると落ち着いてきちゃうんだもん。
いやいや、凄いね。
「俺って生きてるんですか」
「人としては死んどって、人ならざる者としては生きとる」
ってことは、きっと今朝あの男に殺されたんだろうな。そもそもなんだよ、人ならざら者って。死んだら終わり、バットエンドじゃないの。
まあ、死んじゃったからデットエンドでもいいけど。なんにせよなんで生きてるの。
「気になることがあるようじゃの」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら俺にそんなことを聞いてきた。
聞きたい事はあるけど、何でニヤニヤしてんだよ。怪しいわ、凄く怪しい。こんなやつに聞いて大丈夫なのかよ。
「ほれほれ、言ってみたらどうじゃ。この茜様がなんでも答えてやろう」
どうやらこの女の子は茜というらしい。わざわざ名乗ってもらったけど、とりあえずもう一回自己紹介させてやろうかな。
「じゃあ、あの、名前教えてもらえますか」
「ワシは白峯茜じゃ。最強じゃ。こっちは雨月葵じゃ。たゆんたゆんのふんわりもっちりじゃ。おぬしは?」
「俺は鳥居樹です」
名前を名乗ってくれたのはいいがなんだよ、最強じゃって。いやね、たゆんたゆんは分かるんだよ。実際にたゆんたゆんだからね、気持ち良さそうにたゆんたゆんしてるからね。しかも、ふんわりもっちりだろうね、触ったら気持ちよさそうだよね。それに関しては問題ないんだよ。いや、それを触ることなく死んでしまうことに関しては問題大ありだけど。そんな叶わぬ夢よりもさ、なに最強って。
「何か聞きたそうじゃな。何々、どうしてワシが最強か聞きたいとそう言っておるのじゃな。いいじゃろう、教えてやろう」
そうそう、その通りだよ。俺が聞きたかったのはまさしくそれだ。
「ワシはな妖怪の中で一番強いのじゃ。最強なのじゃ」
……あー、うん。分かった分かった。そうだね、君は妖怪だね、最強だね。
子供って、可愛い。
「なんじゃ、おぬし信用しとらんな」
「そんなこと無いですよ。妖怪なんですよね、一番強いんですよね、信じてますとも。ええ」
「信じとらんな、証拠を見せてやる。まずはワシらが妖怪じゃということを教えねばならんのう。よし、葵ちょっとこっち来い」
「え、あ、はい」
「ワシと握手せい」
そう言って茜は葵の手をとった。
……ただの握手じゃん。こんなんで妖怪認定されるなら俺も立派な妖怪だな。
「次は、おぬしが葵と握手せい」
差し出された葵の手を取り、あれ、手を……手に触れられねぇ。なんだよこれ、触ろうとしてもすり抜けていきやがる。
「どうじゃ、ワシらは人間じゃないということが分かったか」
「葵さんが人間じゃなさそうなのは分かりました」
「何じゃワシのことはそうじゃないと言うのか。幽霊に触れるのは強い妖怪の証じゃと習わんかったか」
習うかよ、そんなもん。
幽霊には触りたくても触れないんだな。ちょっと触ってみたかったのに。もちろん変な意味じゃなくだぞ? さっき散々言ってたからってそんな風な勘違いは困る。俺は触りたくなんか無いんだからな。
というか、葵は幽霊だったんだな。よく見てみれば若干色が薄い気がしなくも無いが、気にしなければ気にならない程度だ。幽霊は足が無いんじゃないのかよ。
じっと葵を見ていたせいか、少し肌が赤い。そろそろ止めておかないと、わけの分からないいちゃもん付けられかねない、と思い俺は視線をはずした。
「仕方が無い。ちょっと付いて来い」
茜がぶつくさと言いながら歩いて行く先についていくと、神社の表に出てきた。俺が通っていた神社で俺が死んだとされる神社でもある。
いたなら助けてくれればよかったのに。ふとそんなことを思ってしまっても仕方が無いよな。
「ワシが合図したら隠れるんじゃぞ」
「どうしてですか」
「妖怪が人間に妖怪として認知されたら消されるからのう。もちろん、相手が陰陽師みたいなんじゃったら別じゃよ。やつらは特殊じゃからな」
俺は葵を幽霊として見たが消える様子なんてものは一切無い。これは、遠まわしにお前は人間じゃないって言われてるのか。
