9話
9話でした。
至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。
「うひゃひゃひゃひゃひゃ。こりゃすげぇ、二〇〇年前の霊魂が溜まりに溜まってるじゃねぇか」
まだ薄暗い夜が明ける少し前、俺様は天狗と鬼のお遊びに巻き込まれて死んだ霊魂を食らいに墓地にやってきていた。
俺様はそこら辺の霊魂を適当に食っていくが、どれも美味い。怒りと憎しみとが大量に詰め込まれた最高の霊魂だ。
「流石妖怪のお遊びに巻き込まれて死んだだけの事はある。どいつもこいつも皆怒り狂ってんな」
懐かしい匂いの霊魂が弱々しく漂っているのを見つける。
「おいおい、こいつは俺様の初めて食べた人間じゃねぇか。確か巨乳の綺麗なねぇちゃんだったなぁ、ったく俺様としたことが魂のほうを食い忘れてるとは情けねぇな」
まあ、ここで食ってやるから問題なんてまるでねぇんだけどな。
「お前は最後のデザートだ。俺様が九尾に成り代わるそのときに食ってやる」
次から次へと、端から端まで、順番に余すことなく俺様は霊魂を食らってゆく。上質な霊魂のおかげで尾の数が八本まで増えている。といっても、元が七本だから一本増えただけなんだけどな。
「うひゃひゃ、こりゃうめぇ、たまんねぇなおい。最高だぜ。体中が疼くな、なんだよこの快感、やっぱ人間の怒りと憎しみは他とは比べもんにならねぇくらいうめぇじゃねぇか」
やっぱ妖怪じゃなくて人間を最初っから食ってりゃ良かったのか。もうすぐ九本目も生えちまうぞ。
「なんじゃ、墓荒らしがおると思うたらおぬしのような小物じゃったか」
「んあ?」
どこからか、声が聞こえてきた。
そんなこたぁどうだっていい。誰が小物だって、この俺様に言ってるのか、この俺様が小物だとそう言ったのはどいつだ、絶対に殺して食ってやる。
「ここは、ワシが造った墓じゃ、はよう消えてくれんかのう。それとも世界から消滅してみたいんかのう?」
「何だとコラ、誰に向かって言ってんだよ」
「ワシの目の前にいる小物じゃよ」
よく目を凝らしてみると、そこには幼女が立っていた。
幼女かよおい。可愛いもんだな、ただ俺様を小物呼ばわりした以上死んでもらうがな。
「誰に言ってんだよ!」
幼女との距離を一気に詰め、思いっきり拳を振りぬいた。
さようなら、痛みも感じずに死ねてよかったな。
「おっそいのう、小物如きが調子に乗るでない」
俺様の拳は空を切る。
この糞餓鬼、絶対に殺す。
無残に殺す。
跡形も無く殺す。
そんでもって食ってやる。
「餓鬼お前こそ調子に乗るなよ」
俺様は鬼火を出現させ、餓鬼を燃やしてゆく。跡形がなくなるまで、灰も残らぬほどに燃やしてゆく。
「まだまだじゃのう」
餓鬼は退屈そうにまとわり付いた青白い炎を消し去る。
おい待てよ。こりゃどういう了見だ。何で鞍馬天狗がここにいる。こいつはあの時確かに神にやられたはずじゃ……。
「どうしたんじゃ? ほう、そうかそうかさてはおぬしワシを知っとるな。むしろその表情じゃとあのときのことを知っとるな、おぬしのような小物は神が現れた時点で逃げ出しとったんじゃろ。それなら、ワシが生きとることに驚くのも当然じゃな」
圧倒的な威圧感。
俺様が、勝てるはずのない相手と認めざるを得ない、過去から今に至るまでで唯一、妖怪の頂点に君臨した妖怪。見ているだけでも息ができなるかと思うほどに威圧感があったが、こうして視線を向けられるとそんなもんじゃ押さえが利かない。もうこれだけで心臓が止まってしまいそうなぐらいだ。
「さっきまでの威勢はどうしたんじゃ、もうお仕舞いかのう」
「ああ、お仕舞いだ」
俺様は全力で走り去る。こんなのとまとも殺り合えば確実に俺が死ぬ。せめて、九尾になってからでないと話にならない。
「だから、言ったじゃろ。おぬしは遅い、特に今のワシからすればあくびが出るほどじゃわ」
首だけ振り返ると、鞍馬天狗は両手を広げ、思いっきり手を打ち鳴らすただの天狗がやっていれば可愛いお遊びで済むが、正直こいつじゃそうもいかない。何かが来る、そんな風に考えるのは当然のことだろう。
次の瞬間、信じられないほどの力が左右から襲ってくる。俺様はここでやっと気が付く、さっきの動作は風で俺を潰すための動作だったのだと。
「殺しはせん、安心せい」
そんな風に俺に情けを掛けながら風の壁は俺様を潰した。本当に死ぬことはなかったが、二〇〇年ほど掛けなければ俺様は九尾になれないほどに痛手を負ってしまう。
「ふぅ、ワシは明日から一才じゃな。まったく、二〇〇年ぶりに力を使ったのがこんな小物というのはどうしたもんかの」
「ふぁぁ」
暢気な声を上げて俺様のデザートが起きてしまう。
くっそ、もう幽霊になりやがったのか。これだから人間の霊魂を食らうのは面倒なんだ。すぐに霊魂が幽霊に昇格しちまうし、邪魔が入りやすい。まさかこんな大物が邪魔に入ってくるとは露ほども考えていなかったけどな。
「起きたか、ワシは茜じゃ」
「おはよぉございます」
「おぬし名前は」
「えっと、えーっと。雨月葵です」
「葵か、よい名じゃ。行く先はあるのかの」
「ないですよ」
「そうか、ならばワシと来い」
「でも……」
巨乳女は俺を見て何か言いたげな表情を見せる。
「詳しい話は後じゃ」
鞍馬天狗は巨乳女を抱えて空中散歩を開始する。もちろん今は元の幼女体で。
「ひぃ」
二〇〇年後確実に殺しに行ってやる。俺様が九尾になって絶対にお前を殺す。次こそ殺す。
無残に殺す。
跡形も無く殺す。
そんでもって食ってやる。
次こそ必ず。
「……殺す」
声にもならない声で、音とも取れぬ音で。
ただただ怒りを込め。
俺様は復讐を誓う。




