囚われた伊織
アイリスと出会ったその日の放課後、教室で八雲は約束通りキャシー達と一緒にトレーニングする内容を考えていた。
「八雲!体力をつけるにはまず走ることですわ!校庭二十五周は最低でもしますわよ!」
「に、二十五周も!?キャシー、それは流石にそれは無理なんじゃ……」
「人間頑張ればなんでもできますわ!」
「ひぃぃ!!」
八雲が悲鳴をあげていたその頃、伊織は教師に言われ予定より遅れて八雲のところに向かっていた。
「予想外に遅れちゃったし、早く八雲君達の所に急がないと!」
荷物を持って、伊織は校内を駆け抜けるように走る。
すると伊織の前方にある人物が立ちはだかる。
「よぅ、神崎。悪いが今から俺と付き合って貰えるか?」
ジョニーがこれから先はいかせないとばかりに伊織の進行方向を塞ぐ。
「ジョニー君……悪いけど私、今急いでるからまた今度じゃだめかな?」
それに対して伊織はジョニーをあまり苛立たせないように返答し、一歩後ずさる。
「ちっ、とっとと付いてくれば面倒にならなかったのに……おい、ヴェン。やれ」
ジョニーがその言葉をいった瞬間、伊織の後ろから手が伸び、布で口と鼻を塞ぐ。
「っ!?んー!!んー!」
最初は抵抗するも布にはなにやら薬が染み込ませてあったらしく、伊織はすぐに意識を失う。
「さてと……さっさと大型の鞄に詰めて、いつもの場所行くぞ」
「おう、あとはイークが奴をおびきだすだけだな」
「あぁ、その時があいつの最後だ。くくく、今から楽しみだ」
「あぁ、そうだな!はっはっは!」
一方、伊織が来るのを待っていた八雲とキャシー、ダニーは別々に別れ伊織を探していた。
「伊織……一体何処にいるんだ?」
校舎の中を走りながら八雲は呟く。
「おい、氷坂」
探している八雲にイークが声をかける。
「君は……」
ジョニーの取り巻きにいて何度も自身を痛い目に遭わせてきたイークに立ち止まった八雲は一歩下がり、イークの方を向く。
「神崎伊織は俺達が預かった……返してほしければ他の誰にも言わずに俺についてこい。約束を破れはあの女がひどい目に合わせる……男三人が女一人に対してするんだ……どういう意味かわかるだろ?」
「えっ、なんだって!?……わ、わかった。付いていく」
イークの言うことが本当であればそれは取り返しのつかないことになる。
それを危惧した八雲は提案の内容が内容だけにのることにした。
「ふん、決断がはやいことはいいことだ……こっちだ」
そういってイークは歩きだし、八雲もそれに追従する。
学園を出た二人は交通機関を使って繁華街の一角にある路地……昨日、八雲がいじめられていた所だった。
「よぉ、氷坂。昨日ぶりだなぁ」
近くにあるビール瓶を入れる箱に腰かけたジョニーは嬉しそうに声をかける。
その隣にはヴェンがおり、足元には手足を縛られた伊織が眠らされていた。
「伊織!?……これはどういうつもりなんだい?こんなことすれば大事になるよ」
「あぁ、それなら安心しろ。それに関しては処理してくれるやつらがいるから大丈夫だ。だから今から俺達は気兼ねなくお前をこの島から追い出す為に半殺しすることができるのさ。さすがにこの島でも治療できない傷なら本国送還もいけるだろう」
ジョニーはくくくっと嬉しそうに笑う。
「じゃあ、俺達からの餞別だ。いっぱいボコってやるから受け取ってくれよ?おっと、先に言っておくが避けるなよ?避けたらその分、神崎に被害がいくぞ?」
そういいジョニーは八雲を殴り始める。
「ぐっ……」
伊織を人質にとられた八雲はいわれるがまま殴られ続け我慢する。
ジョニーは今まで溜め続けた鬱憤を晴らすかのように腹を顔を腕を背中を何度も何度も執拗に殴り、蹴り続ける。
「なぁ、氷坂ぁ楽しいと思わないか?。咎められることなくここまで殴れるなんて本国でもでそうそうないぜ!」
「ぐっ、思え……ないよ……。こんなことしても……虚しいだけだ……」
「な、なんだと!おい、ヴェン!お前も手伝え!」
「おうよ!」
ヴェンが加わり、八雲に対する暴力はより激しくなる。
「ん……んん?」
あまりの騒動に薬で眠らされていた伊織が目を覚ます。