「よし、来たのう」
黒地に白く『儂最強』と書かれたなんとも趣味の悪い扇子を取り出した。取り出された扇子で軽く一振りすると、轟音が聞こえるほどの風となって石階段の下にいた女性の服をかっぱらっていった。
服だけかっぱらうなんてどんなことしたんだよ、常識的に考えて風で服は脱げません。めくれても脱げません。
というか、風でめくられたスカートから覗く下着がどれだけ素晴らしいものかを知らないようだな。実は裸体を眺めるよりも、偶然のパンチラとかのほうがよっぽどいいんだよ、あの喜びはそう味わえるものじゃないからな。
こほん、熱くなりすぎたかな。こんなことを声に出していたら俺は、きっと警察にお世話になっていたことだろう。
「今じゃ」
短く告げられた合図に従って身を隠す。
最強かどうかは別として、この茜という女の子が人間でないということは間違いないだろう。綺麗に服だけをかっぱらって行ったんだ、これで信じきるのはどうかと思うが、まあ人間技でないことは明確だ。
決して女性の下着姿に心を揺さぶられたわけじゃあない。もちろん、騙されてもいない。いいかもう一度言うぞ、俺はこんな事で騙されない。
ただまあ、ね? 嬉しかったよ。うん。仕方ないじゃん。俺だって男だもの。
パンチラのほうがよかったけど、下着姿ってのもなかなかいいものがあるしね。
「どうじゃ、凄いじゃろ」
これはきっと扇子に何か隠されているに違いない。もし扇子を手に入れることが出来れば俺にもあんなことが出来るかもしれないのか。
ああ、素晴らしきかな扇子。
「まだ信じとらんのか。全くしかたないのう、まあ、おぬしはすぐにワシを信じることになるじゃろうがな」
そう言って茜は軽く地面を蹴ると、宙に浮いた。
いや、ジャンプしてる間だけとかそんなんじゃなく、この言葉通り浮いた。はきっきりと浮いた。某猫型ロボットが三ミリ浮いているらしいが、そんなものとは比べ物にならないくらい浮いている。しっかりと浮いている。
しかも胡坐で。
これはとうとう信じなきゃいけないようだ。こんなものを見せられたあとでは流石に、扇子があれば俺にも。なんてことは考えられない。
「どうじゃ、今度こそ信じたじゃろ」
「ええ、信じました」
最強かどうかは別としてだけど。
「ほかに何か聞きたいことはあるかのう。ほうほう、ワシが何者か? じゃと。なかなかいいことを聞くではないか。仕方が無い、答えてやろう」
女性の服を剥ぎ取る変態。だろ?
「ワシは最強の、最強の天狗じゃ」
ドヤ顔で俺を見る茜。
天狗のくせして鼻が伸びていないのはなぜだ。羽も生えてないし、肌も赤くない。これのどこが天狗だってんだ。まあ、髪が白いのは天狗っぽく見えなくも無いが。
「何じゃその顔は。まさか、また信じとらんのか」
「信じてますよ。最強の天狗さんなんですよね」
「よぉ分かったわ、信じとらんのじゃな。でものう、こればっかりは証明のしようが無いんじゃよ」
「茜さん、樹さんの気になっていることに答えてあげたらどうですか」
そうそう、本当に聞きたいことはもっと別にあるよ。別に何者でもいいし、最強でも最弱でもいいけど、聞きたいことがあったりするんだよ。
「それしか無いかのう。面倒じゃー」
「そうしないと信じてもらえないんじゃないですか」
「むぅ、仕方が無いのう。じゃがしかし、三つまでしか質問には答えんぞ」
自由すぎるだろ。さっきまで何でも答えてやる、とか言っといてそりゃないよ。ただ、三つなら答えてくれるらしい。なら、しっかり三つ質問をしてやろう。
「じゃあお言葉に甘えて、さっきぬいぐるみから出てきたのはなんですか」
「あれは葵じゃ。ワシが自由に風を操れるのと同じじゃ。葵は小さな人形程度なら操れる。もちろん幽霊じゃから普段は何にもさわれんがの」
ああ、それで俺はえっちと言われたのか。なるほど、ちょうど触った辺りが……へぇ。
葵様申し訳ございませんでした。
心の中だけで俺は謝った。
そして文句を言う。
実体のほうで触りたい、触らせて?
