飼い主のつとめ
ノーアウトランナー2、3塁。一打同点、長打が出れば逆転の場面。
セオリーで言えば、次の5番打者を敬遠し満塁にする。その次の6番打者で勝負。最高のパターンはホームゲッツーを取ることだ。
「5番、レフト、中根くん。背番号7」
キャッチャーの米野がタイムをかけ、マウンドへ向かう。
「赤藤。5番は敬遠して塁を埋めよう。6番打者でホームゲッツーを‥‥」
「嫌よ。」
「‥‥は?嫌ってどういうことだよ?じゃあ他にどうするって‥‥」
「ああああああ!もう、うっさいわね。このピンチは私が何とかするって言ってるのよ。アンタは黙って私の球を受けてれば良いの。正捕手なら少しはエースの事信用したら?」
「‥‥‥‥チッ。てめぇ、少し速い球が投げられるからって調子にのるなよ。‥‥まあ、いい。この場はお前のわがままに乗ってやる。ただ、もしこれで打たれたら引退する3年生の先輩に土下座して謝れよ。」
「はい、はい。土下座でもなんでもするわよ。これで話しは終わりね。さっさとキャッチャーボックスに戻りなさい。」
遠くからでわからんが、ルナちゃんと米野、何やら揉めてるのか?
しかも、キャッチャーが立ち上がる気配がない。もしかして、勝負するって事か?
この場面で勝負ってことはよっぽどこの打者を抑える自信があるってことだろう。まあ、ルナちゃんらしいと言えばルナちゃんらしいか。
マウンド上のルナちゃん。セットポジションから‥‥ではなく、
え、振りかぶった!?そして、ムチのようにしなる左腕から白球が放たれた。
ギュイーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!
相手バッターバントの構え!?
初球スクイズだ!!!
しかし‥‥
「クッ‥‥なんじゃこりゃ!はえぇ!?しかも球が今まで以上にホップして‥‥!」
キーン!
打球はピッチャーの真上へ上がる小フライ。
ランナー慌てて帰塁。ワンナウト。
しっかし、今ルナちゃん全く慌ててなかったな。バントを処理しようとする素振りすらなかったぞ。やれるもんならやってみなさい?って感じ。しかし、今の球やけに速かったような‥‥?
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
球場から歓声が上がる。
ん?どした?観客の視線がスコアボードに集まってる。
どれどれ、ちょっとみてみよか。
球速表示 153キロ
ええええええええええええええええええええええええ!!!
ひゃっ、ひゃくごじゅうさんきろ!?
速いよ!?速すぎるよ!?
ちなみに、現実世界の高校一年生最速記録は148キロだ。
それを、まさか5キロも上回るとは‥‥しかも、ルナちゃんはサウスポーだぞ。
しかし、おかしい。
熱プロでは、一年生時のルナちゃんの最速は150キロだ。三年生になれば155キロまで上がるが‥‥。おかしい、ルナちゃんの成長が速すぎる。一体、何が原因で‥‥?
「6番、セカンド、正田くん。背番号4」
ルナ様、マウンドで打者を睨み付ける。相手打者もさっきの球速表示も相まってちょっと気圧されてる感じだ。
またもや、大きく振りかぶって‥‥
バシーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!
ストライク!
バシーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!
ストライク!
ギュイーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!
「クソッ、なめるなああああああああああ!!!」
バッター、凄まじい勢いで放たれるルナティックミサイルを強振するが‥‥
バシーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!
ストライク!バッターアウト!
やばい、完全にルナ様無双だ。
圧巻の三球三振。全盛期の◯川球児を見ているようだ。
球がえげつないくらいホップしてる。こりゃ、打てんわ。
「7番、サード、川合くん。背番号5」
「負けるわけにはいかないのよ。」
バシーーーーーーーーーーーーーン!!!
ストライク!
「ここでもし同点に追い付かれたら、あの犬が責任感じちゃうでしょ?」
バシーーーーーーーーーーーーーン!!!
ストライク!!!
「飼い犬を守るのも、飼い主のつとめ、なんだから。」
ギュイーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!
「ど真ん中だと!?なめんなああああああああ!!!」
ヤバイ、コースが甘いぞ!?
いくら150キロ越えとは言え、こんな甘いコースじゃ‥‥
グン!!!
バットとボールが当たる寸前、球が急激にホップ。
バッターを嘲笑うかのように‥‥
バシーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!
ストライク!バッターアウト!!!
ゲームセット!!!




