最終話
最終話です。
「ぬあっ」
突如として襲い掛かってきた息苦しさによって俺は目を覚ますこととなった。
どうやら息苦しさの犯人は茜で、息苦しさの理由は鼻を洗濯ばさみで挟まれていたかららしい。
「おお、無事じゃったか。心配させよって、あと一時間で殺処分するところじゃった、いやいや危ないところじゃったよ」
皆さんお忘れだろうか俺の種族。俺は家畜などに属する動物などではなく、人間である。
あるいは妖怪である。
そんな俺をこの幼女は殺処分するところだったと、茜は実に普通に言ってのけたのだ。
「本当に危なかったな、もう少しで俺は化けてお前を呪いに来なきゃいけないところだった」
「安心せい、そのときはワシが責任を持って黄泉の国まで送り届けてやるからの」
「それは安心だな、俺はそのままお前を黄泉の国の住人にして復讐完了だ」
「残念ながらワシほどの妖怪になると、そんな簡単に黄泉の国の住人にはならんのじゃよ。なにせワシは最強じゃからな」
随分な自信だことで。
「狐にボロクソにやられたのに最強?」
「あれは手を抜いたからに決まっとろうが」
「ふーん」
「何じゃ、その態度は!」
まったくもって不思議なもので、目が覚めると俺がいたのは見慣れた天井の広がる神社の一室だった。
と、今更ながらに現在いる場所について言葉にしてみるが、俺はそれほどまでに寝ていたのだろうか。たった五分寝るだけのつもりだったのに。
「なぁ茜、俺どのくらい寝てた?」
「三日とちょっとぐらいじゃよ」
あっれー、おかしいな。五分の予定だったんだけど、考えるのも面倒なくらいに長い時間寝過ごしちゃったみたいだな。
さてと、色々と聞きたいことがあって困るが、まずは当たり障りの無いようなところからいっとくか。
「あの狐はどうなった?」
「ワシの目が覚めたら消えとったよ」
なるほどなるほど、それは俺も知ってるから問題なし。次はやっぱり、
「葵と楓はどうなった」
「二人とも無事じゃよ。今は明日の買出しに行っとる、もちろん鬼もじゃ」
ふむふむ、誰も怪我をしていないと、そういうことならそれでよろしい。次は、
「なぜに俺はこんなに寝てた?」
大した怪我も無かったはずだし、俺には理由がさっぱり分かりません。
へるぷみぃー。
「妖力が随分と減少しっとたんじゃろう、妖力消費の激しいワシや鬼のお面を二つも付けとったんじゃからな。それにしてもおぬしには随分と迷惑を掛けられたのう、今回は妖力補給剤を三本も投与する破目になってしもうた、あれは随分と時間と金を掛けたというのに」
ほうほう、要するに貧血で倒れちゃった。見たいな事ですね、とてもよく分かりましたよ。
ただ、俺は気になる単語があったな『妖力補給剤』だっけ? なんだそれは、輸血的なものならまだしも、名前の字面と響きを考えてみるとそれって薬だな、それも凄く嫌な雰囲気をもってるやつだ。それこそマリモみたいなものだろ、しかも三本。俺の体は大丈夫なのか? そろそろ人間ドックに行きたい。
「まあ、もろもろ気になることがあるけど、そこは許してあげよう。目を瞑りましょう。しかしですよ、なぜにお前は俺の体の上に座っているのかな? それも胡坐で」
「別によいじゃろ?」
「あのさ、重いんだわ、分かるかな重いんだよ。もう一回言うぞ、お前はおも」
俺の言葉はここで中断せざるを得なくなる。なぜかって? 理由は簡単だ、右ストレートが俺の顔面を直撃してしまったからに決まっている。
「人に向かって重い重いとわなんと失礼な、そんなんじゃワシに殺される日も近いのう」
「せめて、浮いてくれ」
あの猫型ロボットだって浮いているらしいじゃないか。それならお前も浮いてみたらどうだきっと猫型ロボットの気持ちが味わえるはずだ。
なんて事を言いたい。凄く言いたい、けど死にたくない。次はきっともっと危険なものを持ち出すに違いないから、自分の命を惜しんで心の中だけで言葉を留めておく。
俺は偉いな。うん、偉い。
「おお、少年起きたんか。ほれ、これ替え刃や」
「ここでそれを渡すか?」
「まあまあ、気にするなって」
俺は押し付けれる形でビニール袋一杯のカッターの替え刃を手に入れた。
「樹さん、生きてたんですね! よかったー、あああぁぁぁぁ」
俺に抱きつこうとしてすり抜けるというなんとも心の和むことをやってくださる。いやいや、心は和んだけど、なぜか残念がる俺の心が見え隠れしている。
あれだから、別に抱き付かれてみたかったとかじゃないですから、断固として違いますからただちょっと夢を見てみたかっただけですから、男なら誰でもあるんですよ。
あなただってそうでしょう?
