奇才の閃き
なし崩し的に変木の特訓に付き合うことになったが、僕としては断固としてこの勝負、変木には勝って欲しくない。
勝って欲しくは決してないのだが‥‥この勝負あまりにも変木が不利だ。
プロ野球で考えた場合、球界を代表するようなエースであっても被打率は1割後半から2割程。
なので、10打席連続で抑えるというのはそういうピッチャーであっても相当に難しい。
いくら小梅のミートがFだとしても、10打席全部甘い球だけに狙いを絞っていけば一本くらいはヒットを打てるだろう。その場合、変木は10打席中一度も甘い球を投げることが出来ないということになる。
通常であれば、コースの厳しさ以外にも緩急差で打者を打ち取るということも出来るのだが、あいにく変木はスローカーブしか投げないためその戦法はとれない。
まさに八方塞がり。10打席連続で抑えるのは、現状の変木では奇跡でも起こらない限り難しい。
「変木さん、勝算はあるんですか?」
変木はニヤッと不適な笑みを浮かべながら
「いいか、尾間加瀬。勝算があるから戦うんじゃねーんだ。いくら勝率が低くてもそれはゼロじゃねえ。100回挑戦したら99回負けるかもしれねぇが、裏を返せば必ず1回は勝てる。その1回をここ一番で持ってこれるかどうか。ただ、それだけの話だろ?」
本当にこの人は‥‥無駄に格好いいな。思わず、応援したくなってしまう。
まぁ、僕が特訓に付き合ったところで変木の不利は変わらない。
それよりも変木と特訓することによって得られる変化球経験点に物凄く魅力を感じる‥‥
まぁ‥‥普通に考えて小梅が勝つだろ、10打席もあるんだしな。だから今回は変木の特訓に付き合ってガッポリ経験点を頂くとしよう。もともとそのために変木をストーキングしてたんだからな。
小梅‥‥信じてるぞ。
そもそも、お前が考えナシに悪ノリしたのが悪いんだからな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ピュイーーーン‥‥ククッ!!!
バシーーーン!!!
「うーん‥‥やっぱり、何か‥‥何かが足りないんだよな」
しきりに首を捻る変木
「そうなんですか。変化量の大きい良いカーブだと思いますが‥‥」
「そんなことはわかってんだ。でも所詮『良いカーブ』どまりなんだよ。必殺になり得てねぇんだ。尾間加瀬、見ていて何か気付くことはないか?」
うーん‥‥やはりカーブひとつで抑えるってこと自体に問題があると思うんだが。
今のカーブでも、ストレートと組み合わせれば普通に通用するだろうに。
「そもそもなんですが、カーブは球速が遅いので、それひとつで抑えるってのは無理があると思いますよ。基本的に遅い球ほどボールを見る時間が多くとれるので打ちやすいんです。遅い球が輝くのは、速いストレートがあればこそ。緩急差なしに打者を打ち取るのは中々難しいですよ」
「うるせぇな!!!んなこたぁわかってんだよ!それじゃ普通すぎてつまんねーじゃねぇか!同じこと何回も言わせんじゃねえ!!!」
えええええええ!?意見を求められたから答えたのに、なんでこんな言い方されなアカンの?理不尽やわぁ‥‥
「いや‥‥でも、ちょっと待てよ」
そう言って考え込みはじめた。
どした?何か思い付いたのかね?
「これなら‥‥いけるかもしれねぇな。いや、イケる!絶対イケるぞ!!!」
「ん‥‥?聞かせてもらってもいいですか?」
変木から聞いた話は、正直、荒唐無稽だ。そんな事出来るわけがないし、ただの空想と言わざるを得ない。
だが、忘れてはならないのは、ここが野球ゲームの世界だということだ。
この後、一週間みっちり変化球の特訓した。
血の滲むような努力の結果‥‥最強の変化球が誕生したのである。