「お二人はいくつですか」
これが一番気になっているといってもいいかもしれない。混乱のあまり何故か落ち着いてしまった俺にとっては、死んだことも、こいつらが何者だったのかも、なんかもうある程度受け入れてしまっている。ただ、この古風な喋り方で、幼女で、白髪で、自称最強な天狗様がいくつなのかが全く分からない。
「乙女にそんなことを聞くとは無粋じゃな」
おいおい、乙女とか言っちゃったよ。葵ならまだしも、茜が言っちゃいけないよ、だって乙女よりも幼女が似合うじゃない。
「まあいい、ワシは一〇〇歳ぐらいじゃ。葵は三〇〇年ぐらい前に死んで、一〇〇年前に幽霊になったんじゃ。歳については言わん、本人に聞くがよい」
「葵さん教えてくれますか」
「はい、えっとわたしは十七歳で死んだのでたぶん見た目は十七歳ってことになります。あ、でも、幽霊としては一〇〇歳です」
と、可愛らしいく答えてくれた。
三〇〇年前ってどの時代だよ。
いやいや、それよりもなんだ一〇〇歳って見た目とかけ離れすぎだろ。それと、結局乙女とは程遠い年齢であることに変わりは無いよな。
そして例のごとく大した驚きの無い俺。驚きという感情がいなくなったのかな、それとも驚きすぎて麻痺してんのか。麻痺だな麻痺、そういうことにしておこう。
さて、これで二つの質問を消化してしまった。さぁ三つ目はどうしようか、特に聞きたい事も無いからな。ああ、でも今の自分のことぐらい、知っておいたほうがいいのかもしれない。
「俺は何で生きてるんですか」
あまりにも今更だが確かに体のどこにも傷が無くなっていた。それどころか痛みも残っていない。
「妖怪になったからじゃろうな」
どうして妖怪になったら傷が塞がるんだよ。というのは、きっと聞いてはいけないことだろう。要するに気にしたら負けってやつだな。
「それにしても、カッターで刺されたくらいで死んでしまうとはのう。人間も貧弱になったもんじゃな」
悪かったな、カッター程度で死んじまって。
「茜さんそんなこと言っちゃいけませんよ」
流石葵さん人間のことは分かっていらっしゃる。それに比べて、最強の天狗様は人間のことを分かっちゃいないな。
「それにしても、おぬし何か強い願いでもあったんじゃろ。どんな願いなのじゃ」
「さぁ? 何でそんなことを」
「生まれつきの妖怪ならまだしも、人間が妖怪になるにはそれ相応の理由があるんじゃよ。その一つが生きることに対して強い未練があるからなんじゃ」
ああ、恥ずかしくて言えない。絶対に言えない。死んでも俺がこうなった理由を言えない。もう忘れてしまうじゃないか、あんな願い。
はっ!
よし忘れたぞ。何を忘れたのかも含めて忘れてやったぞ。忘れたついでに考えていることすらも方向をずらしてしまおう。
葵もきっと強い未練があったんだな。葵は今幽霊としてやっている。幽霊ってことは元々人間だったってことだ。あれ、でも三百年前に死んで百年前に生き返ったって言ってなかったっけか。俺は死んですぐ妖怪になったのに、葵は違った。
どういうことだ? まあどうでもいいけど。
「俺はこれからどうすればいいですか」
なぜかこんな言葉がこぼれた。
二人はひどく驚いた様子だ。それもそうだろう、突然こんなことを言われて驚かないのは、それはそれでどうかしているような気がする
というか、俺も驚いている。
どうして俺はこんなことを言ったのか、今更ながら凄く恥ずかしい。きっと顔は真っ赤だろう。でも、後悔はしていない、恥ずかしかったけどそれは後悔とは別の感情だ。そして薄っすらと、こんなことを言ってしまった理由が分かっていてもいた。
きっと、高揚していたのだろうし。
きっと、現状を見失っていたのだろうし。
きっと、なぜか楽しい今が終わって欲しくなかったのだろう。
そして何よりも、友達が欲しかったんだと思う。
ただこの人たちと一緒にいたかっただけなんだと思う。
手を差し伸べて欲しかっただけなんだと思う。
「さっきも言ったが、おぬしどうせ友達もいないんじゃろ。そんなこと聞いてくるということは家族もおらん、もしくは不仲なんじゃろうし、要するに行く当てが無いんじゃろ、おぬし。じゃあ、ワシらとおれば良い。ワシらがおぬしの仲間になってやる」
こうも俺の求めてた答えが返ってくるとは、流石に百年生きてるだけはあるな。いやいや、こう言ってもらえただけで泣きそうになってくる。別に本当に泣くわけじゃないけど、それでもなんだか熱いものが込み上げてくる。
「まあ、ワシらの分まで働いてはもらうがのう」
「茜さん、せっかく良いこと言ったのに」
ホントだよ、もう少し空気を読め。
「まあ、冗談はここらにして、せめて敬語ぐらいは直してもらわんと困るのう。その他の堅苦しいのもなしじゃ」
「わかったよ。これでいいか、茜」
やれば出来るじゃないか俺。
まあ、恥ずかしくて今にも死んでしまいそうなのはここだけの話。
「これで本格的に活動を開始出来そうじゃな」
「そうですね」
「何だよ、活動って」
「簡単に言うと万屋じゃよ。『あやかし堂』という名で始めようと思っとるんじゃ」
さっきの働いてもらうってのは冗談とかじゃなく、本当に働かされそうだな。
恐ろしや~。
恐ろしや。




