14話
14話でした。
至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。
結界良し。
誘拐良し。
矢文良し。
俺様強し。
ひゃひゃひゃ、完全に準備完了だな。
「さすが俺様だな」
俺様のデザートの到着を待つまでに結界を張り終えられるかが気がかりではあったが、まるで問題は無かった。むしろ時間が余っている。
「猫又は結界維持に全力を注がせてるからなぁ、あいつで遊ぶなんて事は出来そうもないし、下手な手に出て神如きに消されるのも尺だ」
あーあ、つまんねぇ。
人でも食ってくるか?
その間に来ちまったら困るから却下。
俺様じきじきに出向いてやるか?
行き違いになるから却下。
他には……特に無いな。
ったくよぉ、なんでこう遅いんだ、結界維持にも限界があるってのによ。まあ、維持できなくなってもあの猫又が消えるだけだから問題ないんだけどな。
「まったく、こんな頑丈に結界を張るとは、所詮は小物じゃのう」
この腹の立つ喋り方、やっときやがったか鞍馬天狗。
「いや、小物以前の問題かも知れんな」
「ははっ、まさにやな。ここまで頑丈な結界を張らないと落ち着けへんなんて、所詮は雑魚やな」
「俺様に向かってその口の利き方とは、随分と余裕だな。元最強どものくせに」
「いいよるわ、ワシはいまだに最強じゃよ」
「ワイはワレよりも数段強いからな。覚悟しとけ」
くっ、口だけは元気な雑魚だな。まあいい、とりあえずデザートを俺様の物へとしてしまおう。
俺様はデザートを引き寄せる。もちろん、俺様以外から見れば自らの意志で動いて見えるように。
「何じゃ、おぬしはワシら相手に食事の隙を見せてくれるというんじゃな」
「それやったら、一秒もいらねぇな」
腐っても元最強か。
「そんなわけ無いだろ、デザートってのは食事の後に取るもんだ」
「ほう、つまりワシらを食うとそう言いたいのじゃな」
「まずはワレの心配してろや」
「雑魚はよく喋るな」
「ワシらはおしゃべりなんじゃよ」
なぜこいつら動こうとしない。というか、あの面倒くせぇ能力持ちの餓鬼はどうした。
「お前ら、あの餓鬼はどうした」
「あやつはちょっと不貞腐れててのう、まあすぐ来るじゃろうから心配するでない。いや、あやつが来る前に殺されぬように心配しておくんじゃな」
「ぼちぼち始めようぜ、これだけの結界の中やったら暴れ放題やろ」
「そうじゃな」
二人は俺様に突っ込んでくる。馬鹿だな、九尾となった俺様に力を解放していないお前らが敵うわけがないだろ。
俺様は九本の尾の先に点した鬼火を投げつける。それは当然のごとく鞍馬天狗と酒呑童子に吸い寄せられるようにして飛んでいき、全弾命中する。
「お前らは馬鹿か? 九尾となった俺様にお前らが力を解放せずに敵うとでも思ったか。ひゃひゃひゃ」
俺様は鬼火をぶつけ続ける。
「所詮はその程度じゃろ? ならワシはこのままで十分じゃな」
「ああ、ほんまやで、まるっきしや。九尾はこないな生ぬるい鬼火をこないな単純な攻撃に使ったりしないと思ってたが、これじゃ子供のお遊びも同然やな」
「それは言い過ぎじゃろ、子供のお遊びじゃなんて可哀相じゃ。せめて馬鹿の一つ覚えじゃないかのう」
好き放題言ってくれるなこの雑魚ども、俺様を怒らせたらどうなるか思い知らせてやる。ついでに恐怖の味も教えてやろう。
俺様は鞍馬天狗と酒呑童子を操る。いや、さすがにこの搾りかす程度とはいえ元最強を操るのは難しいか。まあでも一瞬だけ動きを止められれば十分だ。
「所詮はお前ら雑魚なんだよ!」
叫ぶと同時に動きを一瞬止める。そしてそこに鬼火をぶち込み俺様の爪を体にえぐりこむ。が、えぐりこんだはずの爪は皮膚をかする程度で終わってしまう。
「やっぱりお前子供以下だな。自分で吹き飛ばしておいて元々ワイらがおった場所を攻撃したって当たるわけがねぇよ」
「これは馬鹿以下じゃな。馬鹿の下はなんじゃ? そうか馬鹿の下はおぬしじゃな」
「……馬鹿にするのもいい加減にしとけよ」
「馬鹿を馬鹿にして何が悪いんじゃ」
腹が立つやつらだ。まったく、どうして年寄りは一言多いんだかな。いや、俺様も同じ時代から生きているんだけどな。
「まあ、いいさすぐにその口塞いでやる」
もう一度俺様は鬼火をぶつける。そして、このタイミングで体の自由を奪い後ろから爪をえぐり込ませる。今度は腹の立つ鞍馬天狗だけに集中して、どうだ一人に集中すればお前如き瞬殺だ。
「ふんっ、経験不足じゃな」
「なっ!」
おいおい、俺の爪はえぐり込んだはずじゃ……。
自分の爪を確認し驚愕する。俺様の爪は鞍馬天狗の背中に多少の傷をつける程度で留まっていた。しかも爪が動かない、押しても引いてもまるで動きそうに無い。
「ちゃんと、勉強してくるべきじゃったな。ワシは風を自由自在に出来るんじゃよ? ヒントはここまでじゃ」
なにしたってんだよ、風をしたらこんな風に俺の動きを拘束できるんだ。
よく見れば、俺様の爪にまとわりつくようにして風が渦巻いてる。なるほどそういうことか、どうやら風を分厚い壁のようにして俺様の攻撃から身を守ったらしい、さすがは元最強様だことで。
まあ、今から俺様に食われるんだけど。
「背中にも気を付けろや」
はっと背中を見ると、そこには酒呑童子がいた。しかも俺様の腰にしっかりと標準を合わせて拳を振り落とそうとしているところだった。
「結局は経験の差やな」
そう一言呟くと容赦なく拳が振り落とされる。もちろんそれは俺様に大ダメージを与えるほどのものなどでは当然無かったが、精神的なダメージはそこそこのものがあった。
この俺様が、こんな搾りかす如きに攻撃される?
そんなのは嘘だ、俺様は九尾になったんだ。最強と謳われた妖怪の一人である九尾の力を手に入れたんだ。
「俺が負けるわけが無い……絶対に!」
俺様は二人が離れるよりも早く、鬼火をぶつけていく。鞍馬天狗には、傷口をえぐるように鬼火をめり込ませ、
「――っ!」
酒呑童子には目を焼き焦がすように顔面に叩き込む。
「がはっ」
俺様は攻撃の手を休めない。最もダメージが大きいであろう傷口だけを狙って攻撃する。いや、攻撃というよりも最早遊んでやっている感覚だ。
「うひゃひゃ、ひゃひゃひゃ、結局お前らじゃ俺様には勝てないんだよ。分かったか! ひゃひゃ」
「何じゃ、遅かったのう」
「なんや、来たのか」
俺様のことなどまるでどうでも良いことのように無視し、今更やって来た餓鬼に注目がいっている。
気にくわねぇな。
「落し物をお届けに参りました」
手には二つの物を持っている。なるほど、そういうことかよ。この過去の最強は俺様をここまで馬鹿にしていたのか。
「気にくわねぇな」
餓鬼、まずはお前から食ってやる。
覚悟しろ。