寝ぼけ眼で周囲の状態をみると場所が学校から繁華街の路地に変わっており、目の前では八雲が、ジョニー達に殴られていた。
「八雲君!?なんで!?……っ、縄が」
「それはただの縄じゃないぞ。俺の『奪力の縄』で作った縄だ。どうだ?力が入らないだろう?」
「うぅ……八雲君!私を置いて逃げて!私なら大丈夫だから!」
「伊……織。そんなこと……」
「させるかぁ!」
ジョニーの渾身の一撃が八雲の顔にヒットする。
「ぐはっ!」
「八雲君!?」
「ちっ、ヴェン。そいつ、お前の力で押さえとけ」
「おう。『体変化・石』」
うつ伏せに倒れている八雲君の背中にヴェンがのし掛かる。
それだけではなく体が石のように固く、ごつごつと硬化していき、その分だけ重量が増していく。
「どうだ?俺の『体変化』は!身体能力強化系でもないやつじゃ絶対抜けられねぇぜ!」
「ぐっ……」
ヴェンの言葉を聴き、八雲は抜け出そうとするがヴェンの言う通りいくら暴れても全く効果がなかった。
「八雲君!」
「神崎……俺の女になって、今起きた事を忘れるならお前だけ解放してやってもいい。どうする?」
ジョニーは地面寝かされている伊織の所までいき、顎に手を添えながら話し掛ける。
「や、やだ……」
両目に涙を溜め、今にも泣きそうな表情で伊織は答える。
「そうか……だったらもう我慢しなくていい……なぁ!!」
「きゃあ!?」
そういうとジョニーは伊織の着ていた上着を無理矢理脱がせ始める。
いきなりことに伊織、八雲だけでなくヴェンやイークも驚いた表情になっていた。
「お、おい。そんなして大丈夫のか!?」
ヴェンが慌ててジョニーに声をかける。
「いいんだよ。どうせ、今してることを神崎にチクられりゃ氷坂を何とかしても俺達はお終いだ。なら口封じを兼ねて心をぐちゃぐちゃに壊して俺達が飼えばいい。あいつらも神崎の事を好きにしていいって言ってたしな」
「そう……だな。ここまでしている以上俺達は後には引けない。だが飼うことに関して俺は興味ない。好きにしろ」
「お前らが決めたなら俺も腹くくるしかねぇのか……ジョニー、終わったら俺にも楽しませろよな!」
「おう。じゃあその分働け」
ジョニー達が話し合い、お互いの共犯関係を認識させる。
イークもその認識はあったが、脳筋で単純なヴェンにはそこをはっきりさせなければ、ヴェンがジョニー達に罪を押し付けて逃げるかもしれなかった。
だがらジョニーは自分を守るためには八雲を排除し、伊織の心を壊すしかないとヴェン達に伝え逃げれなくする。
良心の呵責はあろうが逮捕や粛清を逃れるためにそれしかないと思わせることで自分側に誘導するのは簡単であった。
他にも伊織を好きにできるという発言もヴェンを引き込むことには必要な事だった。
ジョニーほど執着はしていないがヴェンもまた伊織にその類いの視線を向け、劣情を抱いていた。
それを逆手にとり、ジョニーは提案したのだ。
「次はシャツか……」
ジョニーはヴェンがこちら側に巻き込めた事を確認すると振り返り、イークの異能で抵抗できない伊織の制服のシャツを乱暴に破き脱がせる。
「ひぃ、や、やめて……やめて、ください」
「おー、思ったより育ってるんだな」
破られたことで露出した胸にジョニーの視線が向けられる。
小柄で着痩せるするのであまり気付かれていないが伊織は実のところスタイルはよい。
ちなみにそれを知ってるのは小さい頃からずっといる仲の良い幼馴染みの八雲か同姓の友達ぐらいである。
「やめろ!伊織を放せ!」
八雲が言葉を荒げて暴れるも上に乗っているヴェンを跳ねのけることは出来ず動けなかった。
そんな八雲にイラついたのかヴェンが硬化した拳を八雲の頭部に降り下ろす。
「がっ……」
「ぎゃあぎゃあうるせぇんだよ!萎えちまうだろうが!あーあ、俺もはやく味見したいぜ」
「い……おり……」
意識を飛ばしそうになりながらも八雲は伊織の名を呼ぶ。
「お前のヒーローもあんな様だ。これからは俺らのおもちゃとして楽しませてくれよな」
「助けて……八雲君」
瞳に溜まっていた涙が溢れ、恐怖と絶望に染まった表情の伊織が今にも消えそうな小さな声で呟く。
その言葉に八雲の中の何か切れた。