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赤ずきんとの出会い

 八雲が異能に目覚めたのは中学二年生の時、伊織と学校の図書館で図書委員の仕事をしていた時だ。

 元々本が好きな八雲は多少の仕事はあれど自由に読書が出来る図書委員になりたくて自分から立候補するほどの読書好きだった。

 ホラー、ミステリー、アクション、技術書、神話など様々なジャンルを読んでいたがその中でも八雲が気に入っていたのは童話集である。

 世界のたくさんの作家が色々な思いを込めて、書き上げられた作品達は八雲にとって宝物のようなものだった。

  そんなある日、八雲の前に一冊の本が置かれていた。

 表紙には何もかかれていない真っ白な本。

 伊織と二人しかいない図書室で誰が置いていったかも分からないものだった。

 八雲は中身を確認するために本に触れると全身に激痛が襲う。

 なにか得体の知れないものが八雲の体の中で這いずりまわり、今にも皮膚を突き破り出てきそうな程の嫌悪感と激痛を与え、八雲の体に馴染んでいく。

 慌てて伊織が駆け寄り、声をかけるが八雲は苦しむ一方で伊織にはなにも出来なかった。

 激しい嫌悪感と痛みに襲われながらも八雲は不思議な感覚が自分の中に入り込む。

 それはまるで自分に欠けていた部分が埋ったかのような安心感だった。

 嫌悪感と痛みが収まると真っ白だった本はほんのり赤く色づき、表紙を捲ると一枚の絵が描かれていた。

 絵本でもお馴染みの『赤ずきん』の主人公である赤ずきんの絵が描かれていたのだ。


 「これは……赤ずきん?」


 ほんの小さな声で八雲は呟く。

 すると今度は本を中心に強烈な光が図書室を照らし出し、八雲と伊織はたまらず目をつぶる。

 やがて光は収まり八雲達が目を開けると、今度は目の前には小さな女の子がいたのだ。

 金の髪の毛に晴れた日の青空のような青い目、体格も相まってくりっとした目や顔つきは小学生程に見えてしまう。


 「き、君は?」 


 八雲は声を震わせて目の前の少女に尋ねる。


 「私は赤ずきん!貴方に力によって呼ばれここに来ました!よろしくお願いしますね!マスター!」


 明るくハキハキと話す赤ずきんに八雲と伊織は呆気にとられる。


 「と、ということは君は俺の異能ってことでいいの?」


 「はい!」


 「す、すごいよ!八雲君!召喚系……しかも人型のなんて初めて見たよ」


 八雲以上に伊織が興奮しなが言う。

 そんな伊織を見て赤ずきんは首を傾げてながら……


 「お姉さんはマスターの恋人なのですか?」


 「ふえぇ!?ち、違うよ!や、八雲君とは幼なじみなだけだよ!」


 伊織は顔を茹で蛸のように真っ赤にして否定する。


 「そうだよ。俺なんかが相手じゃ伊織がかわいそうじゃないか」


 「そ、そういう意味じゃないよ!」


 そんな二人を見て赤ずきんは首を傾げるが、すぐになにかを思い付いたかのような顔をすると嬉しそうに微笑んだ。


 「二人はとっても仲良しさんなんですね!」


 その言葉に八雲と伊織を目を丸くする。


 「ふふ、確かにそうだね。八雲君」


 「うん、そうだね」


 互いに顔を向き合わせた二人は、少し考え笑みをこぼした。

 そんなことから始まった赤ずきんとの出会いは、八雲達の人生を変えていくのであった。

 


     ーーーー・ーーーー

 

 赤ずきんは常日頃から思っていた。

 自分の無力さが悔しいと。

 八雲の異能である彼女に自我はあるのかと問われれば、答えはあるだ。

 異能によって作られた召喚物は大なり小なり召喚者の人格をベースに疑似人格を作られ、その付随する伝承や物語に力と容姿が与えられる。

 赤ずきんは八雲の平和主義な所と赤ずきんとしてその容姿を与えられたのだが、そのせいか彼女はなんの戦闘能力も与えられなかったのだ。

 赤ずきんも最初はそれでいいと思っていた。

 召喚者である八雲とそれに関わる大切な友人達が笑顔でいれるならそれだけで赤ずきんは幸せだった。

 しかし、この島に来てその認識は甘かったということを痛感する。

 元の国にいた時とは違い、たくさんの異能力者のなかで八雲の赤ずきんはあまりに弱かった。

 異能の能力は本人の意思で選ぶことはできない。

 だからこそ、その運用法をこの島で学びで使用していくのだが非力な赤ずきんにできるのは軽いものを運んだり、伝言を伝えたりすることだけである。

 だが携帯電話や車などの発達した現代において赤ずきんの運用できる方法はあまりなかった。

 赤ずきんはどうすればいいか考える。

 どうすれば主人である八雲を守ることができるか。

 そうも考えるが現実ではジョニーやたくさんの人の悪意により八雲は追い詰められていった。

 そしてジョニーは遂に行動を起こす。

 伊織を拉致し、八雲を一方的に痛めつける。

 それをノートに待機していた赤ずきんはただ悔しかった。

 それは八雲も同様だった。


     ーーーー・ーーーー


 「がぁぁあぁぁあ‼」


 八雲が獣染みた声をあげ、上にいるヴェンを振り落とそうとする。

 だが依然としてヴェンは動かない。


 「うるせぇ!」


 八雲の抵抗に苛ついたヴェンは硬化した体で八雲の頭を何度も殴り続ける。

 そう何度も殴っているうちにヴェンの手に赤い液体が付着いた。

 それは八雲の血だった。

 硬化したヴェンの握りこぶしは当たり所によっては尖った石のように鋭く、八雲の頭部を傷付けるには十分であった。


 「おい、とっととそいつ黙らせろよ。萎えるだろ」


 八雲の声を煩わしく思ったジョニーは舌打ちをしながらヴェンに命令する。


 「あぁ、だがよぉ。こいつしつこくて」


 ずっと殴り続けるヴェンは八雲の抵抗の強さに若干引いている。

 ヴェンは喧嘩などで人を痛めつけることに抵抗はない。

 痛めつける時、ある程度痛めたら相手が勝手に諦めてくれるからヴェンはいままでここまでの抵抗をされることはなかったのだ。

 一方、八雲は非力な自分を憎みながら強くなりたいと言うことを強く思っていた。


 「ぃ……織ぃ」


 頭から血をながした絶え絶えになりながらも八雲は声をかける。

 しかし弱った八雲の声はあまりなか細く伊織には届かない。

 赤ずきんもまたノートの中から伊織とマスターである八雲を心配し声をかける。

 しかし、声はノートから外には聞こえずにノートなかで反響する。

 


 「『俺は/私は強くなりたい!!』」


 大切な人を守るため強くなりたいと思っていた二人の思いが重なったのが突如ポケットにいれてあったノートが突然八雲の目の前に現れたのだ。


 「誰でもいい!伊織を……伊織を助ける力を!」


 八雲の声を聞き、ノートは光を放ち、周囲を飲みこんだ。

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