「い、樹殿。申し訳ございませんでした」
楓は床に手を付いて深々と頭を下げた。
「何しとるんじゃ?」
「いや、ご迷惑を掛けたことをお詫びしようかと……」
「そんなもん気にせんでよい。楓が樹に掛けた迷惑よりも、樹がワシに掛けた迷惑のほうがずっと多いはずじゃというのに、樹は謝るそぶり一つ見せんからのう」
「茜さん、少しお話をしましょうか? 俺が、いつ、お前にそんな迷惑を掛けたのかな? 俺だって迷惑を掛けられてるのに謝ってもらってないぞ」
「……葵、夕飯は何じゃ」
「って、事みたいだから気にすんな。お互い様ということにしておこうぜ、な?」
そうそう、女子にあんな本を運ばせてしまったことに関してはいくら詫びても許してもらえそうにないしね。うん、変なこと思い出させる前に話の方向を変えて、
「でさ、茜。お前が俺に投与した薬って安全なんだよな?」
「……楓、鬼。おぬしらも葵の手伝いをするんじゃ。もちろんワシもするからのう、心配するでない」
茜も葵も楓も蘇鉄も、みんな台所へと消えてしまう。
あれ、俺の体のことは心配してくれないの?
下手したら副作用で死ぬかもよ?
「茜、なんて恐ろしい幼女だ」
いや『老婆』かな。
それとも『妖魔』かな。
「なんにせよ、俺は恐ろしい仲間を持ったもんだ」
天狗。
幽霊。
猫又。
鬼。
仲間が四人、人間時代の俺よりもずっと多いな。
そしてなんだかんだで、神は俺がここに通い詰めて毎日のように心の奥底で思っていたことを叶えてくれたようだ。
神もやるときはやってくれるらしい。
その後夕食でもやっぱり一騒動起きた。
「茜、そう言えば俺随分と変わった夢を見たんだけどさ、あれなんでか分かるか?」
「それのう、ワシが暇つぶしがてらに毎朝おぬしにやっとたんじゃが、効果あったんじゃな」
「毎日変なことやってたのはそのためだったんですね」
「暇じゃったからな」
「何でそんなオチなんだよぉぉぉぉぉ!」
こんな変わったことばかりの仲間ではあるが、仲間が出来ただけよかったと思おう。また一人の孤独な時を味わうことがなくなることを喜ぼうじゃないか。
きっとこれからも面倒ごとだらけだろうけど、それでも、それすらも、一人では味わえなかったんだ。
いい事にしよう。
そうしよう。
というわけで最終話でした。
少しでも楽しんでくださった方がいてくださったのであれば嬉しい限りです。
そうでない方々は時間を無駄にさせてしまって申し訳ありません。
次回作も近いうちに公開すると思うので、そのときはまたよろしくお願いいたします。
それでは、また近いうちに。




