プロローグ
※2014年に別名義で投稿した作品の転載です。
「よぉ、久しぶりやな」
「そうだな」
肌を赤く染め、金髪をオールバックでまとめ、なかなかいい体格の男が親しげに話しかけていた。いや、これを男と呼ぶべきではない。
額から禍々しく二本の角を生やした化け物というべきだろう。
一言で言えば鬼だ。
さらに言えば声を掛けられたほうも人間ではないだろう。
その風貌は鬼と同じく体を赤く染め、当然のごとく赤く染まった鼻を長く伸ばしている。さらに、体格も鬼ほどでないにしろ、良いほうだろう。よほど髪も手入れをしていないのか、獅子舞の白髪にとてもよく似ている。
これだけでも十分すぎるぐらいに人間でないことがよく分かるが、何よりも異様なのは天狗と思わしきこの生物が浮いていることだ。背に翼が生えている以上それは飛行するためのものであると分かるが、天狗は決して翼をバタつかせること無く浮いていた。
しかも胡坐をした状態で。
「用があるそうだが」
「そう急ぐなや。酒でも飲みながらゆっくりとしまひょや」
「暇じゃないからな、すぐに用とやらを聞きたいんだが」
「さよか? ほな、しゃあないな」
鬼は手に持った一升瓶の中身を一気に飲み干し、
「じゃあ、話を始めるか」
と、少し物足りなそうな顔で言った。
「まあ、話といったって簡単でなぁ、ワイと殺しあおうや。お互いこの日本で三本の指に入るぐらいには強い妖怪なんやしさ」
「そんなことは、あのいけ好かない狐とでもやってくれ」
天狗はそのまま体の向きを百八十度回転させ、どこかへと去っていくつもりらしい。
「待ってくれや、あいつにはもう頼んだんやけど、断られたんやで。ワレみたいにな」
そのまま鬼が天狗に飛び掛った。
天狗は到底攻撃が届きそうも無い上空を飛んでいたが、そんな高さなどもろともせず、鬼は飛び掛った。
ジャンプだけで。
もちろんそんな力技のジャンプをすれば、地面には何かが衝突したとしか思えないクレーターが完成する。
天狗もそんな攻撃などは簡単に避け、手に持った扇子を一振りし生まれた強風で鬼を地面に叩きつける。
「痛ってぇ、さすがやな」
「何を言っている。お前だってこの程度予想できていただろ」
「もちろん」
鬼は拳を握り締めた、すると拳からはビリリと電気が生まれる。
鬼はさっきとは比べ物にならない速度で天狗に飛び掛り、目にもとまらぬ速さで電気の宿る拳を打ち出し続けた。天狗はそれを交わしてはいるが、いくらか食らってしまったのか時折顔をしかめている。
やがて鬼は重力に従い自由落下を開始する。
自由落下の途中鬼は雷を落とすが、さすがにこの程度でやられるような天狗ではなく、簡単に横移動で回避される。
今度は天狗がさっきの仕返しだとばかしに扇子を二振りした。一振り目は強風を起こし、鬼を地面に叩きつけ、二振り目は地面に大きな溝を開けている。
「いやぁ、危ない危ない。下手したらワイの体が裂けるトコやった」
損気にもそんなことを言いながら鬼は立ち上がった。
気づけばギャラリーがぞろぞろと集まってきており、「あれが酒呑童子と鞍馬天狗か?」「こりゃ面白くなりそうだ」「どっちが勝つか賭けようぜ」などと各々が楽しんでいるようだ。
ただ、この光景は人間が見れば正気を保ってはいられないだろう。
何せ集まっているは、妖狐、河童、小鬼その他様々な化け物、いや世間一般では妖怪と呼ばれる者たちが続々と集まっているのだから。
集まってきたギャラリーの中には人間を抱えたものもおり、彼らは映画のお供にポップコーン程度の感覚で人間を貪り食うのだろう。
見たところ、綺麗な女性が人気のようだ。
そんな気の狂った観客が増えていくにしたがって、鬼と天狗の戦闘も熱を帯びてくる。気が付けばあたりはクレーターと溝がいくつも増えていた。
天狗は何を思ったか、空中からの猛攻を止めた。これをチャンスと思ったのか、鬼は拳に大量の電気を帯電させ、しっかりと地面をけり天狗の待つ空中に飛び上がった。だが、当然のごとく自分から誘い込んだ天狗が何もしないわけが無く、今までよりも大降りで扇子を扇いだ。
天狗によって作り出された風は鬼もろとも付近の木々をなぎ払う。
これを好機とにらんだのか、天狗は今のような突風を次々と引き起こし、最後の一発を放つ頃には鬼はすでに気を失っていた。ただこの戦闘の出した損害は異常といえよう。
天狗が出した損害は、山を半壊。町を一つ屠った。
さらに巻き込まれて死んだ人間も多くいたはずだ。
天狗がなんとも言えぬ高揚感に包まれていると、分厚い雲を三本の光の柱が降りてきた。一本は天狗の下へ、もう一本は鬼がいる場所へ、もう一本はかろうじて無事だった森の中へ。
「ん?」
天狗は光の柱をまじまじと見ていると、威厳に溢れた声が聞こえてくる。
「汝らは力を持ちすぎた。その力に制限を掛けよう。これは我ら神々の決断だ」
そう言うと、光の中から出てきた老人が天狗の顔に手を重ねる。重ねられた手はゆっくり、ゆっくりと離れていき、完全に離れる頃にはその手に一つの面が残っていた。
「汝ら妖怪は、暴れすぎたのだ。もし、汝らが『ただの』人間に素性がばれたとき、汝らはこの世界より消えることとなろう」
それだけを告げると天狗の手に面を持たせ、光の柱と共に姿を消した。同時に天狗も気を失い、宙から自由落下を開始し、すぐに『ドサッ』という音だけが辺りに響いた。
プロローグなのであらすじが全然関係ないですが、ご勘弁を!




