犬ポジ
生意気な後輩の呼び出し。
それは昔から校舎裏(部室裏)と相場が決まっている。
「おい、お前。最近ルナちゃんに可愛がられて調子乗ってんじゃねーのか、ああん?」
「わん!わん!わん!」
「ルナちゃんはなあ、お前みたいな新参犬が近づいていいお人じゃねぇんだ。分をわきまえろ」
「わん!わん!わん!」
「さっきから『わん!わん!わん!わん!』うるせぇ!!!お前ほんとに人の話聞いてんのか?」
「くぅーん‥‥」
「ショボくれた振りしても無駄だぞ。お前みたいに自分が可愛いことを理解してる犬が一番‥‥」
バシッ!!!
いちゃい!?な、なに、なんなの!?
「コラっ、駄犬!!!アンタ、なにこんな所で子犬いじめてんのよ!!!」
「あっ、ルナちゃん!!!違うんだ、これはこの犬に社会でのルールを教えようとして‥‥」
「くぅーん‥‥」
とぼとぼとルナちゃんの元へすり寄る犬。
「ほらっ!アンタのせいでわんちゃんが傷ついちゃったじゃない!かわいそうに‥‥もう、大丈夫よ。変な奴に絡まれて怖かったわよね、よしよし」
頭を撫でられて、ご満悦の犬。
クソ犬がっ!!!僕はわかってるぞ。元気なくした振りして、ただただ可愛がられたいだけなんだろ?
あざとい!あざとすぎる!犬なら何してもいいってのか!?
実は、最近野球部のグラウンドに子犬が入り込んできたのだ。
一日待っても飼い主が現れる気配が一向にないためどうしたもんかと皆で話し合っていたら
「飼い主が現れるまでここで面倒見たらいいんじゃないかしら?」
と、我らが大エースルナ様が言い出したのである。
ルナ様の発言は誰よりも重い。新キャプテンの緑谷ですら「そ、そうっスね‥‥」と拍子を合わせることしか出来ないのだ。完全に部のパワーバランスがルナ様に集中してしまっているのが今の覇王高校野球部なのである。
しかし、僕だけはルナちゃんに噛みついた。
エサ代はどうするのか、糞尿の始末は、散歩は、抜けた毛の掃除は、騒音対策は、新種の狂犬病が部内に蔓延しゾンビ化してしまう可能性は
など、ありとあらゆる材料をもって反対したのだが‥‥
「私が全部やるわよ。それで問題ないでしょ?」
と一蹴された。
まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい!!!
今まで築き上げてきた唯一無二の犬ポジション(犬ポジ)が、素性もよくわからん犬コロに奪われてしまう!
と、危惧していたのだがその不安は見事的中。
最近、ルナちゃんがあの犬にかまけて、あんまり構ってくれないのだ。
だからこうして部室裏に犬を呼び出し、ヤキを入れてやろうと思っていたのだが‥‥
「ル、ルナちゃん!!!あんまり部活中に犬と触れ合うのは良くないと思うんだけどっ!!」
すると、ルナちゃんは露骨に意地悪な顔をして
「ふふん。なに、私がいつどこで犬と遊ぼうがアンタには関係ないでしょ?一体、何の問題があるわけ?」
いや‥‥そりゃ、問題はないんだけどさぁ‥‥
でも、ルナちゃんの犬はもうここにいるわけで‥‥
「まーすたぁ♪なにしてるのですか?」
ルナちゃんから意地悪されて、マゴマゴしていると小梅がぽてぽて僕のもとに寄ってきた。
「チッ‥‥‥‥‥‥」
あれ?なんかルナちゃんの機嫌が明らかに悪くなったような‥‥
「さあ、行きましょう。あんな、へ・ん・た・い、ロリコン野郎は放っといて!!!」
「わん!わん!わん!」
「あっ!ちょっと、待って!!!ルナちゃあああん!!!」
必死の呼び掛けもむなしく、ルナちゃんとクソ犬は行ってしまった。
ガクッ‥‥
「ますたー?どしたのですか??」
もはや、殺るしかないか‥‥
崇拝する◯原基夫も言っていた。
『ひとつぶんの陽だまりにふたつはちょっと入れない』
ルナちゃんの犬は、僕だけで、十分だ。




