1話
という大分ファンタジックな夢を見た。
いやいや、まったく。おかげで随分と気分の悪い朝だな。
「行ってきます」
さっと準備を済ませ、何の返事も返ってこない家を俺は後にした。
まだ学生のいない通学路を一人歩いていた。俺が学生の一人もいないような時間から通学路を歩いているのは神社に行くためだ。
神社に行くって言ったって、別に家族の誰かが不治の病とか、今日が受験日だからと言うわけじゃない。
もちろん、神を信じているわけでもない。
ただ、あの場所が落ち着くからというだけだ。神に祈りたいことが無いわけでもないけど、どうせ神はいないし、いたところで叶えてくれるとも思えないしな。
ただ、どこかで友達や仲間が出来ることを望んでいたりいなかったり。
「ふぅ」
神社の石階段を上りきり、一つため息をこぼす。
大して珍しいわけではないけど、それでもこういう場所は落ち着く。
「そろそろ、行くか」
何をするわけでもなく、ただ突っ立っているだけだったが、まあこれで落ち着くのだから仕方ない。それに、ここは学校と真逆にあるために、残念ながらいつも長居出来ない。
『コツコツ、コツコツ』
足音がゆっくりと石階段を上ってくる。
「こんな神社に参拝客か、珍しいな」
毎日通ってるやつの言うことではないのだけれど。
ただ、本当に珍しかった。こんなところ知っている人がいただけでも驚くべきことだというのに、参拝客がいたとなったらそれはもう、驚くを通りこして奇妙にさえ感じる。
まあ、それでも賽銭を入れてくれる客がいなきゃ、神社が潰れているだろうというということを考えると、さほど驚くことでもないのかもしれない。
今日は長居しすぎてしまった。そろそろ学校に行かないと本格的に遅刻しそうだ。
俺は後ろを向いた。
後ろには、当然石階段があって、その石階段からはちょうど人が上ってきている。タイミング悪く振り向いた場所にちょうど、人がいた。ただ人がいただけじゃなく、その人と目が会ってしまった。
最悪だ。人と目が合うなんていつ振りだろう。
俺は動揺していた。
男は笑っている。
ちなみに男の服装は、頭から足まで全身黒。ご丁寧に黒い帽子と、サングラス、そして黒い手袋まで付けていた。さらには黒い手袋をした右手には血液とカッターも添えられて。
チョット、マッテクレヨ。
何で血液とカッターが添えられてんだよ。一目見たときから怪しげでしたけど、なんならこんなところに来ている時点で怪しいですけど、それは無いですよ、せめて隠しましょうよ、新手のドッキリですか? それともカッターで料理でもするんですか? もちろん、パフォーマンスとして、ですよね、そうですよね。カッターで人間を料理するなんてくだらないことは言いませんよね。
何でそんなに笑顔なんですか。ほら早く言い訳してくださいよ。
『僕は新手のパフォーマンスをしているんだ。ははっ』
とかハスキーな声を出して言ってくれよ。
男は笑ったままの目で俺の腹にカッターを突き立てた。そのまま、二本、三本と俺に突き立てる。それも刺し方が悪いのか、体内で刃が折れる音も聞こえる。
気づけばもう十本も俺の腹にはカッターが刺さっている。
最後にはわざわざ念を押してもう一本カッターを取り出し俺の腹に突き立てる。そして男はそれを真下に、力任せに、引き落とす。いや、こんな事を言うよりも一言、切り裂くと言った方が分かりやすくて、的確だ。
血はどんどん溢れ出し、男は逃げ出し、俺は倒れ、意識が朦朧とする中で俺はただただ願った。
俺が死んでも、どうせ誰も泣いてくれないんだろうけど。
どうせ誰も気づいてくれないんだろうけど。
友達は出来なかったんだろうけど。
彼女も出来なかったんだろうけど。
家族にももうあえないんだけど。
死にたくない。
生きたい。
と。
俺は心から願った。
強く、強く、心の底から願った。
これから毎日していく予定です。
感想や指摘など、何かありましたらメッセージよろしくお願いします(確かそんな機能ありましたよね?)。




