たましいのエース
二回表、本日二度目の守備の時間を迎える。
先発の原上は初回の五失点で完全ノックアウト。もう投げさせることはできない。
てか、誰が投げたところでロックオン相手じゃ歯が立たないんじゃないか?
若干絶望気味にベンチ入り投手を眺める‥‥ん‥‥?
今、なんだかすごい選手がいたような‥‥
カーソルを再度「その選手」に合わせる。
こ、これは‥‥
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「ちょっとタイム。ピッチャー交代だ」
「何?もう先発投手をあきらめるのか?随分と非情な采配だな。仮にもジーニアンツのエースなんだろ、その投手は?現実世界だったら地元のスポーツ新聞の一面を飾れるな」
ここぞとばかりに批判してきやがるな。ほんっと、こいつ嫌な奴!!!
ルナちゃんも口が悪いけど、ルナちゃんは抜群に可愛いから全く問題にはならない。
だけどこいつは何なんだ!?口が悪いにも関わらず、全然可愛くない。全くいいとこないじゃないか。
ははーん。さては、こいつ友達いないな?きっとそうに違いない。
今は学生だからまだいいかもしれんが、社会人になってみろ。休日に遊ぶ友達がいない、仕事で溜め込んだストレスを分かち合う同志がいないというのは冗談抜きで「死」に直結するからな?鬱になって死んでも知らんぞ?
「アンタ、この場面で誰を使うつもりなのよ?このチームには原上以外まともなピッチャーいないんじゃないの?」
ああ、ルナ様の声、癒される‥‥
「ルナちゃん。投手ってのは能力だけで推し量れるものじゃないんだ。一番大事なのは‥‥」
僕は、自分の胸に親指を突き刺して
「ここさ」
どやぁあああああああ!!!
今、最高にかっこよかったんじゃないか!?ルナちゃん、また僕にデレちゃったかな?
「はぁ?意味わかんない。こういう時にふざけるのよくないわよ」
「ご、ごめんなさい…」
すみません、調子に乗ったみたいです…
気を取り直して、「その選手」にカーソルを合わせ、決定ボタンを押す。
出でよっ‥‥!!!ぶるぅうあいずっ‥‥ほわいとっどらごんっ!!!
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
バシッ!!!いちゃい‥‥
「アンタ、何やってんのよっ!!!なによ、このヘボピッチャーは!!!」
「全くだな。もはや、勝つことを諦めて笑いに走るとは。見下げたものだ」
ルナちゃん、化乃川、総スカン。
だが、僕はいたって大真面目だ。この局面を抑えるのはこのピッチャーしかいない。
そう、たましいのエース、田桑しかいないのだっ‥‥!
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田桑はジーニアンツ黄金時代を支えた球界を代表するエースだった。
高校時代からその実力はずば抜けていて、名門LP高校で一年生からエースの座に君臨。5度の甲子園出場、4度の決勝進出、2度の優勝を果たした。
そして、鳴り物入りでジーニアンツへと入団。
プロ20年で173勝。最優秀防御率2回、最高勝率1回、最多奪三振1回などの輝かしい実績を上げた。
しかし、このゲームに収録されているときの田桑は引退間近。全盛期に比べると見る影もない。まさに『田桑の成れの果て』と化している。
球速141キロ
コントロール F スタミナ C
Dカーブ 2
チェンジアップ 1
シュート 1
150キロに迫った速球も、今や、140キロが関の山。
精密機械と評されたコントロールは見る影もなく、数々の打者をキリキリマイさせてきたカーブはもはやションベンカーブと成り下がっている。
しかし、田桑には他の誰よりも強い武器を持っている。
それは、野球に対する深い深い『愛情』だ。
野球に学び、野球に愛されてきた。
その一念がボロボロのこの男を動かしている。
いくら、相手がロックオンだろうと、そんな事は田桑には関係ない。
いつものように、野球に感謝しながら、プレーする。
ただ、それだけなのだから。
『たましいのエース』それが伊達じゃないってことを見せてやる。




