犬宣言
ルナちゃんの部屋はその性格を表したかのように、サッパリとした感じだった。
あまり物がなく必要最低限なもので構成されている。まあ、強いてあげるとすればジュニア用と思われるケージが設置されているくらい。
でも、犬がいるっていうのに凄くいい香りがするのは何でだろう?女の子の部屋って、そういうもんなの?
「ルナちゃんの部屋はあまり物がないんだね。これまでもらってきた野球の賞状とかトロフィーとかは飾ってないんだ?」
「そんなもん飾ってどうすんのよ?掃除するときも邪魔だし、まとめて物置にしまってあるわ。」
サバサバしてんなあ。でも、普段サバサバしてるからこそ、たまに見せるデレにやられちゃうんだよなあ。計算してやってるわけではないと思うけど。ほんとに、ツンデレの鏡だよ、この子は。世の女子達にルナちゃんの爪の垢を煎じて飲ませたいね。
「あ、あのさあ‥‥」
ルナちゃんがいきなり顔を赤らめてモジモジし始めた。
ん、なにかなあ?おじさんになあんでも話してごらん?
「何でも言うこと聞いてくれるんでしょ?」
「うん、そうだけど‥‥。なんかしてほしいことある?」
「うん。あのね‥‥」
ルナちゃんは恥じらいながら
「ジュニアと一緒にね、そこのケージに入ってほしいの‥‥」
‥‥‥‥‥‥‥‥はい?今、なんと?
「な、何よ!その顔は!何でも言うこと聞くんでしょ!四の五の言わず早くケージに入って!これは主人からの命令よ!」
まって、全く意図が読めない。何を目的に?なんの理由で?
僕がケージに入ることで何かが起こるのか?
戸惑いながらも、普段ルナちゃんから犬扱いされている習性でそそくさとケージの中に入って体育座りをした。ジュニアを抱き抱えて。うーん、せまい。やはり人が入るもんじゃないぞ、これ。
「‥‥‥‥‥‥‥‥っ!?」
ん、なんかルナちゃんの様子がおかしいぞ?
顔も赤くなってるし‥‥。大丈夫?と声をかけようとした、その瞬間
「か、かかかっ、可愛いいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
‥‥‥‥‥‥え?
「オマリーとジュニアが一緒にいるわ!?こんな瞬間が訪れるなんて夢にも思わなかった!!!そうだ、写真!写真撮らなくちゃ!」
パシャ!パシャ!パシャ!
ちょっ、写メ、写メやめてください!
やばい‥‥。ルナ様が、壊れた。
「あ、あの‥‥ルナちゃん?僕はオマリーじゃないんだけど‥‥。」
「そ、そんな事知ってるわよっ!ちゃんと‥‥解ってるわ。でも、アンタとオマリー、すごく重なるから‥‥その‥‥。」
いきなり、シュン‥‥としてしまった。
そうか、僕に死んだオマリーの姿を投影していたのか。普段、僕を犬扱いするのはそういう所から来ていたんだな。
なるほど。全て理解した。
そして、全てを理解した上でこう言おう。
ルナちゃん。君に悲しい顔は、似合わやっ!?
やべ、噛んだ。
「ルナちゃん!」
ケージの中から呼び掛ける。無論、ジュニアを抱いたままで。
「な、何よ?」
「僕はオマリーじゃないけど、それでルナちゃんが元気でいてくれるなら、僕はルナちゃんの犬でいいよ。」
「えっ‥‥!?」
まあ、今までも犬扱いされてきた訳だしな。非公式の犬扱いから、正式な犬になるだけだろ?些末なことさ。
「オマリーの代わりが務まるかどうかはわからないけど、これからもよろしくね!」
尾間加瀬、渾身の犬宣言。これは、ルナちゃんも喜んでくれるかな?
「グスッ‥‥」
えっ‥‥‥‥?
もしかして、ルナちゃん、泣いてる?
「あ、あの‥‥ルナちゃん?」
「わ、私トイレ行ってくるからっ!!!」
ダッダッダッダッ、バタン!!!
行ってしまった。これは‥‥どういう反応なんだ?
「なあ、ジュニア。お前はどう思う?」
「クーン‥‥」
ケージ内でジュニアと一緒に考え込んでいるとポケット中のケータイが振動し始めた。
「もしもし?」
『もしもし!尾間加瀬殿でごさるか!?今どこにいるでござるか!!!』
なんだ、只野か。しかし、さすがにルナちゃんの家、それも犬用のケージの中とは言えない。あらぬ誤解を生んでしまう。
「い、いや、適当に街を歩いてるだけだけど‥‥どうした?何かあったのか?」
『決勝の相手が決まったでござるよ!』
胸がドキン!と高鳴った。何か嫌な予感がする‥‥。
『決勝の相手は‥‥‥‥‥‥泡沫の夢高校でござる!!!』
ウタカタノユメ?なんだ、その高校は
聞いたこともないぞ‥‥




